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非常にジュートクな病状(前篇)

2014-06-22 08:57:00 | 日常

Stethoscope_1.jpg

ある日の午後、そう指定された時刻は確か15時だったろうか。

 

案内されたアイボリー調の四畳半程度の室内は長机と椅子が4脚、

移動式のホワイトボードと掲示板がそれぞれぽつんと置かれただけの

無機質でそれ以外の什器は何もない場所だった。

 

少し前の市民検診で左の肺に影があると判定された母親の追加検査の結果は癌。

幸いその大きさはまだ指先程度であり手術で取り除くのが可能だと診断された。

 

結婚するのを機に実家から出たきりだったが、3年前に車で実家から5分の場所に

建売を購入したのも高血圧と心臓病の父親と二人きりの生活を危惧してのことだ。

 

母親の手術は外科的には一応成功と聞いたものの左肺の約半分を切除となり、

一週間経った今日、主治医から術後の経過と詳細結果の話を聞くために

病院に来ていた。

 

インフォームドコンセントとか言うらしいが一昔前は癌と判っても

本人には伝えないように気を配るみたいな風潮だったのが、

いつの間にか正しく伝えた上で患者にも容態や治療法等に理解を求めるように

なっていたのは意外だった。

 

全てを否定する気はないが重病、難病の患者本人が冷静で客観的な判断が

出来るとはどうしても思えず、それどころか病名を告知されて気落ちするのを思うと

あれは医者の責任を回避する為の方法のひとつではないのかと穿って見てしまう。

 

医者の気持ちも判らなくもない。

欧米並みによく耳にする医療事故等の訴訟問題を考えれば医者が出来ること、

それによって発生するリスクを医師が抱えるなんてことになれば

溜まったものじゃないだろう。

 

幸いなことにうちの場合、母親は若干認知症が来ているのと

生来自分にとって都合の悪い話は聞こえない耳に入らないような

全自動削除システムが構築されているため後から聞き直しても

肝心な部分は殆ど覚えている訳はなく何を言われても動揺することはなかった。

 

 

「ではお母様の状態を説明させていただきます。癌自体はレントゲンでも事前に

予想された通り小さなものでして綺麗に切除出来ました。

また万全を期する意味で怪しいその周辺も取りましたので結果として片肺の半分を

切り取ることになってしまいました。」

 

俺としては黙って頷くしかない。

 

「外科的に出来ることは全てやったつもりです。」

 

これも至極当然ただ頭を下げるだけだった。

 

「ですが残念ながら病理検査の結果リンパにまで行っているが判明しました。

現在のところは目に見えた部分に癌はありませんが段階で言うと

ステージ3になります。」

 

すぐにピンと来ないながら今後も転移や再発の可能性が高いことと、

継続して今できる治療は抗がん剤の投与と放射線照射しかないのだけは判った。

続けて5年以内に1割以下になるステージ3の患者の

生存年数統計表を見せられると癌の発見から入院、手術と慌ただしく過ぎて

これからの事など考える暇もなかったのが厳しいデータを見せられて

一気に深刻になってしまうじゃないか。

最近は重篤という言い方をしないようになったのもこの頃に知ったことだ。

患者に対して判りやすい説明義務があるらしく「非常に重い症状」とか

「生命に危険が及ぶ状態」なんて表現に変わっているようだ。

 

結局再発、再手術、ステージ4へと進行していくものの発症してから7年後という

平均を大きく上回る生存期間を過ごしたのだった。

 

親が子より先に逝くのは自然の摂理で身内以外にとって日常のごく当たり前の話ではある。

まさしく諸行無常ってやつだよな。

などと感傷に浸っている場合ではなかった。

 

亡くなった者より今現在、生活している自分の方が大切に決まっている。

 

 

先日愛車を久々にキレイキレイしてやろうと室内を磨いていた時だった。

運転席右わき腹の当たる部分に白っぽい糸くずが見えるのに気がついた。

よく見れば縫製された糸が解れて縫い目が少し広がっているではないか。

 

シートは純正ではなく愛用のレカロだ。

一年半くらい前にSTYLE-DCという電動機能の付いた物を

装着したのはご存知の通り。

ウレタンの張りや生地は専門店によってリフレッシュされており、

程度が良く格安だったのでご機嫌だった。

装備も充実していて寒かった前冬でのヒーターは本当に重宝していたし、

夏もベンチレーター機能はやはり無ければもっと不快だったかと思えるスグレモノだ。

 

だが慣れとは恐ろしいもので段々とそれまで気にならなかった不満が

出てきていたのも事実であった。

メーカーにも問い合わせても完全には難しいと返答されもう本当に困ってしまっていた。

 

 

 

「きしみ音」である。

 

ひょっとすれば一般のユーザーには然程不具合とも言えないことと思える

程度のことかも知れない。

車の性能自体が良いこともあるけどエンジンの音やタイヤの振動なんて

ノープロブレムの俺なのだが気になりだすと更に不快に感じてしまう始末だ。

 

音の出所を探ってみるとどうやらシート下部の昇降リンクの部分のようだ。

このタイプはヒーターやベンチレーションだけでなくリクライニングや座面の上下も

電動の機能が付いている。

機能が増えれば部品や構造も複雑になり場合によっては

強度や剛性が通常より劣る場合もあるだろう。

 

緩んでいるとか外れているみたいに明確な答えのあるなら話は簡単だが

音の対策は簡単にはいきそうもなかった。

スプレー式の潤滑剤も塗布した直後はなんとなくましになった気がする

程度の効果しかなく、

そうなると段差を越える際などにキシキシ聞こえる音が

どうにもこうにも癇に障るようになってくると気になって仕方がない。

 

そんな時ふとネットオークションを覗いたとたんあるレカロに目が釘付けになってしまった。

黒の革張り仕様のオルソペドだ。

 注)下記は参考画像

img_05_01.jpg 

 

沢山あるレカロシートの中でもコンフォート系に属する。

先のSTYLE-DCもその部類なのだが特に腰痛予防や疲労低減に特化した

エルゴノミクスシートの上位機種なのだ。

魅力的だったのは牛革の表皮。

加えてその装備も電動機能はリクライニング、ヒーター、ベントで

丁度DCの座面昇降機能だけがないという必要かつ十分なものだ。

 

現行モデルのひとつ前の型にはなる中古品ながら未使用とも思える状態で、

新古と言ってもよいくらいに見える。

 

レカロも今は日本法人化され昔と比べると安価な物も売られてはいるが、

上位機種であるオルソペドはドイツ本国より輸入されるレアで高価な物になる。

それが新品当時価格の6~7割引きで出品されているのは魅力的だった。

 

それでも現行下位機種の新品以上の価格は俺にとって高価な物には違いない。

じっとPC画面を見ていると何だか俺に落札してもらいたくて

出品されたようにも思えてくるから不思議なものだ。

 

出品期間は7日間。

見つけた時は既に2日過ぎていて残りは5日間。

主に経済的理由で悩んでいる間に更に3日が過ぎ残りは後2日。

清水の舞台から飛び降りる気持ちになって入札しようと思ったのがその翌日。

 

PC画面を見ると「???????」

 

いつの間にか出品物が消えてしまっている。

他の入札者に落札されたのでもなさそうなのに・・・。

実は出品者が自己都合で取りやめていたのである。

ありゃりゃ・・・縁がなかったのかね。

 

例により話が長くなってしまい申し訳ない。

 

(続く)