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◎2019年7月18日(木)~20日(土)
【二日目・19日】
朝起きて当然気になったのは台風5号の動き。カーテンを開けると外は相変わらず強風が吹き荒れている。幸いにも雨は降っていないがどんよりした空模様。時間が早いからではない。日の出が群馬より遅いとはいえもう6時になる。テレビで天気予報を確認。昨日の予報とさして変わらず、とにかく午前中は持ちそうだ。ついでにVanilla Airの運行状況を確認する。奄美便は今のところ通常運行予定になっている。明日の帰りのことを考えるのはもうやめにしよう。深刻になれば、予定を変更して、今日帰る気になりかねない。これはかつて沖縄だったか屋久島で失敗したことがある。逃げるようにして帰った翌日は台風一過の天気になっていた。だからといって、明日の天気を期待しているわけではない。
朝食は6時半から。普通のバイキングメニュー。ゴーヤジュースを飲み、ブタの角煮を取り皿に入れた。ラストはコーヒー。さっさと食べて部屋に戻り、今日の予定を立てる。ちょっと気になることがあった。泊まり客に作業服を着た人が多い。長逗留だろう。つまりはそういう宿としても使われているということだ。今さら驚くほどでもない。一人だし、飲んで、食べて、寝られればそれで十分。客に若いカップルを何組か見かけたが、オーシャンならぬ波止場ではがっかりしたことだろう。まして、廊下の反対側の部屋なら海すら見えない。人のことはどうでもいいが、どんな心境だったかつい聞きたくなる。
観光マップを広げる。今日は当初の予定どおりに島の南西と南を回る。空港のある北側は明日でいい。元々、今日の予定は奄美の滝のいくつかと島の最高峰・湯湾岳(694m)に登ることだ。マテリヤの滝と湯湾岳のいずれを先行するか迷う。というのも、午前中の早い時間帯なら山から海も見えると思ったからだが、台風の前触れのような黒い雲が漂っているのでは、湯湾岳の山頂に立ったところで、周囲は真っ白だろう。ちなみに、湯湾岳は山頂直下までは車で入れる。マテリヤの滝を先にしよう。
(国直サンセットパークから。四隅はカットした)
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県道を西に向かうと「国直サンセットパーク」の看板を目にした。おそらく東シナ海のサンセットビューのポイントだろう。道路沿いだし、車を止めて東シナ海を眺めた。両サイドの海に落ち込む山状の半島が邪魔だが、海は遠浅のようできれいだ。ここで、写真に収めた海をモニターで再生して見ると、なぜか四隅が丸い影になっている。撮る角度によっては消えている。この時は何でかなと思っただけだったが、部屋に戻ってからプロテクトフィルターを2枚重ねにしていることに気づいた。これまでもこんな現象が起きていたから、不思議ではいた。外側のフィルターの枠が写り込んでいたわけだ。せっかくの写真もこれでは台無し。相当にぼけてきたようだ。
マテリヤの滝の標識が見えた。ここからはしばらく村道と林道走りになる。ナビに滝の名を入れても出てこず、標識頼りになる。一応は1/25000地形図を持ってきていてよかった。不思議なことに、自分の常識では林道はガタガタ道だが、奄美の場合、道路事情がちょっと違う。林道はあくまでも奥に入っても舗装道で、砂利道すら走ることはなかった。途中、湯湾岳への分岐道を見かける。
(マテリヤの滝へ。歩道歩きの下り)
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(見えてきた)
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(マテリヤの滝)
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(アップで。正面から見られないのが残念)
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広くなっている路肩が駐車場。他に車はない。「黒いウサギ注意!!」の看板がある。奄美に海を見に行くのは当たり前だが、滝見はよほどの好き者だろう。今回は七滝ほど候補にして地図に滝名を書き込んできている。今日、果たしてどれくらいの滝にありつけるだろう。明日の予定に滝見はない。
駐車場の下に川が流れ、歩道が下っている。それを歩くと、すぐに滝が見えた。マテリヤの滝だ。まぁ、何というか普通の滝。滝つぼが淵になっていて深い。そのため正面に出られないのが残念。ネットには落差10mとあったが、そんなにはないだろうが、二段になっているからそれくらいはあるかもしれない。
