万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日本国政府は常設仲裁裁判所の活用をー単独提訴でも大丈夫

2016年08月16日 15時17分18秒 | 国際政治
尖閣海域、小康状態に=接続水域4隻、領海ゼロ―中国公船
 尖閣諸島周辺海域では中国公船の活動が続いており、日本側も、厳重な警戒態勢を敷かざるを得ない状況に至っております。昨日も、竹島に韓国の国会議員が上陸しており、領土をめぐる諸外国との対立は地域の不安定化の要因でもありますが、これらの問題は、法の支配の原則に照らし、司法解決が望ましいことは言うまでもありません。

 司法解決については、尖閣諸島については中国側からの提訴の動きはありませんし、竹島については、韓国による不法占拠以来、日本国政府は、国際司法裁判所(ICJ)での解決を訴えてきました。しかしながら、ICJの手続きでは当事国の双方が提訴に合意する必要があり、中国が司法解決を回避し、韓国も拒絶している現状では、ICJでの解決は極めて難しいとしか言いようがなかったのです。ところが、先月12日に南シナ海問題について下された仲裁裁定は、俄かに、一方の当事国による単独提訴に対する関心を高めることとなりました。南シナ海問題では、国連海洋法条約上の手続きに従って常設仲裁裁判所(PCA)がフィリピンによる訴えを受理しましたが、同仲裁裁判所の訴訟手続きを見ますと、他の問題でも単独提訴が可能なようなのです。常設仲裁裁判所では、近年、「仲裁ルール2012」が制定されおり、この手続きでは、提訴に際して当事者双方の合意を条件に付していません。また、領土や境界に関する問題も扱っており(国連海洋法条約のように境界画定等に関する適用除外の宣言を認めていない…)、例えば、2013年に、東チモール共和国が、2002年5月20日に締結されたチモール海条約に違反するとして、オーストラリアを提訴しております。このケースでは、オーストラリアは応訴しておりますが、今般の中国の態度のように、応訴しない場合には、反論権の放棄と見なされるようです(「仲裁ルール2012」第32条)。

 日本国内では、ICJに関心が集中しがちでしたが、中国や韓国といった諸国に対しては、単独提訴可能なPCAの方が遥かに効果的です。否、日本国政府は、平和裏に司法解決できる手段が存在しているのですから、積極的にPCAを活用すべきです。たとえ仲裁裁定が無視されても、日本国側の主張を認める仲裁裁定を得ることは、中国や韓国の主張や行為の違法性を国際社会において明確にすることでもあるのですから(もちろん、この方法は、北方領土問題でも適用可能…)。

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満蒙開拓団集団自決の悲劇ー明るみになった中国の加害性

2016年08月15日 15時37分07秒 | 国際政治
【全国戦没者追悼式】71回目の終戦の日 遺族ら5333人参列 23・2%が戦後生まれに
 昨日の14日の晩に、NHKでは、”NHKスペシャル”として「村民はなぜ満州へ」というタイトルの番組を放送しておりました。NHKの番組編成の方針は、戦前の日本国政府による満州移民政策が、如何に強引であり、如何に国民に対して無責任であったのかを印象付けることにあったようです。

 凡そのストーリーは、戦況悪化により本土から満州への移民が減少したことから、日本国政府は、食糧増産と対ソ防備の必要性から、対象に指定した農村に戸数を割り当て、補助金の支給と引き換えに村民の移住促進政策を国策として推し進め、その結果、満州での集団自決の悲劇に繋がったというものです。

NHKとしては、募集の段階で、”強制連行”や”ノルマ”といった言葉を散りばめて、あたかも政府が、強制的に移民を送り出したかのような印象操作を行っています。しかしながら、取り上げられた長野県の河野村事例では、移民の可否は、農商省等の政策に基づいた村長の決定事項であった、すなわち、拒否もできたようですし、また、結成された開拓団の数も割り当て数も下回っていますので、政府の命令による強制移住ではなかったようです。また、河野村の胡桃澤村長は、村民を熱心に説き伏せた自責の念から戦後に自ら命を絶たれておられます(発見された新資料の一つは胡桃澤村長の日記)。そして驚くべきは、一人だけ生き残って帰国した少年の証言です。それは、ソ連邦の参戦を知った現地中国人の人々が、徴兵によって女性や子供ばかりとなっていた河野村開拓団を襲撃し、開拓団の人々を村落から追い出したため、追い詰められて自害したという集団自決の経緯です。満州並びに朝鮮半島では、ソ連邦の参戦により、ソ連兵と朝鮮の人々に日本人の多くが掠奪に会い、虐殺されたことは既に知られていますが、満州にあっては、地元の中国人までもが、日本人の土地や財産を奪い尽くし、死に追いやっていたのです。一人だけ生き残った少年は、知り合いの中国人に助けられたそうですが、現地では、中国残留孤児で語られる美談ばかりではなかったようなのです。

