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『孤笛のかなた』 上橋菜穂子 著 新潮文庫
日本の原風景の空気感というものは(北国限定ですが)自分にも少しわかります。
(風もなく雪が降る時の音とか、冬の早朝の匂いとか…)
あとがきによると著者の上橋さんは東京下町育ちですが、
子供の頃、夏になると母方の実家である野尻湖周辺で過ごしたとありました。
彼女の作品はこれの他は「守り人シリーズ」しか読んでませんが、
時代や場所を設定するとき、日本を意識すると言ってらしたと思います。
いつとも、どことも限定できませんが、日本人なら必ず懐かしいと感じることができる世界。
海外からの翻訳されたファンタジーとは違う、
すうっと情景が心に広がる世界。
これが上橋ファンタジーの素晴らしいところだと思います。
本書は2004年、野間児童文芸賞を受賞した児童文学ですから、
子供のために書かれた作品です。
スト-リーの面白さと疾走感にグイグイ引き込まれます。
この作品全体を覆う空気の匂いや風を、子供たちも十分に味わうことができるでしょう。
しかし、これを懐かしいという感覚を持ち、味わいつくせるのは大人の特権かもしれません。
小夜は12歳。人の心が聞こえる〈聞き耳〉の力を亡き母から受け継いだ。
ある日の夕暮れ、犬に追われる子狐を助けたが、
狐はこの世と神の世の〈あわい〉に棲む霊狐・野火だった。
隣り合う二つの国の争いに巻き込まれ、呪いを避けて森陰屋敷に閉じ込められている少年をめぐり、
小夜と野火の、孤独でけなげな愛が燃え上がる……
ひたすらに、真直ぐに、呪いの彼方へと駆けていく、二つの魂の物語。
(文庫裏表紙より)
呪う者も呪われる者も己が命を削っていく――。
抗いようのない小夜の運命、野火の想い、
最後には自分自身の心に従い己の道を選んだ小夜。
自分の娘たちはすでに児童文学を読む歳ではないのですが、
たまには良質のファンタジーを読んで欲しいところです。
(ライトノベルもコミックも読み応えのある作品はありますが…たまにはね。)
東京育ちの彼女等が読んだら、どの程度共感することが出来るんだろうか。