万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

共和党化する民主党?-米兵遺族中傷問題

2016年08月04日 15時03分39秒 | 国際政治
タブー犯すトランプ氏、米兵遺族を中傷 共和党内からも批判相次ぐ
 これまで、タフなタカ派的なイメージの共和党に対して、リベラル政党としての民主党には、どこかインテリ風でハト派の反戦的なイメージが付き纏ってきました。実際の歴史を見ますとそうでもないのですが、今般の大統領選挙における両党の舌戦では、双方において思わぬ脱線があり、アメリカの興味深い側面を覗かせています。

 先日も、2004年にイラク戦争で戦死したフマヤン・カーン陸軍大尉の両親であるイスラム系米国人が民主党大会に登壇し、共和党のトランプ氏を批判したことを発端として、米兵遺族中傷問題が起きています。アメリカでは、軍人や遺族を批判してはならないとする不文律のタブーがあり、トランプ氏の反論が、このタブーを犯したと非難されたのです。先の大戦で国に殉じた多くの日本軍将兵が左翼の人々から悪様に非難され、今日でも自衛隊が白眼視されている日本国内の状況と比べますと、遺族からの批判に反論も出来ないほど、左右問わずに徹底されているアメリカのタブーの強さには驚かされますが、とりわけ興味深いのは、イスラム系遺族の側から、”国家に対する犠牲”が問われたことです。

 この問いかけは、国家の為に何ができるかを問うたケネディー演説の事例はあるものの、どちらかと言いますと共和党的な響きがあり、個人主義的でリベラルな人々を支持層とする民主党らしくはありません。おそらく、民主党側としては、イスラム教徒の入国禁止を訴えているトランプ氏への対抗策として、イスラム教徒もまたアメリカに対して尊い命を捧げている実例を示すことで、その論拠を崩そうとしたのでしょう。トランプ氏は、”身を粉にして働くことで雇用を作った”と反論したそうですが、なかなか沈静化するには至っていないようです。

 一連の騒動は、両政党のみならず、イスラム教徒にも少なくない衝撃を与えたはずです。何故ならば、”国家に対する犠牲”の問いかけは、アメリカではなく、イスラム教に対して忠誠を誓い、国民に対してテロを実行するイスラム過激派に対して、国家への忠誠と奉仕の優先を暗に求めているからです。アメリカ大統領選挙は、その論戦を通して、様々な問題を一から再考する機会となっているようにも思えるのです。

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