いわむら・のぶこ 1953年、檜山管内江差町生まれ。著書に 「変わる家族 変わる食卓」など。
普通の家族がいちばん怖い―徹底調査!破滅する日本の食卓 価格:¥ 1,575(税込) 発売日:2007-10 |
評・野田 正彰(精神科医)
夕暮れのどこかの住宅街へ迷い込み、どの家もどの家も寄港したば かりの客船のように輝いているのに、驚かされることがある。住宅の イルミネ-ション(電飾)が、あちこちの街で流行しているようだ。本 書はイルミネ-ション化する家庭、イルミネ-ション化する人格につ いて、クリスマスと正月の食卓の調査から述べている。主婦達たちは ウキウキ、ワクワク楽しめるクリスマス気分に向かって、わが家を飾り たてる。子どもが中高生になっても、サンタクロ-スを装ってプレゼン トを続け、「サンタクロ-スを信じる子は夢のある子」「信じているうち は、ウチの子は大丈夫」と思い込んでいる。もしもウチの子が子どもじ みた喜びを見せなくなると、「つまらない」「イマイチ(私が)盛り上がら ない」と感じる。しかしイルミネ-ションしている家の方が、親子一緒に クリスマスの食事をする率も、主婦が料理を作る率も低い。つまり他 人の目に、家族が仲良く幸せそうと映っているかどうか、それにこだ わっているだけである。他方、華やかさに欠ける正月はクリスマスほ ど好まれない。四十歳を過ぎても夫の家か実家へ行き、お雑煮を食 べさせてもらい、お年玉をもらったりしている。そんな主婦たちに正月 などの行事の意義について尋ねると、「今の時代、こうしてあえて意 識して、意識して、努力して伝えていかないと伝統は守れない気が するんです」と答える。実際にしていることと、「考え」とがあまりにも 遊離し分裂している。彼女たちの「考え」なるものは、皆が言うであろ う「考え」でしかない。だがその矛盾に気付かない。首都圏223世帯 の調査から、中高生になる子どもに「現実」より「夢」を見続けさせた がる母親たちは、自分自身も現実を正しく見つめない人であったかも しれない、と結んでいる。精神科の臨床や少年非行から見える親や 家族関係と、食卓の分析から見えてくる家族像がまったく同じである のに、私は感心する。
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