滝見のネット記事を読むと、「マイナスイオン」というのがよく出てくる。自分には、このマイナスイオンがどういうものなのか、そしてどんな感触なのかまったくわからない。「マイナスイオンを感じる」方に、どんな状態になるのか具体的な言葉で表現してもらいたいといつも思っている。正直のところ、月並みなマイナスイオン云々は安っぽく感じている。自分が使っている扇風機にはマイナスイオンスイッチが付いている。少なくともこれを押して送られて来る風の質に変化はまったく感じないでいる。
駐車場には滝の解説板が置かれていた。ここは大和村らしい。やはり、この滝の特徴は美しい滝壺にあると記されている。陽が出ていたらどんな表情の滝に見えるだろう。凡ではあるが奄美の名瀑といった印象は残った。ただ、これが奄美で見る初めての滝であって、これから見る滝にどう感じ、どう比較するかは見てみなければわからない。
先ほどの湯湾岳分岐に戻ると、そこにはイラスト看板があった。次は湯湾岳だ。宇検村登山口は車15分、徒歩60分とあり、大和村登山口は車10分、徒歩20分。昨日の明神崎のこともある。この蒸し暑さの中での60分歩きは身体を悪くする。迷わず大和村登山口に向かう。横道に逸れる。奄美大島では「村」を「ムラ」と読むのか「ソン」と読むのか。沖縄ではソンだが。
(湯湾岳の駐車場から湯湾岳方面)
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(登り口)
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(この天気では滑る階段)
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(休憩スポットがいくつかある)
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(鳥居が見えた)
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(これが山頂だろうか)
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(神社の本殿だろう)
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(さらに登ってみた)
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(ピークにはこんなものがあった。山名板はない)
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(テープもあるし、さらに行ってみたが下半身ずぶ濡れになっただけで引き返す)
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(神社に戻る)
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(登り口から。何も見えやしない)
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ガスの深い登山口駐車場。ここにも車はない。目先のピークは見えるが、その先がガスに覆われている。晴れていればここから山頂が見えるのだろうか。事前に仕入れた情報では、ここからでも海が見えるはず。しかしガスしか見えない。下からでは雲の中にいるはずだ。
登山口の解説板を読む。この山は霊峰だそうな。植生も、麓は亜熱帯林で垂直的に暖温帯林へと変化し、多種多様な固有種の昆虫が生息しているとある。イラストには山頂部に鳥居がある。ハブのことは記されていないからこの山は安心か。こんな天気の中で山を歩いたら、ついクマが出てきそうな心配はあるが、九州以南にクマは生存しないことになっているから気配を気にせずに歩ける。そういえば、来る途中の林道で小型のイノシシが横切って走って行った。
山頂までは木の階段が続く。前編でも記したが、この階段がハイパーVにはしこたま滑る。階段の板は水分を多量に含み、腐りかけにも思える。歩くとヌルヌルするし、手すりに手をかけると、今日のような天気では手も真っ黒になる。何ともうっとうしい。あちこちにベンチが置かれている。休憩スポットだろうが、座る気にもなれない。
やがて宇検村コースと合流し鳥居が目の前に現れた。奥には南国風の神社。一瞬、台湾に来たかのような錯覚になった。ここまで9分。徒歩20分はかかり過ぎタイムだろう。よくわからない神社だ。馬の石像があったり、「大島酋長」、「與湾大親」、「神理教」、「二神降臨之霊地」の文字が記された石碑がある。「二神」は下の案内板にあったから理解できる。夜、この小広場に一人でいたらさぞ不気味だろう。
