万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

北方領土問題も常設仲裁裁判所での解決を

2016年08月29日 14時57分33秒 | 国際政治
日ロが北方領土交渉=原田大使「前向きに議論」
 本日の日経新聞には、北方領土問題に関する世論調査の結果が掲載されておりました。おそらく、9月2日の首相訪ロを前に、日本国内の世論の動向を探る目的なのでしょうが、その結果は、「4島すべて返ってくるよう交渉すべきだ」が36%であり、「一部でも返ってくるよう交渉すべきだ」が54%となっています。

 回答率は47.0%であり、回答数は1055件に過ぎませんので、本調査結果が日本国民の世論を正確に反映しているとは言い難いものの、この調査結果には危機感を覚えざるを得ません。仮に、一部返還で妥結するとしますと、プーチン大統領の主張通り、第二次世界大戦の”戦利品”として、日本国がソ連邦に対して領土割譲を認めることになるからです。そもそも、ソ連邦は、日ソ中立条約を一方的に破棄して参戦し、連合国側の一員でありながら、連合国の掲げる領土不拡大の原則にも従わず、戦争の混乱に乗じて周辺諸国を侵略しました。北方領土がソ連邦に占領されたのは、同国の違法行為を原因としているのですから、これを追認したのでは、国際法秩序を蔑にしたも同然です。また、今般、領土問題で、ロシアの違法行為に目を瞑る形で領土割譲を認めますと、違法に占領された状態にある竹島問題でも、韓国側から同じような譲歩・妥結を迫られることでしょう。さらには尖閣諸島に関しても、武力併合を狙う中国に対して誤ったメッセージを送ることにもなりかねません。世論調査で回答を寄せた人々が、北方領土問題の経緯を理解しているのか疑わしいのですが、ロシア側が本調査を利用し、日本国の世論が容認しているとして、二島返還や面積折半といった日本側に不利な提案を持ち掛けないとも限らないのです。国際法秩序が揺らいでいる今の時期に、武力による領土併合を認めることは極めて危険であり、また、同様の問題を抱える国々もありますので、国際社会にも悪影響を与える無責任な行為となりましょう。

 この問題を、筋を通す形で解決するには、やはり、国際司法に委ねるしかないように思えます。北方領土問題は、ソ連邦による日ソ中立条約違反、ヤルタ協定の合法性、サンフランシスコ講和条約の解釈…といった法律問題を含んでいますので、両国政府の合意を要する国際司法裁判所への付託が難しいとしても(尤も、過去にロシア側が司法解決を提案したことがあるらしい…)、常設仲裁裁判所に訴えることはできます。日本国政府は、法の支配の原則を貫く上でも、北方領土問題を国際司法による解決に委ねるべきなのではないでしょうか。たとえロシアが裁定を無視したとしても、国際司法の”お墨付き”は、領有の証明書のようなものなのですから。

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コメント (2)
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