温暖化で病気増加? 感染症拡大 疑問の声
「地球温暖化は人間の健康に深刻な影響をもた らす」。環境省のパンフレット「STOP THE 温 暖化」はこう警鐘を鳴らす。熱波などによる熱中 症に加え、病原体を媒介する動物の成育域が拡 大し、マラリアやデング熱などの病気が増えるた めだという。「環境問題のウソ」などの著書がある 早稲田大の池田清彦教授(理論生物学)は「温 暖化になれば即マラリアやデング熱がはやるというのは間違い。歴 史的にも、マラリアはインフラ整備が進めばほぼ起きない。音頭は関 係ない」と批判する。
もめたIPCC
地球温暖化について評価する国際機関「気候変動に関する政府間 パネル」(IPCC)が2001年に第3次評価報告書をまとめた際も、温 暖化による感染症の流行をめぐり、もめたことがある。報告書作りに 参加したマラリア研究の第一人者が「マラリアが起きるかどうか分か らない」と書いたところ、「起きる」ように記述が変更された。研究者は 報告書から自分の名を外すよう求めたという。温暖化と感染症の関係 について、海外の研究者からも疑問の声が上がる。米国の気象学者 S・フレッド・シンガ-らは著書「地球温暖化は止まらない」で、「マラリ アの最悪の拡大は1920年代にロシアで起ったもの」と気温と無関係 なことを紹介。各種統計を基に「むしろ寒さのほうが、厚い気候の2倍 も健康にとっては危険」と断じている。
絶滅論に異議も
一方、IPCCは「温暖化で多くの生物種が絶滅する恐れがある」と 主張する。池田教授は「温暖化すれば確かにチョウなど北上してく る昆虫も多くなる。放っておけば今そこにいる種にとって生息環境の 悪化になる。ただ、既存種をそのまま保護すれば良いという考えは どうなのか」と疑問を投げかける。「例えばタイワンザルとニホンザル の交配を『遺伝子汚染』として騒ぐ人がいる。しかし、生物にとっては 狭い地域の個体群で交配するより、よその個体と混血した方が遺伝 的多様性が増大され、生き残る確立が高まるのではないか」国立環 境研究所地球環境研究センタ-(茨城県つくば市)は「温暖化により 暑さに弱い生物の一部は滅ぶか゛、代わり増える種もあり、進化も起 る。生物的に考えれば正しい」と池田教授の説を認める。ただ、「実 際には、この説と裏腹に地球上の生物は急速に数を減らしている」と みている。池田教授は言う。「環境問題は人によって議論百出。石油 資源の枯渇が見えており、将来的な温暖化シミュレ-ションだってど んな数字を入れるかで、変わってくる。本当のところ、100年後の気 候がどうなるかは、だれも分からない」温暖化一つとってもさまざまな 考え方があるのは事実。不透明な部分があるからこそ、さらに、議論 を深めてゆく努力が必要ではないだろうか。
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