さて、ここが山頂だろうか。先に行く踏み跡があったので行ってみると、読み取れない字を彫ってある石柱が2基。そして「日の出の栄光を両手に受けて」の碑。何だか新興宗教が入り込んだ感じの山だ。神社からは登って来たから、あるいはここが山頂か。どうもすっきりしない。この先にも薄い踏み跡があったが、少し追ってみるとすぐにうやむやになった。ここより高いところはない。山名板はどこにもなかったし、ここでヤブこぎをしている場合でもない。神社に戻る。歩きながらふと思った。奄美の神は記紀の神々とはまったく関係がないのか。だとすれば沖縄とて同じだろう。少なくとも古代においては大和には属していなかったということか。どうでもいいことだ。ヤブこぎでズボンはぐっしょりになった。
神社に戻って、そういえばと、ネット情報でここに展望台があって、海に続く山並みを撮った写真を見たことを思い出した。そんな展望台はなかった。さりとて、あのヤブの先にあるわけもない。帰ってから調べると、それは木製の展望台で、危険なのか今は撤去されているらしい。この時点でそんなことはつゆ知らず、天気が良くても、周囲の木立は高く、これでは展望を楽しむ山ではないなと判断したが、頭の中では展望台のことでの誤解が錯綜していて、これが後でムダな歩きをすることになる。
階段の下りは上りよりも慎重だった。意識から階段が離れたらたちまちに滑りそうだ。上り時よりも時間がかかってしまった。車に到着。さっきよりもガスが濃くなってきた気がする。
(何という花なのか。取りあえずカメラには収めた)
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(湯湾岳公園。右からしばらく歩くことになる)
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(ここにも鳥居)
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(この辺で引き返す)
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さぁて次は…と駐車場で地図を広げても、ゴチャゴチャの頭には湯湾岳の展望台のことが気になっている。展望台はどこにいったのだろう。スマホで調べようとすると圏外だ。今になっては何でそうなったのかは知らないが、林道分岐に戻って、宇検村登山口に行ってしまった。ここでかろうじてネットにつながった。
宇検村の湯湾岳公園。ここは宇検村側の登山口だ。展望台はここにもあるようだ。思い込みで公園の看板裏の道を歩いた。かなり歩いた。展望台らしきところには出ない。それもそのはず。湯湾岳への宇検登山道を歩いていた。このままではまた湯湾岳に行ってしまうなと、20分ほど歩いて引き返す。ここもずっと薄暗い木立が続き、展望が開けているところはなかった。
(改めて公園の反対側に行ってみた)
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(立派な展望台があった)
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(展望台から1)
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(展望台から2)
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駐車場に戻る。登山口の反対側は工事通行止めで、駐車場に着いた時点でそちら側は敬遠していた。改めてネット記事を見ると、展望台はそちらにあるようで、ネット写真の入口はそれに酷似している。もうここまで来たのだからと行ってみる。工事中ながらも稼働する重機は放置され、工事人の姿は見えない。歩道は泥状になっている。登りつめると、何ということはない。そこにコンクリ製の展望台があった。白い視界に、かろうじて海が見えた。入り江のきれいな青味は感じない。展望台から海を眺めるのが楽しみだったし、その景色が残念なものであっても満足ではある。しかし、これを眺めたくて湯湾岳に登ったが、山頂の古い展望台そのものはすでに消え、湯湾岳の隣のピークに展望台(正確には「湯湾岳公園展望台」)があり、それに惑わされていたようだ。これもまた無駄足だったが、奄美で一番高い山には登ったことにはなる。
(駐車地を離れるとすぐにアランガチの滝が見える)
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(シュノーケリングをしていた)
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(アランガチの滝)
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次はアランガチの滝。山から下って行くにつれ天気は普通の曇り空になってきた。雨のばらつきもなく、むしろ、影さえ出るようになった。それに合わせてさらに蒸し暑くなった。この滝は集落の外れにある。路地のような狭い車道を行くと、東屋のある3台分の駐車場。ここから滝はもう見えている。ワゴンタイプの車が一台止まっている。
