Cape Fear、in JAPAN

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『Cape Fear』…恐怖の岬、の意。

怒れる牡牛の物語

2012-06-17 01:15:00 | コラム
第13部「北野武の物語」~第6章(完)~

前回までのあらすじ

「リンチはいい感性をしているよ。これをダメだというヤツは、リンチの切れ味のいい感性についてこれないんだ。省略が多いし、ポンポン話が飛んでいるんだけど、その手法を使うことによってこのバカな二人の感じがよく出てるもん。車を飛ばして、セックスしているだけの二人がいい味出しているじゃない」(ビートたけし、映画監督デヴィッド・リンチを評する)

「この映画は音楽だけ。映画音楽は、それはそれであるわけで、オレのはひたすら映画だから、スタートからして違う。あれこれいっても始まらない。(中略)だけど、音楽なしでこの映画見せてだな、何割の人が感動するのか試してみたいね」(ビートたけし、映画『稲村ジェーン』を評する)

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作曲家のマイケル・ナイマンが大好きで、来日コンサートにも3度ほど足を運んでいる。

3度行って、3度とも同じ現象が起こって苦笑したことがあるのだが、それは・・・
新作の披露やオーケストラによる大作など盛り沢山の内容であっても、結局は『ピアノ・レッスン』(93)のテーマ曲独奏に支持(=拍手の大きさ)が集まってしまう、、、というもの。

アラン・ドロンが「日本人はとくに『太陽がいっぱい』を愛してくれて、有難いんだが、これだけキャリアを作ってきて、そこしかいわれないのもちょっと、、、」とこぼしたのに似ている、
インパクトがあり過ぎるというのも問題があるのかもしれない、「このひと、イコールこれ」という公式が出来上がっていて、それ以外の反応は薄いという現象に、当事者は「これだけじゃないんだけど・・・」という気持ちを抱くのかもしれない。

そんなイメージ/作家性とはオサラバしようぜ、関係ないもの―と三池崇史はいうが、皆が三池のように器用なわけじゃない。
静謐な作風で知られる市川準が『たどんとちくわ』(98)という騒々しい作品を発表したことがあるが、黙殺されたという例もある。

では、北野武の場合はどうか。

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「血とファック・ユー」といえばスコセッシだが、
武も似たところがあり、「殴打とバカヤロウ」のひとと認識されている。

本人が得意とするところでもあり、そして、受け手が期待するところでもある。

デビュー作のインパクトが「そうさせている」のだろうが、武はときどき「非バイオレンス映画」を発表し、バランスを保とうとしてきた。
2000年代前半を指しているわけだが、
しかし「待ってました!」と歓迎されるのはきまってバイオレンス映画であり、最近の武は「そうか、そういうことなら・・・」と開き直った風にも捉えられる。

2008年―ゲージツのために、人生を捧げられるのだろうかというテーマを掲げた『アキレスと亀』を発表。
つまらなくはなかったが、ゲージツのおぞましさというものを「もっと」全面に出してほしかった。
ペトロ・アルモドバルばりに。

2010年、ヤクザ映画『アウトレイジ』を発表。
筋はまったくちがうものの、金をかけた『レザボア・ドッグス』(92)のようで、支持する映画小僧も「久し振りに」多かった。

新作は本年10月公開予定、『アウトレイジ』の続編(完結編?)となる『アウトレイジ ビヨンド』。
本来であれば本年カンヌあたりで初披露し、現在公開中となるところだった、、、が、3.11により撮影が延期されたそうである。

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「表現者とは?」という問いに対する答えを見つけようと模索=迷走していたのも『アキレスと亀』まで―と決めつけないほうがいいのだろうが、
(最近の)武自身が活き活きして見えるのは、やはりそれが北野武の性ということなのかもしれない。
筆者のようなファンとしても、前章で記したように「感性を鈍らせないために、コンスタントに撮る」と決めたのであれば、内省的なものより自分の得意とするところを突き詰めてほしいと思う。

そのいっぽうで、うるせえよ、そんなの知らねーから―といってのけるハチャメチャな作品も期待しているのだが。






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怒れる牡牛の物語、第13部「北野武の物語」おわり。

<参考文献>
『仁義なき映画論』(ビートたけし著 太田出版)
『フィルムメーカーズ』(淀川長治・責任編集 キネマ旬報社)
『TVタックル 映画監督の逆襲』(テレビ朝日)


次回7月上旬より、第14部「今村昌平の物語」をお送りします。

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本館『「はったり」で、いこうぜ!!』

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明日のコラムは・・・

『知らなくていいこと―なんて、ひとつもな~い』

コメント (1)
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