感謝や恨みから育つ思いやりこそが介護 (前沢政次・北大大学院教授)
母の介護―102歳で看取るまで (新潮新書 223) 価格:¥ 714(税込) 発売日:2007-07 |
地域医療の中で介護は難問のひとつである。わが国の介護保険制 度は2000年にスタ-トした。介護の社会化、自立支援など理想が 語られたが、現実との間には大きな乖離がある。コムスン事件が起 きた。国は福祉産業を奨励し、民間企業に期待を寄せた。そこには 営利企業と非営利団体の区別はない。利潤追求が過ぎれば、行政 を欺くことばかりではない。雇用者に無理な労働を強い、賃金は安く 抑える企業も出てくる。利用者は不在である。そのためか、介護保 険は、介護会社を性悪説で悪人であることを前提に、規則を厳しくし ている。営利企業がいくらでも利益を吸い上げる可能性があるからだ。 介護担当者は善意で働いている方がほとんどなのに、国の規制は 本末転倒の点が少なくない。現場は利用者も介護担当者もとまどう。 介護が商品化してしまうと、一番大切なこころが犠牲になりやすい。 介護の体験をつづった本がたくさん書店に並んでいる。坪内ミキ子 「母の介護-102歳で看取るまで」は、介護保険制度以前の介護 の様子、入院生活、介護保険後の状態が読み取れる。介護は地獄 のようであるが、内容の多くが両親の思い出語りであることで救われ る。本来のケアは対象者の歴史や苦労物語をよく知った人によって 担われるべきなのだ。感謝に結びつく思い出もあれば、うらみつらみ に通じてしまう追憶もある。複雑な思いの中から、思いやりのこころは 育てられる。
鎌田實のしあわせ介護―苦しみを喜びに変える33のヒント (シリーズCura) 価格:¥ 1,365(税込) 発売日:2007-07 |
「人が人を支えるとはどんなことか。生きる力とは、何によってもたら されるのか。介護は人間の本質も教えてくける。介護を追及すると、 人間の生き方のヒントが見えてくる」と力説するのは「鎌田實のしあ わせ介護-苦しみを喜びに変える33のヒント」である。がんばらない、 あきらめない鎌田實の自信作である。老い方、死に方の心構えが変 えられれば、虐待も減るだろうなと期待が膨らむ。05年から06年に かけて介護保険制度に大きな変化があった。施設入所者には居住 費、食費が全額自己負担になった。介護予防の名の下にサ-ビス 利用額の抑制が進められた。新設された地域包括支援センタ-は 介護予防プラン作成に大きな労力を費やした。どのような結果がも たらされるか、私たちはしっかりと見きわめなければならない。介護 の社会化には相当な費用が必要だ。重労働、低賃金が続けば介護 の働き手はいなくなる。介護者の献身的奉仕精神と体力にも限界は ある。介護保険料の大幅引き上げか、税金の大量投入か、消費税の 引き上げも間近な問題だ。国民一人一人はこの問題に目を背けては ならないだろう。出費を最小限にするには病気や体力低下の予防が 大切だ。老いてから他人に強いられる予防には無理がある。気付い たその日から生活習慣を見直し、行動したい。
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