滝壺では若い女性が3人、シュノーケリングをしていた。そして指導者らしき男性。おそらく体験ツァーだろう。滝は見ごたえがある。落差30mとか。見た限りは4段か。さっきのマテリヤの滝に比べたら、こちらの方が自分には好みだが、簡単に見られる、行けるというのが難点でもある。よく見ると、滝の上に橋のような渡しが通っている。そこを歩けるルートでもあるのだろうか。行ってみたいが、今日は観光スポットの数をこなさないといけないので、ここで時間をとられているわけにはいかない。
4~5人のグループがやって来た。スマホのカメラに滝を収めて帰って行った。アランガチの滝はそういう、だれにでも見られる滝なのだ。しばらく眺めていたかったが、シュノーケリングの女性たちは下が透けて見える。カメラを持って土手に座ってじっと滝を見ているのも誤解のもとになりそうなのでこちらも引き返す。
(道端のあちこちに咲いているハイビスカス)
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(赤土山展望台から。左奥にかすかにさっきまでいた湯湾岳が見えている)
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国道を走って行くと赤土山展望台というスポットがあった。路肩に車を止め、そこに設置された写真版の風景と、目の前に広がる光景を見比べる。かろうじて湯湾岳が見えた。下はかなり山が深い。原生林だろう。好んで入り込むハイカーがいるのだろうか。ここは亜熱帯の気候だ。正確には海洋性亜熱帯気候というらしいが、冬の時季ならハブにさえ気をつければヤブこぎも快適かもしれない。
(高知山展望台入口)
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(展望台)
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(これだもんなぁ…)
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(奄美の朝顔)
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高知山展望所の下に着く。途中の赤土山展望所、この高知山ともに、「山」が付くわりには山の感じがしない。というのも、道路が上まで通っているからだ。というか、通さないといけない事情でもあるのだろう。現に、駐車場から見える高知山らしきピークはアンテナ群になっている。そもそも奄美の南部は起伏の多い地形だ。
ここもまた階段が続くが、滑る木ではなく丸太に似せたコンクリを組んでいるから嫌な思いもせずに登って行ける。4分もかからずに展望台に着いた。すぐに登ってみる。見えたのは、濃いガスの中に街並みと入り江。そして近くの電波塔。旅行ガイドブックには「海岸のシルエットが浮かぶ夕景」とあり、複雑なリアス式海岸の大島海峡と加計呂麻島が見えると記されている。すべてがガスに包まれている。加計呂麻島というと、すぐに島尾敏夫の『死の棘』を思い出す。著者本人は震洋特攻隊の一員として加計呂麻島で終戦を迎えている。いつか行ってみたいとずっと思っている。
展望台の階段を下って外に出ようとした瞬間、これから入ろうとする女性二人と鉢合せになった。お互いにびっくりした。駐車場には無線をやっている男性しかいなかったから、だれも来ないと思っていた。「よく見えましたか?」と聞かれた。何とも答えようがない。かつてここからきれいな光景を見ていれば、それが脳裏に焼き付き、ガスの中でも想像で見えもしようが、初めっから惨敗では、白い写真以外に何も残りやしない。
もう12時半だ。お腹も空いている。どこかで食べなきゃ。
(マネン崎展望広場から)
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(同じく)
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南下する。次の目的はフナンギョの滝なのだが、海辺を走っていると、ついスポット看板に引かれてしまう。マネン崎展望広場。リアス式の一部が見えた。高所から見下ろす海はやはり絶望で、この展望台くらいの海のちょい上程度からが限界のようだ。標高20m程度か。その分、視界は狭くなる。足元にはきれいな入り江が広がっている。しばらく眺めていた。山から川や沢が流れ込むところはどうしてもきたない。薄茶色になっている。ここでVanilla Airの運行が気になった。成田発10時40分便は通常に飛んでいる。
(ヤドリ浜1)
