現代よりドライで凶暴=評・吉田 司(ノンフィクションライタ-)
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戦前の少年犯罪 価格:¥ 2,205(税込) 発売日:2007-10-25 |
団塊の親たちの経済力が潤沢だった1980年代の少年少女の事件 簿は家族パラサイト型で、いじめの引きこもり自殺や家庭内暴力が 多かった。90年代デフレ不況でお小遣いに困った少女たちが路上に 進出し、「援助交際」という新風俗が始まった。つまり不況や下流化が 若者犯罪の増大・凶悪化を招いたってのが、われわれの最近常識だ。 本書はこれに反論する。媛交なんて戦前の流行風俗で少しも新しくな いと、昭和初期から日米開戦期までの子供の犯罪記事を列記する。 「昭和8年 女学校三年生(満15-16歳)らの桃色遊戯グル-プ゜ 『小鳥組』捕縛」「昭和16年 十四歳ら女学生9人が不純異性交遊や 援助交際で全員捕縛」。彼女らはみな中流以上の家庭のお嬢さんば かり。下流社会での不純交遊は当たり前で新聞ネタにならなかったと いう。その他にも親殺し・子殺し・老人殺しのオンパレ-ド。戦前の少 年犯罪の方が現代よりずっとドライ・モ-レツ・凶悪だったと著者は指 摘する。「昭和2年 小学校で九歳の女の子が同級生殺害」「昭和9年 中一(満十二-十三歳)連続通り魔が女性二十七人を切る」「昭和10 年 二十歳のニ-トが『働け』と言われてナタで父親殺し」・・・そして最 後に「貧困ゆえの犯罪はほとんどなく、金持ちの子どもが快楽殺人(中 略)するような事件が多い」と結ぶ。本書のねらいは明白だ-これらの 歴史的デ-タを無視して語られる学者やジャ-ナリストのイマドキの 「キレやすい若者論」への挑戦状だ。そう<貧困や不況が犯罪を生む のではない。拝金主義(金銭の物神性)が異常亢進した時にそれは生 まれる>という資本主義の要諦を本書は想い出させてくれる。文中の 白眉は、2・26事件の首謀者磯部浅一を<陸軍ニ-ト>扱いにし、暗 殺された高橋蔵相らの重臣を「老人ばかり」と呼び、あの事件を戦前最 大の<老人殺しの二-ト犯罪>と分析した著者のシニカルでお茶目な 論理展開の部分だ。
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