ジャン=マリ-・シュヴァリエ著(フランス・パリ大教授、同校エネル ギ-・資源地政学研究センタ-所長、著書に「石油危機時代」な ど。)評・松井賢一・龍谷大名誉教授
<戦い>を考察教訓示す
世界エネルギー市場―石油・天然ガス・電気・原子力・新エネルギー・地球環境をめぐる21世紀の経済戦争 価格:¥ 2,730(税込) 発売日:2007-08 |
第一次石油危機以前は、エネルギ-という言葉自体一般に使われて いなかった。しかし、今や誰もがエネルギ-問題を口にするようになった。 ただ、その多くはマスコミが垂れ流す表面的な言説の受け売りである。 エネルギ-問題は複雑かつきわめて重要な問題であり、論ずるにはそ れなりの知識と世界観が求められる。本書は、そのような期待に応え られる専門家による、本格的なエネルギ-問題の入門・解説書である。 著者は、エネルギ-の世界を本書の原題(エネルギ-をめぐる壮絶な戦 い」)にあるように、激しい戦いの場ととらえ、そ戦いの諸相を歴史的に 考察し、そこから得られる教訓を摘出している。そこでは、イラン・イラク 戦争のような現実の戦いはもとより、中東におけるイギリスとアメリカの 油田の奪い合い、エネルギ-を取引する企業であったエンロン社の倒 産などの、力や戦略的野望の絡み合いによる支配などが分析される。 本書の特徴は以下の三点にまとめられるであろう。
- 第一の点は、エネルギ-問題を、経済理論や、技術論に偏るこ となく、政治的、社会的な考察も含め歴史的、総合的に論じて いることである。読者は、エネルギ-をめぐる壮大なドラマに圧 倒されるであろう。
- 第二は、いわゆる市場万能性を信奉する自由主義経済学を批 判し、規制も重視する考え方をとっていることである。著者は、 市場の役割を過大評価した自由化に対する規制、炭化水素エ ネルギ-や電気の供給の安全確保に関する規制などが必要で あるとする。米英主導の市場原理主義に流されがちな日本に は大切な指摘だと思われる。
- 第三の点は、エネルギ-・経済・環境の調和を達成するために 規制を国際的規模で導入する必要が出てきたという指摘である。
優れたエネルギ-入門書であるとともに、専門家にとってもエネルギ-問 題への重要な情報と視座を与えてくれる書であり、一般の人々、専門家 両者にお勧めしたい。
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