 番組内では、河野村の開拓団の入植以前にその土地に住んでいたという老齢の中国人も登場し、あたかも、日本国政府が、移民政策により土地を奪ったとする言い方をしておりましたが、どれほどの額であったかは不明なものの、農地の取得は、土地の買収によって行われており、補償金も支払われていたはずです。仮に、満州国にあっても、台湾と同様に平和裏の引揚が実現していれば、集団自決の悲劇は起きなかったことでしょう。NHKは、日本国政府の責任を問うておりますが、この番組では、むしろ、戦後における中国の加害性が浮き彫りにされたのではないかと思うのです。

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ISはオバマ大統領が創った?ー相手を有利にするパワーバランスの変化

2016年08月14日 15時04分08秒 | 国際政治
核先制不使用宣言、困難か=有力閣僚や同盟国反対―米紙
 アメリカでは11月の本選を控え、”暴言王”とも称された共和党のトランプ候補の舌鋒も鋭くなっているようです。先日は、”ISはオバマ大統領が創った”と発言し、全米を驚かせています。

 国際社会の裏側では一般の人々の想像を絶する陰謀が渦巻くために、文字通りに捉える向きもありますが、イラクからの米軍の早期撤退が中東に”力の空白”を生み、ISを蔓延らせる皮肉な結果となったことを揶揄した発言とされています。もっとも、この発言は、パワー・バランスを敵対する相手に有利に変える行為が、直接的ではないにせよ、結果責任を問われることを示唆してもいます。しばしば、平和や国際協調を根拠として、”宥和政策”や”撤退政策”が採られることがありますが、、こうした政策は、ミュンヘンの融和の事例を持ち出すまでもなく、得てしてより望ましくない結果に至るものです、。例えば、日本国憲法の第9条が平和の実現を意図しながら、しばしば批判されるのも、領土的野心を抱く諸国の行動をエスカレートさせる効果があるからです。竹島は韓国に不法占領されたままですし、数多くの日本人が北朝鮮によって拉致されています。尖閣諸島に対する中国の挑発的行動も、憲法第9条の存在と無縁ではないのでしょう。そして、南シナ海における中国の傍若無人な振る舞いは、アメリカをはじめ国際社会が積極的に中国の違法行為の抑制に努めなかった結果とも言えるのです。平和主義者の人々は、自らが自発的に引けば緊張が緩和され、脅威も低減すると考えがちですが、現実には、その逆の場合が多いのです。

 オバマ大統領が検討しているとされる核先制不使用宣言についても、同様のことが言えます。ケリー国務長官や日本国をはじめとした同盟国が反対しているために、実際には見送られる公算が高いそうですが、中国や北朝鮮を利するようでは本末転倒となりましょう。”平和の先取り”こそリスクですので、目の前の現実の脅威に対処してこそ、平和は実現するのではないかと思うのです。

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慰安婦合意の履行ー”蝙蝠外交”破綻の責任は韓国にあり

2016年08月13日 14時16分30秒 | アジア
日韓、10億円使途で合意=医療・介護目的
 報道によりますと、昨年末に日韓で合意された所謂”慰安婦合意”に基づいて、ソウルの少女像の撤去を待つことなく、日本側が、先に10億円を支援財団に拠出するそうです。かくも日本側が譲歩した背景には、昨今の中韓関係の悪化も影響しているようです。

 しかしながら、日本側の合意履行は、一般の日本国民からしますと素直に支持できないのではないでしょうか。何故ならば、そもそも中韓関係悪化の原因を作ったのは、韓国自身であるからです。もとをただしますと、所謂「対日慰安婦糾弾」は、朴政権が、中国の習政権との協力の下で進めてきた虚偽にもとづく対日工作といった側面があり、中韓両国の共同プロジェクトの観がありました。ところが、北朝鮮の核・ミサイル実験を機に、中国が極度に嫌がっていたアメリカのTHAADの韓国への配備が決定されたところから、中韓関係は一気に悪化します。THAAD配備に激怒した中国は、対韓報復にまで及んでおり、良好であった経済関係までも落ち込んでいると伝わります。つまり、韓国が、現在、窮地に陥っているのは、”身から出た錆”なのです。こうした場合、中国にすり寄り、日本国に対して邪険、かつ、敵対的に対応してきた韓国側が、日本国に対して譲歩するのが筋というものです。