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(ヤドリ浜2)
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ヤドリ浜まで来てしまった。途中、「ハートが見える風景」という案内板が気になったが、これは後回し。その間に人家はあっても店屋はなく、食事にありつけそうなところはなかった。このヤドリ浜は、もう少しで奄美大島最南端に位置するビーチだ。カップルが砂浜で遊んでいる。台風の動きがどうなったのか知らないが、黒い雲はかなり薄くなり、近景で見る海はコバルトブルーぽくなっている。ただ、砂浜はサラッとはしていない。歩くと、足が5センチは沈み込む。
(ホノホシ海岸に出るには、駐車場からこんなところを歩き)
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(こんなトンネルも通る)
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(浜の丸い石)
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(ホノホシ海岸1)
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(ホノホシ海岸2)
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続いてホノホシ海岸。ヤドリ浜からはすぐで、車道の反対側になる。海岸に至るまでの景観が公園風になっていて楽しめる。東屋まである。そして、いきなり海が現れる。強い波が押し寄せてくる。ここの海岸には丸い石がぎっしりと敷きつめられている。ヤドリ浜に比べて男性的というか荒々しい。
(ハートが見える風景)
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フナンギョの滝に行く前に、ハートが見える風景に寄る。車は路肩止め。展望台のような高台に上がる。なるほど。入り江がハートに見えなくもないか。
もう2時を過ぎている。空腹はそのままだ。飲食店はむろん、コンビニすらない。この先を考えると、時間的に昼食抜きになりそうだ。
(フナンギョの滝ゲート。これではわからないが、写真のセンターにフナンギョの滝の頭が写っている)
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(橋の右手に滝が見える)
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(これ、フナンギョの滝)
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(滝の落ち口)
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(ピンボケだが滝の下)
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(滝の下流末端。これが川に流れて行く)
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(名残惜しくて改めて)
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フナンギョの滝まで500mの看板のある駐車場に車を置く。この先まで車が入れるようだが、珍しく未舗装道になっていて、先はいきなり狭くなっている。歩いた方が無難だろう。正面の山の斜面に白い筋が見えるが、あれが滝ではないだろうな。この時点ではあまり深くも考えなかったが、まさにあれがフナンギョの滝だった。
かなり蒸し暑い。汗がダラダラと落ちてくる。ひっきりなしにタオルで顔を拭いている。身体もまたベタベタ。水の音が近づく。沢には橋がかかり右手を見上げると大きな滝。これがフナンギョの滝か。ため息が出た。落差は35mとか。この辺は舟用の木材を切り出していたところらしく、「舟行の滝」とも書くらしい。
落差があるから勢いもある。もっと間近に見たく、岩をいくつか越えてみた。やはり滑る。下りが危なそうなので途中でやめた。しばらく眺めていたが、良い写真は撮れなかった。三脚は車の中だし、どうしてもぼけてしまう。
満足して駐車場に戻る。3時になってしまった。せっかく沢タビを持ってきたのだから奄美一のタンギョの滝も見たいが、実は迷っていて、標識のないタンギョの滝に至る道はここだなと見当はつけてはいたが素通りしてフナンギョの滝に来ていた。これから戻ってタンギョの滝に行くとなれば4時にはなるだろう。そこから泳ぐか腰高の水に浸かるわけだから時間的に無謀な話。まして台風が近くで動いている。他にも見たい滝はあった。轟の滝、安念勝の滝。そして、海に落ちる篠穂の滝をせめて落ち口近くから見下ろしたかった。海も見たい、山にも登りたい、滝も見たいではどうしても一日足りない。明日は奄美空港の方面に行くことになるし、海を眺めておしまいだ。滝を3つ見たし、それだけでも「奄美で滝を見た」という経験をつくるには十分だ。また来る機会があるのかどうかはわからないが、そんな機会があったら、その時に他の滝を見ることにしよう。
昼食もとらずに動き回った。もう疲れた。サンセットなんてこの空模様では論外だ。ホテルに帰ってゆっくりしよう。
途中のファミリーマートで夕食を買う。宿の食事は昨日だけで十分だし、高い定食にしてもおいしそうなのはなかった。元々粗食系だし、コンビニ弁当で十分だ。そして、オリオンビールのロング缶1本と缶チューを2本買う。これもロング缶。
ホテルに帰ってまずやったことは洗濯。汗だくで着替えてばかりいたし、明日の分にも手を出していた。幸いにも洗濯機と乾燥機は備え付けてあったし、洗剤も一回分をフロントで売っていた。ただ、洗濯機は外にあり、何度も湿っぽい強風にあたることになる。
ホテルの人工温泉にはいかず、部屋の湯船に浸かってゆっくりできたのは7時過ぎ。テレビで台風情報を見ながらだらだら飲むことになるが、さすがにビール後の缶チューのロング2本はきつく、2本目は半分残した。あっけなく奄美最後の夜になってしまった。
今になって不思議に思う。今日は滝見も山もあって、湯湾岳ではヤブこぎもした。普通なら蚊やら南国特有の強烈な虫に刺されて当たり前。まして、ずっと半袖で通したし、場所によっては半ズボンにもした。俗説ではあるが、ことに血液型O型の酒飲みは最も蚊の標的になりやすいようだ。だから小型瓶のキンカンと虫除けスプレーを持参した。だが、いずれも使うことはなかった。高温多湿の南国の蚊は好みが違うのだろうか。
【二日目・19日】
朝起きて当然気になったのは台風5号の動き。カーテンを開けると外は相変わらず強風が吹き荒れている。幸いにも雨は降っていないがどんよりした空模様。時間が早いからではない。日の出が群馬より遅いとはいえもう6時になる。テレビで天気予報を確認。昨日の予報とさして変わらず、とにかく午前中は持ちそうだ。ついでにVanilla Airの運行状況を確認する。奄美便は今のところ通常運行予定になっている。明日の帰りのことを考えるのはもうやめにしよう。深刻になれば、予定を変更して、今日帰る気になりかねない。これはかつて沖縄だったか屋久島で失敗したことがある。逃げるようにして帰った翌日は台風一過の天気になっていた。だからといって、明日の天気を期待しているわけではない。
朝食は6時半から。普通のバイキングメニュー。ゴーヤジュースを飲み、ブタの角煮を取り皿に入れた。ラストはコーヒー。さっさと食べて部屋に戻り、今日の予定を立てる。ちょっと気になることがあった。泊まり客に作業服を着た人が多い。長逗留だろう。つまりはそういう宿としても使われているということだ。今さら驚くほどでもない。一人だし、飲んで、食べて、寝られればそれで十分。客に若いカップルを何組か見かけたが、オーシャンならぬ波止場ではがっかりしたことだろう。まして、廊下の反対側の部屋なら海すら見えない。人のことはどうでもいいが、どんな心境だったかつい聞きたくなる。
観光マップを広げる。今日は当初の予定どおりに島の南西と南を回る。空港のある北側は明日でいい。元々、今日の予定は奄美の滝のいくつかと島の最高峰・湯湾岳(694m)に登ることだ。マテリヤの滝と湯湾岳のいずれを先行するか迷う。というのも、午前中の早い時間帯なら山から海も見えると思ったからだが、台風の前触れのような黒い雲が漂っているのでは、湯湾岳の山頂に立ったところで、周囲は真っ白だろう。ちなみに、湯湾岳は山頂直下までは車で入れる。マテリヤの滝を先にしよう。
(国直サンセットパークから。四隅はカットした)
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県道を西に向かうと「国直サンセットパーク」の看板を目にした。おそらく東シナ海のサンセットビューのポイントだろう。道路沿いだし、車を止めて東シナ海を眺めた。両サイドの海に落ち込む山状の半島が邪魔だが、海は遠浅のようできれいだ。ここで、写真に収めた海をモニターで再生して見ると、なぜか四隅が丸い影になっている。撮る角度によっては消えている。この時は何でかなと思っただけだったが、部屋に戻ってからプロテクトフィルターを2枚重ねにしていることに気づいた。これまでもこんな現象が起きていたから、不思議ではいた。外側のフィルターの枠が写り込んでいたわけだ。せっかくの写真もこれでは台無し。相当にぼけてきたようだ。
