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クリエイティブ・クラスの世紀 価格:¥ 2,520(税込) 発売日:2007-04-06 |
鷹城 宏(評論家)解説
R・フロリダの「The Rise of the Creative Class」は2002年に 刊行されて以来、わが国でも都市再生政索の観点から話題にのぼ ることが多い。フロリダが名づけるところの「創造階級(クリエイティブ・ クラス)」とは、コンピュ-タ・数学、建築・エンジニア、科学、教育等 等に携わる専門職から構成され、こうした人材が集積する地域が活 性化すると彼は考える。そうした主張だけならば、情報社会やハイテ ク経済を説く従来の論とさして変わらないが、フロリダ説の特色は、 芸術家やデザイナ-、あるいは料理人や美容師の手技(スキル)に も、等しく創造性の発露を見るところだろう。さらに今後の経済発展に は、技術(technology)、才能(talent)に加えて、多様な価値観を 許容する寛容性(tolerance)が欠かせないと主張し、それらの「3T」 に富んだ都市こそが成長すると分析している。一方、創造階級の勃 興を言祝ぐフロリダ説にエリ-ト主義を嗅ぎとりこれを批判する向きも ある。フロリダ初の邦訳となる本書「クリエイティブ・クラスの世紀」は、 自説に寄せられた、かかる批判に対する反論としての性格を持つ。 もっともその著者自身にしてからが作中で、格差拡大はクリエイティブ 経済の副産物であると認めてはいる。加茂利男の言葉を借りれば「フ ロリダの考え方にはボヘミアンやゲイ容認のリベラルな風土が創造 階級を生むという『文化的ラディカリズム』が顔を覗かせるかと思えば、 市場競争を重視する経済的保守主義のト-ンも並存している」気配 なのだ(佐々木雅幸+総合研究開発機構「創造都市への展望」、 学芸出版社)。
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情報環境論集―東浩紀コレクションS (講談社BOX) (講談社BOX) 価格:¥ 1,680(税込) 発売日:2007-08-02 |
東浩紀の「情報環境論集」を読んでいて、米国西海岸に由来するハ ッカ-文化を評したくだりに似たような二面性を感じた。「ハッカ-た ちは、プログラミングのような専門技術の習得に大きな価値をおくが、 同時にその技術は大衆と共有すべきものだと考えている。また彼ら は、コンピュ-タの普及が従来の権力や社会体制を破壊するものだ と信じながらも、同時に金銭的な成功を追及している」。東は、選良 主義にして大衆主義、反体制にして資本主義的という相矛盾する 価値観の両立を、ポストモダンの基底に見いだす。「情報技術の進 歩は、私たちに自由を与えてくれるものであると同時に、また私たち から自由を奪うものでもある」。東の現代社会論は徹頭徹尾、現代 社会を覆うこうした逆説(パラドックス)に貫かれている。そして、この 逆説を解消する手段は容易に見つからない。私自身は、寛容性に由 来する創造性が都市を活性化するというフロリダの議論には大きな共 感を覚えている。ただし、それが地方都市を元気にするためのアイデ ィアとして重宝されるかたわらで、格差社会の加速へと繋がりかねな い傾きも兼ね備えることには自覚てきでありたいと思う。
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