 ソウルの少女像の撤去どころか、未だに世界展開している慰安婦像設置運動は止まず、アメリカでも教科書の記述が訂正されていない現状にあって、日本側が韓国に対して先に譲歩する必要があるのでしょうか。基本的に、今般の対慰安婦支援拠出は、戦時中の犯罪被害者に対する人道的な救済措置なのでしょうが(直接的な加害者は慰安所の民間事業者…)、”蝙蝠外国”の”つけ”を日本国側が払わされる現状は、あまりに理不尽ではないかと思うのです。

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尖閣危機ー日中漁業協定は怖くない

2016年08月12日 15時42分31秒 | 日本政治
尖閣諸島の接続水域内、中国公船が新たに2隻
 日本国政府の強い抗議にも拘わらず、中国の尖閣諸島に対する挑発的な行為は収まる気配がありません。こうした中、ネット上では、日中漁業協定を挙げて中国を擁護する声も聞かれます。

 1997年11月11日に署名された日中漁業協定が中国擁護論とされる理由は、尖閣諸島周辺を含む北緯27度以南の水域(協定第6条(b))を対象に、同協定に付属する交換書簡の形式で、日中両国が、中国国民に対して日本国側の関連法令を適用する意向がないことを確認し合っていたるからです。日本国側の譲歩ぶりば、尖閣諸島の領有権についても、日本国政府が中国側の言い分を認めたからではないか、と言いたいのでしょう。しかしながら、この措置は、確かに不平等条約的ではあっても、あくまでも、日本が優遇待遇を中国国民に限って特別に認めているだけのことであり、当水域に対する日本国側の管轄権を否定しているものではありません。

 また、北緯27度以南の水域に関して、同協定の対中譲歩については、現在に至るまで両国間の水域の境界線が未確定であり、かつ、当時、沿岸国の間で発生していた大陸棚の境界線とEEZとの重複について、国連海洋法条約における解釈が曖昧であったという事情を考慮する必要があります(日本国政府は、沖縄トラフまでを中国の大陸棚とする中国側の主張に対して、中間線を主張…)。今日では、沿岸国双方からの中間線とする方向で固まりつつありますが、当時にあっては、この問題の先行きは不透明であったのです(日韓漁業協定でも同様の問題がある…)。

 なお、同協定の第14条2では、最初の5年の期間が満了した後では、6か月前に文書による予告を与えることで、双方とも協定を終了させることができます。中国側に有利とされる協定ですから、尖閣諸島に対する中国の挑発的態度に対する対抗策として、日本国政府側から同協定を終了させることも一案なのです。問題含みの日中漁業協定は、中国擁護論者からは日本国政府にとっての”不都合な事実”と見なされておりますが、怖がる必要は全くないと思うのです。

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無法国家中国が靖国参拝を批判する矛盾

2016年08月11日 14時50分41秒 | アジア
今村雅弘復興相が靖国神社を参拝 「戦没者の冥福をお祈りし、国の安寧と繁栄を祈念した」
 先月12日の南シナ海仲裁判決に対する拒絶は、中国が無法国家であることを全世界に向けて自ら宣言したようなものです。そして、国際法を葬り去ろうとする中国の態度は、日本国に対して”侵略国家”と批判する資格をも失うことに他なりません。

 何故ならば、侵略とは、その定義の難しさは別に議論するとしても、国際法なくして成り立たないからです。地球上に国境線が引かれ、領域が法的に保障されるようになるのは、近代以降の国際法の発展を待たなければなりませんでした。近代以前の時代には、中国大陸でも多様な民族が相互に覇を争い、王朝の交代ごとにその版図も著しく変化していました。女真族が建国した清国に至るまで、中国大陸の歴代王朝には、異民族の征服による王朝も多数を数えたのです。当事は、国際法など存在しなかったのですから、力が全てであった、と言えるでしょう。

 ようやく近代国際法が中国に及ぶに至ると、辛亥革命以降は、一先ずは、中国も国際法秩序に参加した素振りを見せます。しかしながら、中国にとって、国際法は自国に都合の良い部分のみに利用価値があり、実際には、形ばかりのポーズに過ぎなかったようです。国際法や国際社会の民族自決の原則からしますと、チベットやウイグルはもとより、満州やモンゴルなどの領域に関しては、戦後は逆に、漢民族が異民族を不当に支配しています。そして今日、中国は、国際法順守のポーズさえも投げ捨てて、公然と国際法を無視するようになりました。中国の行動様式は、前近代の野蛮のままなのです。となりますと、自分自身が国際法を無視している、すなわち、侵略行為を肯定しているのに、中国は、一体、何を根拠として日本国を”侵略国家”として批判できるのでしょうか。

