徹底的な無意味さに脱帽 評論家 阿部 幸弘
![]() |
星降る夜は千の眼を持つ (BEAM COMIX) 価格:¥ 1,449(税込) 発売日:2007-11-26 |
今回のイチオシは、ウエケンこと上野顕太郎の「星降る夜は千の眼 を持つ」だ。この本にはギャグマンガ家の魂が宿っている!-などと 書くと大げさに響くだろうか。だが、たかがマンガ、されどマンガ。思 いっきり無意味なこともここまで徹底されると、もう、笑いながら脱帽 するほかはない。ある時は、いろいろな<マンガの描き方>の本を 紹介しながら、「マンガの描き方の書き方」についてウンチクを広げて みたり、またある時は、マンガに関するささいな小ネタを、やたらに狭 く深く調べてこだわってみたり、さらには歴代のギャグ漫画家を、水木 しげるの妖怪図鑑に模して珍獣のごとく紹介してみたり、呉智英のマ ンガ評論に対して、文章でなくマンガで評論返しを描いてみたり・・・。 まあ、なんとさまざまにアイデアがあることよ。しかも、いちいち飼料 をそろえたり情報を整理するのが大変そうなのに、喜々としてやって いる(?)ように見える。本来、ギャグの作家は、自分が描いている 作品の形式そのものを(ついつい)もてあぞぶものだ。いやそれこそ が身上とさえ、言えるかもしれない。ゆえに、実は王道を行くウエケン。 ゆっくり味わいたい娯楽大作だ(ぶ厚くて読み応えアリ)。
![]() |
どんぐりの家それから (ビッグコミックススペシャル) 価格:¥ 1,000(税込) 発売日:2007-10 |
こだわりの人という意味では、山本おさむも負けていない。聴覚障害 者の生き方を描き始めてからの彼は、一途というほかはない。決して 器用とは言えないその絵柄や語り口も、長年一つのテ-マに真摯に こだわると、むしろ誠実さとして立ち現れてくる。新刊「どんぐりの家~ それから~」は、聴覚障害者のための老人ホ-ム建設運動や、授産 所の実態などを描く。ぜひ本書後半まで読んでほしい。障害者自立支 援法がいかに障害者の自立をはばんでいるか、その実態がドラマとし てリポ-トされている。社会に目を向けるマンガ家も必要だ。
![]() |
きまぐれな輝き 価格:¥ 1,155(税込) 発売日:2007-11 |
川崎タカオの初単行本「きまぐれな輝き」には、近ごろ珍しく男の純 情が描かれている・・・ただしギャグとして。それでも一抹の切なさが 漂っているのが、救いのようなむしろこっけいなような。ある評者が、 川崎ゆきおの「猟奇王」の系譜を指摘していたが、なるほど、<ダン ディ-さゆえの情けなさ>はたしかに共通項だ。
![]() |
不安の種+ 1 (1) (少年チャンピオン・コミックス) 価格:¥ 420(税込) 発売日:2007-07-06 |
![]() |
不安の種+ 2 (2) (少年チャンピオン・コミックス) 価格:¥ 420(税込) 発売日:2007-12-07 |
一発ギャグならぬ、一発ホラ-を詰め込んだ、中山昌亮の「不安の 種+」。二巻目も好調で、何も考えず楽しめる。子供のころ、こんな 恐怖話ばかりしていた日のことを、誰もが思い出しそう。
![]() |
僕とポーク 価格:¥ 1,000(税込) 発売日:2007-12-06 |
ほしよりこの新刊「僕とポ-ク」は、残念ながら筆者には期待はずれ だつた。「猫村さん」の方が圧倒的に面白い。ただ、例のかそけき絵 柄には相変わらず癒される。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます