貧乏人は医者にかかるな!―医師不足が招く医療崩壊 (集英社新書 413I) 価格:¥ 693(税込) 発売日:2007-10 |
永田 宏著 ながた・ひろし 1959年生まれ。鈴鹿医療科学大教 授。著書に「販売員も知らな医療保険の確率」など。
評・真部 昌子(共立女子短大教授・看護学) この夏、妊婦が医療機関から受け入れを断られ、救急車の中で死 産したというニュ-スが日本中を震撼させた。人命を助けるはずの 病院が、なぜ妊婦の受け入れを断ったのか。その原因の一つに産 科医の不足がある。2004年の産科医数は、10,594人で1,99 4年の7%減。24時間以上の長時間勤務、恒常的な激務に加えて マスコミのバッシングや訴訟数の多さから、今後も産科医は減少し 続ける可能性が高い。医学部を卒業し、国家試験に合格しても直ぐ に一人前の医師としての実務ができるわけではない。医師としての 成長には、先輩医師の指導を受け、経験を積むことが必要である。 経験のある産科医がいない状況では、次世代の産科医の育成もで きないということになる。次世代が育たないということは、悪循環を生 み、10年後、20年後はもっと悲惨な状況になるだろう。本書は、そ の産科医不足の深刻な現状と今後を読み解く恰好の新書である。 現在、産科や小児科の医師不足が叫ばれているが、厚生労働省の デ-タなどから、近い将来、外科や内科、すべての診療科の医師が 不足するということを明確に説いている。医師不足の原因、日本が 採り得る医師不足対策、医師不足時代を生きるにはなど興味深い 章立てにしながら、医師不足の現状と原因を分析し、警鐘を鳴らす のだ。これまで、日本は国民皆保険制度という強い基盤の下、医療 に関しては危機感を抱くことはあまりなかった。ましてや医師不足な ど起るはずがないと信じてきたゆえの盲点である。これには厚労省 の政策の誤りもあるとのことだが、ここ数年、「医療崩壊」「医療の限 界」など医療現場の危機的な状況を訴える著書が増えていることに 気づいている人も多いと思う。それだけ、医療現場は疲弊しているの だ。書名の「貧乏人は医者にかかるな」は、今後の日本の医療の方 向がアメリカ流金持ち優先型になった場合には、一般庶民はこれま でのように病院へ行けなくなるという意味である。
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