 戦前は、今日ほどには国際法は整備されておらず、漢民族の国家である中華民国が女真族の故地である満州を支配した歴史も実績もなく、戦前の中国大陸は分裂状態にありました。それでもなお、日本国は、サンフランシスコ講和条約第11条において東京裁判を受託し、戦後は、国際法秩序のさらなる発展に貢献しております。中国が仲裁判決を無視したところで、国際社会の側は中国の行為を国際法上の違法行為、即ち、”犯罪”と認定しているのですから、中国は、先ずは目下の自らの侵略行為を止めるべきと思うのです。

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”日中戦争”日本敗北必至論は敗北主義ー全力で手段を尽くすべき

2016年08月10日 14時54分16秒 | 国際政治
中国船領海侵入の実態を公表…政府、異例の対応
 現在、尖閣諸島周辺海域の中国側の侵略的な動きは、日本国政府が看過し得ない段階に至っております。こうした中、仮に日中の間で武力衝突に至った場合、日本敗北は必至とする説も唱えられています。

 日本が必ず敗北するとす予測は、国連等も機能せず、米国が日米同盟を発動させない場合を想定しており、日本国が、やむを得ず単独で中国に対峙するシナリオを想定しております。この件に関しては、米国務省の報道官が、改めて尖閣諸島は日米同盟の対象に含まれると明言しておりますので、それ程高い確率で起きるシナリオではありません。しかしながら、11月の大統領選挙の結果次第では、日本単独での”日中戦争”もあり得ないわけではなく、万が一に備えることは、日本国政府の責任でもあります。日本敗北を必至とする見解では、敗戦した場合、中国との間で”和平交渉”をしなければならないと説いていますが、国際法を敵視する中国のことですから、敗戦国の権利が十分に保障されると期待することは出来ません。尖閣諸島が中国領となるに留まらず、中国側の要求のままに、沖縄はおろか、九州以北までが中国領として併合される可能性もあります。

 第二次世界大戦に際して、満州や朝鮮半島でソ連軍や北朝鮮軍から受けた残酷な仕打ちを思い起こしますと、人民解放軍の兵士が紳士的に振る舞うとも思えません。チベットやグイグルと同様の状態に至ることは、誰もが容易に想像できます。日本敗北必死論者は、”和平”という言葉で誤魔化していますが、その実態は、中国に対する全面降伏と征服の受け入れという敗北主義なのです。これでは、人類は、弱肉強食の野蛮な世界に逆戻りすることとなり、日本国のみならず、中国の魔の手は、やがては他の諸国、否、全世界にも及ぶことでしょう。こうした事態に陥らないためには、日本国は、官民の協力の下で、何らかの対抗策を講じるべきです。

 それでは、どのような対抗手段があるのでしょうか。防衛力の強化は当然のこととして、ここはやはり、中国との経済関係や学術上の協力関係を断ち、中国が戦争遂行に不可欠としてる軍事転用可能な精密機器や電子部品といった製品の輸出、並びに、中国からの製品輸入も止める必要があるのではないでしょうか。理研のレーザー分野に関する共同研究などは、もっての他です。中国と関係が深い日本国の企業も、国家滅亡の危機となれば、経済的利益を優先さ、協力を拒むはずもありません(中国に征服された場合、おそらく、日本企業の資産は全て接収される…)。戦後最大の危機を乗り越えるためには、安易に敗北主義を説くよりも、英知を絞って手段を尽くすよう訴えるべきではないかと思うのです。

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中国は尖閣諸島の領有権を争うなら法廷で

2016年08月09日 15時06分18秒 | 国際政治
中国公船また領海に=接続水域に最多15隻―沖縄・尖閣沖
 尖閣諸島の周辺海域では、連日のように中国公船が領海侵犯を繰り返しており、日中間の緊張は高まる一方です。日本国政府による抗議に対して、中国側は、”釣魚島は中国領”の主張を繰り返すのみであり、あくまでも、自国領として海上警備の管轄権を及ぼそうとしています。

 仮に、中国が、尖閣諸島は歴史的にも法的にも自国領であると主張するならば、この問題の解決は、国際司法の法廷に訴えるのが筋というものです。”自分が欲するものが自分のもの”では、泥棒のメンタリティーと変わりはありません。武力による一方的な現状変更は、国際法でも戒められており、中国の行為は、自らの暴力的侵略性を自らの行為で証明するようなものです。

 この件に関しては、最近、ネット上で発見した記事があります。日本側に不利とされる資料に触れないのはアンフェアなので、敢えて書きますが、それは、70年代末に、在日英国大使館が、本国に対して尖閣諸島の日本領有に対して疑問があるとする公電を打ったとする記事です。イギリスが疑義を抱く根拠として、1846年にイギリスが、尖閣諸島の測量について、中国の福州に設けられていた琉球王国の「琉球館」に対して、清国の福建布政司への申請代行を求めた一件を挙げています。この時、福建布政司は、測量を拒否したものの、イギリスは、勝手に測量したそうです。琉球王国の正史として編纂された『球陽』にも記載されているそうですが、原文に辿りつくことができず、当ネット記事が正確であるのかは不明です。何れにしても、当ネット記事では、この事実を日本国側にとって”不都合な事実”とし、日本領有説が覆されると主張しているのです。琉球王国が、尖閣諸島を清国領とみなしていた証拠として…。しかしながらこの主張には、以下の諸点において反論が可能です。

・当事、イギリスは、尖閣諸島を琉球王国領であると見なしていた(日本国政府の反論でもあるらしい…)。
・福建布政司側が拒否したにもかかわらず、イギリスは測量しており、尖閣諸島に対する清朝による実効支配は成立していない(近代国際法上の先占の要件を清朝は充たしていない)。
・当時の琉球王国は、薩摩藩と清国との二重朝貢関係にあり、外事に関しては、清国に判断を任せた可能性がある。
・女真族の王朝であり、かつ、既に消滅した清国の版図を、そのまま今日の領有権の根拠とすることは出来ない。
・福建布政司が、正確に尖閣諸島の位置を把握していたか疑問である。

  こうした諸点からしますと、尖閣諸島が歴史的に中国領であるとする主張は、「九段線」と同じくらい怪しいのですが、中国が、この一件を根拠にICJといった国際司法機関に訴えるならば、日本国政府は、応訴することでしょう。平和的にこの問題を解決する手段がありながら、敢えて、中国はそれを用いないとなりますと、やはり中国は、国際社会の平和を破壊する”侵略国家”である、と言わざるを得ないのです。

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東シナ海のガス田レーダー設置は国際法違反ー日本国政府は仲裁提訴を

2016年08月08日 15時18分11秒 | 国際政治
中国、東シナ海のガス田にレーダー…軍事利用か
 尖閣諸島の危機が深まる中、東シナ海のガス田においても、中国による軍事拠点化の動きが加速しているそうです。ガス田に不必要なレーダーが設置されていることが確認され、先日、その証拠となる写真が公開されました。

 南シナ海のスプラトリー諸島でも、中国は、ユネスコのプロジェクトを悪用し、純粋な科学調査のための気象観測所の建設を装いつつ、人工島の軍事拠点化を進めました。こうした’騙し’の前例があることから、ガス田の建設と見せかけながら、東シナ海の日中中間線付近を軍事拠点化する可能性も否定はできないのです。

 もっともこの問題に関しては、日本国政府は、フィリピンの提訴と同様に、中国の同意なくして仲裁裁判に付すという選択肢があります。何故ならば、排他的経済水域とは、経済目的に限定して沿岸国に認められた権利であるからです(国連海洋法条約第56条)。中国は、同条約第298条に基づいて境界画定等に関しては強制的な係争解決手続きからの排除を宣言していますが、軍事用レーダー設置の問題であれは、利用目的に関する争いであり、単独で同条約第287条に規定された付属書の仲裁に付すことができるのです(中国EEZ内の資源に対して主権的権利を主張している国は皆無であり、資源の防衛目的という理由も成立しない…)。

 先月12日の仲裁判決に対して無視を決め込むぐらいですから、日本国政府による仲裁提訴も無意味とする反論もあるかもしれませんが、国際司法に判断を仰ぎ、中国の行為を違法とする判決を得ることは、国際社会において自国の主張や今後の行動に正当性を備えることに他なりません。いわば、正義の”お墨付き”を得ることなのですから、日本国政府は、無法国家と化している中国を法の支配に追い込むべく、国際司法制度の積極的活用を推進すべきと思うのです。

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日本国政府は急ぎ尖閣危機への対応を

2016年08月07日 15時21分19秒 | 日本政治
中国海警局の船新たに2隻が尖閣接続水域へ 計9隻 うち2隻が領海侵入
 先月12日の仲裁判決後にあっても、中国の軍事侵略行動は抑制される気配はなく、尖閣諸島の領海に自国の漁船を保護する目的で中国海警局の公船が2隻が侵入したと報じられております。つまり、中国が、自らの管轄権を以って尖閣諸島の領海の海上警備を実施することで、同諸島の支配を既成事実化しようとしているのです。

 中国の尖閣諸島に対する挑発行為は、戦争へと繋がりかねない重大な危機です。日本国政府は、中国に対して厳重注意を行ったものの、”釣魚島は中国領”の一点張りであれば埒があきません。最悪の場合には、大挙して押し寄せた中国漁船が尖閣諸島に接岸し、偽装漁民に占領されないとも限らないのです。この手法は、スプラトリー諸島で既に実施済みであり、フォークランド紛争の発端も偽装民間人による占領でした。仮に、中国が一歩踏み込んだ行動に出るとしますと、日本国政府も当然に防衛権を行使して力で排除することが予想されます。日中間の武力衝突の可能性は否定できないのですから、厳重注意で事足りるはずもなく、何らかの対策を早急に講じるべき局面です。

 第1に、日本国政府は、まずは、中国公船を尖閣諸島領海から排除する必要があります。この作業は、海上保安庁の警備能力を越える場合には、海上自衛隊の艦船が実施すべきです。
 第2に、中国漁船が領海内に侵入し、偽装漁民が上陸しないよう、事前に海上において完全なるブロック体制を構築することです(第1と第2は領海封鎖作戦…)。
 第3に、今後の対応について、同盟国であるアメリカとの協議を急ぐ必要があります。オバマ大統領は、尖閣諸島は日米安保の対象に含まれると明言しておりますので、この問題は、日米対中国の構図となるからです。
 第4に、日本国政府は、国連の加盟国として国連安保理にこの問題を訴えることができます(まずは、同問題の司法解決を訴える…)。現段階であれば、第6章の平和的紛争の解決として扱うことができますので、紛争の当事国となる中国は拒否権を行使することができません。しかし、仮に、実際に侵略されてしまいますと、中国は、国連憲章第7章の問題として拒否権を発動するかもしれず、この場合には、対中包囲網として有志連合を結成し、中国に対し圧力をかけるという対策も検討されます。おそらく、第一段階では、期限付きで撤退を迫り、経済制裁等を課すのでしょうが、最終的には開戦に至る可能性もあります。
 第5に、日本国政府は、国際広報にも努力し、メディア等を通して中国の違法性を国際社会に訴えるべきです。中国が仲裁判決を無視している以上、無法国家の横暴ぶりは明白ですので、日本国政府は、国際世論を味方にすることができるでしょう。
 第6の対応は、現実的な問題として、仮に武力衝突に至った場合の防衛オペレーションの準備です。自衛隊、あるいは、日米合同軍による短期戦による尖閣諸島の奪還が最も望ましいのですが、最悪の場合には、全面戦争を想定した長期戦の準備も怠るわけにはゆきません。

 
 中国側は、尖閣危機は軍拡を目指す日本国によって引き起こされたと主張しておりますが、実際には逆であり、一方的な武力による現状の変更を試み、国際法に基づいた平和的解決方法を拒んでいるのは中国であり、明らかに中国側に非があります。正義は日本国側にあるのですから、国際法秩序を維持するためにも、日本国政府は、侵略行為である中国の拡張主義を決して許してはならないと思うのです。

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日本の非核三原則の堅持ーならば核攻撃を100%防ぐ技術開発を

2016年08月06日 13時57分34秒 | 日本政治
安倍晋三首相「非核三原則を堅持する。日本の核保有あり得ない」「憲法改正は国民的論議を」
 本日8月6日は、人類史上、初めて原子爆弾が広島に投下された日であり、日本国のみならず、全人類にとりまして、悲劇として記憶すべき日でもあります。この世の地獄とも称すべき被爆地の悲惨さは広く知られながら、核兵器の圧倒的な破壊力に魅せられている国も少なくなく、中国は、核ミサイルの照準を日本の都市に合わせ、北朝鮮もまた、核ミサイルの開発に邁進しております。

 核の脅威は年々増すばかりであり、日本国に核の傘を提供してきた同盟国のアメリカでも、大統領選挙でトランプ候補が”日本核武装容認論”を口にしたことから、頼みの核の傘の消滅と核武装の可能性も視野に入ってくることとなりました。こうした中、安倍首相は、稲田防衛大臣の過去の発言との関連から、非核三原則の堅持を表明しております。一昔前であれば、”定例の決まり文句”のように聞こえたのでしょうが、近年の核をめぐる状況の悪化を考慮しますと、国民の中には一抹の不安を覚えた人も少なくなかったはずです。何故ならば、最悪のシナリオでは、アメリカの核の傘が消えた後、中国、あるいは、北朝鮮からの核攻撃により、またもや日本国が第三の被爆地になる可能性があるからです。”唯一の戦争被爆国”であることを理由に非核三原則を掲げたところ無防備となり、再度核攻撃を受けるのでは、これほど愚かしいことはありません。暴力国家に核の先制攻撃のチャンスを与えたのですから。

 如何なる状況下であれ、未来永劫にわたって日本国が非核三原則を堅持する条件があるとすれば、それは、100%核攻撃を防ぐ技術を手にすることです。非核三原則の堅持とは、究極的には、核の抑止力の放棄を意味しますので、核保有に代わるより確実な防衛技術を要するのです。今般、次世代技術として期待されているのが、レーザー兵器やレールガンですが、アメリカでは開発が進められているものの(戦術高エネルギーレーザー等…)、この分野でも、中国がアメリカに迫っています。

 政府は、経済対策として事業費で28兆円余りの財政出動を予定しているそうですが、単に”ばらまく”よりも、防衛力の強化に予算を振り向けた方が国民は安心します。核なき世界への道は、核の無力化の方が近道であるかもしれないと思うのです。

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南シナ海仲裁判決への反応ー迷える中国国民?

