万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ワクチンの安全性議論は政治化してはいけない

2021年07月16日 12時40分31秒 | 日本政治

 報道によりますと、立憲民主党から次期衆議院選挙に立候補を予定している北條智彦氏が、Twitterで新型コロナワクチンに関して誤情報を拡散したとして批判を受けているそうです(「立憲民主号外版」)。既に記事は削除されていますが、この誤情報とは「永久不妊」や「接種者の息や汗からスパイクタンパク質が放出される」というものです。同議員に対するネット上での批判コメントを読みますと、立憲民主党に対して同氏を公認した責任を問うたり、枝野代表に説明責任を求める声も聞かれます。また、立憲民主党を中国産ワクチンを広げたい中国の手先と見たり、与党への攻撃材料を手元に置いておくためにコロナ禍の終息を邪魔しているといった憶測も飛び交っています。いわば、‘政局’として捉えているのですが、ワクチンの安全性に関する問題は、政治化してはならないのではないかと思うのです。

 

 ワクチン不妊説や抗原暴露の問題については、これまでも政府やメディアは誤情報、あるいは、デマとして扱っており、同記事を報じたBuzzFeed Newsでも’ファクト・チェック’を行っています(ファクト・チェックという言葉には、既に一方的な’フェイク認定’というニュアンスが含まれており、ファクト・チェックにかけられて事実として認定された事例は殆どない…)。しかしながら、’ファクト・チェック’による判定とは、前者については’実験結果、データ、報告がない’といったものであり、今後の可能性については触れていません。しかも、因果関係を否定してしまえば、リスクは’ゼロ’と見なすことができます。また、後者についても、臨床試験の「実施計画書」に通常使われている『定型文』の誤訳としています。つまり、ワクチンの体内における作用機序を根拠としてリスクを否定しているのではなく、あくまでも文章上の解釈を問題としているのです。

 

 問題のTwitterの投稿を読みますと、これらのリスクについては’可能性が否定できません’、あるいは、’可能性が示されている’という表現が用いられており、事実として情報を発信しているわけではありません。つまり、リスクを指摘する側もそれを誤りとしてファクト・チェックする側も、双方とも医科学的に立証しているわけではありませんので、不確実性という意味において両者は同列にあると言えましょう。なお、北條氏が、何故、心筋炎や心膜炎の発症といったCDCなどによって既に因果関係が認められており、誤情報やデマと認定できない事象について記載しなかったのか、謎も残ります。

 

 そして、ワクチン不妊説については、ファイザー社からの流出文書によれば、そのリスクは明白です。ファクト・チェックでは、上述した’根拠’を以って否定していますが、永続的かどうかは別としても、「薬物動態試験」の結果、脂質ナノ粒子が卵巣において蓄積されるとすれば、当然に、同臓器において人工mRNAが放出されてスパイク蛋白質が生成されることは疑いようもありません。しかも、同mRNAは分解されにくいように塩基配列が修飾されておりますので、長期的な影響も懸念されます。有害性のレベルについては今後の研究を俟つ必要がありましょうが、リスク・ゼロとは言い切れない状況にあります。

 

 また、「接種者の息や汗からスパイクタンパク質が放出される」とする抗原暴露説についても、こうした説が主張する背景に、ファイザー社やモデルナ社の説明不足があります。何故ならば、体内において生成されたmRNAやスパイク蛋白質が、その後、どのような経緯を辿るのか詳細な代謝や排出に関する機序が説明されていないからです。一先ず、政府もメディアも、両者とも短期的に速やかに分解される、あるいは、体外に排出されると述べていますが、仮に体外に排出されるとすれば、人体の毒素排出の機能からすれば、汗や呼気として排出される可能性も否定はできなくなります。人口mRNAであれ、スパイク蛋白質であれ、それが何らかの有害性を有していれば、人類のみならず、生態系全体にも影響を与えるかもしれません。

 

 そして、こうしたワクチンに関連する議論は、少なくとも医科学的な安全性については全く以って政治とは関係がありません。与党支持者にあってもワクチンの安全性に疑問を持つ人は当然におりますし、与党支持者でも熱烈なワクチン支持者もおりましょう。ワクチン接種に対する態度が政治的対立軸と化してしまいますと、客観的な立場からの議論が歪められてしまい、医薬品としての医科学的安全性とは必ずしも一致しない’政治的安全性’というものが出現してしまいかねません。与野党とも、ワクチンの安全性については科学の領域として立ち入らず、ゆめゆめ政争の具にしてはならないのではないかと思うのです。


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