2016年08月05日 15時20分49秒 | 国際政治
 南シナ海仲裁判決直後の中国国内の世論を見ますと、当初は、米国製品のボイコットの呼びかけや対フィリピン批判が起きるなど、凡そ政府支持の反応一色であったようです。果たして、中国国民の民意は、どこにあるのでしょうか。

 現実として、非民主国家である中国では、当局により情報が徹底的に統制されており、情報空間には相当数の工作部隊が配置されていますので、ネット上の政府支持の書き込みも、中国国民の真意であるとは限らず、政府が演出した”官製の民意”である可能性も否定はできません。仲裁判決の無視は、自国が”無法国家”と見なされ、国際社会全体を敵に回すことを意味しますので、法的正当性を欠いた自国の立場の弱さは薄々気が付いている国民も少なくないはずです(国民は、政府を批判したくてもできない…)。その一方で、中国国民は、共産主義体制の下で半世紀以上に亘って教育を受けてきており、中華思想も受け継いでいるとしますと、法の支配を理解しているのかどうかは、実のところ、不安な限りです。このため、”中国の夢”の実現のために政府が違法行為を働こうとも、中国国民はこれを容認し、否、積極的に版図拡大を目指した”侵略”を支持するかもしれないのです。

 仮に、南シナ海問題が武力衝突に発展し、中国側が一敗地に塗れたとしますと、中国国民は、どのように対応するのでしょうか。敗戦で言論の自由を得たと仮定しますと、中国国民は、戦争責任は、仲裁判決を無視した習政権にあるとし、自らには責任がないと主張するのでしょうか。それとも、習政権を支持した自分達国民にも責任があると認めるのでしょうか。中国国内の世論が尖閣諸島国有化時と比較して静かなのも、当局による監視も然ることながら、敗戦を予感した上での中国国民の”迷い”も原因しているのかもしれないと思うのです。

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共和党化する民主党?-米兵遺族中傷問題

2016年08月04日 15時03分39秒 | 国際政治
タブー犯すトランプ氏、米兵遺族を中傷 共和党内からも批判相次ぐ
 これまで、タフなタカ派的なイメージの共和党に対して、リベラル政党としての民主党には、どこかインテリ風でハト派の反戦的なイメージが付き纏ってきました。実際の歴史を見ますとそうでもないのですが、今般の大統領選挙における両党の舌戦では、双方において思わぬ脱線があり、アメリカの興味深い側面を覗かせています。

 先日も、2004年にイラク戦争で戦死したフマヤン・カーン陸軍大尉の両親であるイスラム系米国人が民主党大会に登壇し、共和党のトランプ氏を批判したことを発端として、米兵遺族中傷問題が起きています。アメリカでは、軍人や遺族を批判してはならないとする不文律のタブーがあり、トランプ氏の反論が、このタブーを犯したと非難されたのです。先の大戦で国に殉じた多くの日本軍将兵が左翼の人々から悪様に非難され、今日でも自衛隊が白眼視されている日本国内の状況と比べますと、遺族からの批判に反論も出来ないほど、左右問わずに徹底されているアメリカのタブーの強さには驚かされますが、とりわけ興味深いのは、イスラム系遺族の側から、”国家に対する犠牲”が問われたことです。

 この問いかけは、国家の為に何ができるかを問うたケネディー演説の事例はあるものの、どちらかと言いますと共和党的な響きがあり、個人主義的でリベラルな人々を支持層とする民主党らしくはありません。おそらく、民主党側としては、イスラム教徒の入国禁止を訴えているトランプ氏への対抗策として、イスラム教徒もまたアメリカに対して尊い命を捧げている実例を示すことで、その論拠を崩そうとしたのでしょう。トランプ氏は、”身を粉にして働くことで雇用を作った”と反論したそうですが、なかなか沈静化するには至っていないようです。

 一連の騒動は、両政党のみならず、イスラム教徒にも少なくない衝撃を与えたはずです。何故ならば、”国家に対する犠牲”の問いかけは、アメリカではなく、イスラム教に対して忠誠を誓い、国民に対してテロを実行するイスラム過激派に対して、国家への忠誠と奉仕の優先を暗に求めているからです。アメリカ大統領選挙は、その論戦を通して、様々な問題を一から再考する機会となっているようにも思えるのです。

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オバマ大統領の南シナ海仲裁判決初言及は何を意味するのか?

2016年08月03日 15時13分51秒 | 国際政治
オバマ大統領、「南シナ海問題の仲裁裁判所の判決は尊重されるべき」
 7月12日、オランダのハーグに設置されている常設仲裁裁判所において、フィリピンが提訴した南シナ海問題に対する仲裁判決が下されました。奇妙なことに、この歴史的な仲裁判決に対して、オバマ大統領は、何故か、沈黙を守ってきたのです。

 オバマ大統領の沈黙に対しては、様々な憶測を呼んできました。中でも有力な説は、仲裁判決を笠に着て中国を追い詰めたり、必要以上に刺激することを避け、窮地に置かれた中国をサポートするポーズを見せつつ、仲裁判決順守に誘導するというものです。まずは、中国の出方を伺いながら、好意的に静観するという態度です。かなり楽観的な見方であり、おそらく親中派に属する識者の見解なのでしょうが、大統領の異例の沈黙は、中国配慮が滲み出ているようにも見え、この見解にはそれなりの根拠があるのでしょう。

となりますと、逆に、今般、大統領が20日以上に及ぶ沈黙を破り、「南シナ海問題の仲裁裁判所の判決は尊重されるべき」とする発言を行ったことは、一体、何を意味するのでしょうか。新華網の報道によりますと、7月26日から、ニューヨークのタイムズスクエアにおいて”南シナ海は中国の領土”とする宣伝ビデオが登場し、一日120回も再生されているそうです。当ビデオは、中国が仲裁裁判の判決を完全に無視し、なおも「九段線」の主張を堅持する方針を固めたことを意味しています。つまり、大統領の配慮も虚しく、中国は、今後とも南シナ海の領土化を諦めずに軍事拠点化を進めるつもりであり、アメリカ世論をも誘導すべく、反転攻勢に出ているのです。

 オバマ大統領は、平和的は紛争解決を望んでおりますが、司法の原則に照らしても違法判決を受けた行為の継続が許されはずもなく、何らかの対処が必要となります。南シナ海仲裁判決への初言及は、国際社会が、本格的に対中制裁に動き始めるシグナルなのかもしれません。

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SDR建て債の発行は中国の危うさを表わす?

2016年08月02日 15時08分05秒 | 国際政治
中国統計局の7月製造業PMIが50割れ、受注鈍化に洪水追い打ち
 本日の日経新聞の紙面に、中国の国家開発銀行が、IMFが通貨危機への準備として各国に配分している仮想通貨であるSDR建ての債権を発行するとの記事が掲載されておりました。”人民元の国際通貨化への布石”と銘打ってはいますが、SDR建て債権の発行は、むしろ、中国経済の危うさを示唆しているのではないでしょうか。

 昨年、IMFが、中国の人民元をバスケット通貨であるSDRの構成通貨(前構成は米ドル、ユーロ、円、ポンド)に採用することを決定した際には、いよいよ人民元が国際通貨として国際舞台に躍り出たとする評価もありました。一頃には、ロシアと共にSDRの世界単一通貨化を狙っているとも噂され、今般のSDR建て債の発行の記事が目に入った時も、一瞬、中国が早くも”世界中央銀行”の座に手を伸ばしたのかと身構えました。 

 しかしながら、記事の内容を読んでみますと、満期までの期間6か月程度と短く、SDR建て債の”中央銀行券化”にはほど遠いようです。各国に配分されているSDRそのもので売買されるのではなく、その実態は、米ドル建ての債権のようなのです。当記事では、日本のメガバンク3行にも購入を呼び掛けているとしていますが、SDR自身は、政府やIMFが指定した公的金融機関しか保有できませんので、毎日ロンドン市場の正午の為替相場に基づいて算出されている米ドル換算のSDR相場によって取引されるとしか考えようがありません。となりますと、潤沢な外貨準備を有するとする中国の看板には偽りがあり、実際には外貨調達を必要としており、その手段としてSDR建ての債券の発行を計画したと推測できるのです。

 SDR建ての債券の発行は、国家開発銀行の他にも、世銀や中国人民銀行も検討しているそうですが、弱含みの人民元を背景に外貨調達に苦慮した中国が、SDRの信用を利用しようとしているとしますと、SDR建て債の発行は、人民元のさらなる下落をも予感させます。あるいは、今年10月1日からのSDRの構成通貨への参加を前にして、バスケット通貨であった人民元の事実上の”ドル・ペッグ”を停止しなければならず、そのマイナス影響を和らげるために、SDRという別の安定したバスケット通貨の枠組みに寄生しようとしている可能性もあります。そしてそれは同時に、国際準備資産としてのSDR自身の不安定化をも招くのではないかと危惧するのです。

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コメント (2)
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