マテリヤの滝の標識が見えた。ここからはしばらく村道と林道走りになる。ナビに滝の名を入れても出てこず、標識頼りになる。一応は1/25000地形図を持ってきていてよかった。不思議なことに、自分の常識では林道はガタガタ道だが、奄美の場合、道路事情がちょっと違う。林道はあくまでも奥に入っても舗装道で、砂利道すら走ることはなかった。途中、湯湾岳への分岐道を見かける。
(マテリヤの滝へ。歩道歩きの下り)
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(見えてきた)
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(マテリヤの滝)
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(アップで。正面から見られないのが残念)
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広くなっている路肩が駐車場。他に車はない。「黒いウサギ注意!!」の看板がある。奄美に海を見に行くのは当たり前だが、滝見はよほどの好き者だろう。今回は七滝ほど候補にして地図に滝名を書き込んできている。今日、果たしてどれくらいの滝にありつけるだろう。明日の予定に滝見はない。
駐車場の下に川が流れ、歩道が下っている。それを歩くと、すぐに滝が見えた。マテリヤの滝だ。まぁ、何というか普通の滝。滝つぼが淵になっていて深い。そのため正面に出られないのが残念。ネットには落差10mとあったが、そんなにはないだろうが、二段になっているからそれくらいはあるかもしれない。
滝見のネット記事を読むと、「マイナスイオン」というのがよく出てくる。自分には、このマイナスイオンがどういうものなのか、そしてどんな感触なのかまったくわからない。「マイナスイオンを感じる」方に、どんな状態になるのか具体的な言葉で表現してもらいたいといつも思っている。正直のところ、月並みなマイナスイオン云々は安っぽく感じている。自分が使っている扇風機にはマイナスイオンスイッチが付いている。少なくともこれを押して送られて来る風の質に変化はまったく感じないでいる。
駐車場には滝の解説板が置かれていた。ここは大和村らしい。やはり、この滝の特徴は美しい滝壺にあると記されている。陽が出ていたらどんな表情の滝に見えるだろう。凡ではあるが奄美の名瀑といった印象は残った。ただ、これが奄美で見る初めての滝であって、これから見る滝にどう感じ、どう比較するかは見てみなければわからない。
先ほどの湯湾岳分岐に戻ると、そこにはイラスト看板があった。次は湯湾岳だ。宇検村登山口は車15分、徒歩60分とあり、大和村登山口は車10分、徒歩20分。昨日の明神崎のこともある。この蒸し暑さの中での60分歩きは身体を悪くする。迷わず大和村登山口に向かう。横道に逸れる。奄美大島では「村」を「ムラ」と読むのか「ソン」と読むのか。沖縄ではソンだが。
(湯湾岳の駐車場から湯湾岳方面)
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(登り口)
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(この天気では滑る階段)
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(休憩スポットがいくつかある)
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(鳥居が見えた)
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(これが山頂だろうか)
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(神社の本殿だろう)
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(さらに登ってみた)
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(ピークにはこんなものがあった。山名板はない)
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(テープもあるし、さらに行ってみたが下半身ずぶ濡れになっただけで引き返す)
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(神社に戻る)
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(登り口から。何も見えやしない)
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ガスの深い登山口駐車場。ここにも車はない。目先のピークは見えるが、その先がガスに覆われている。晴れていればここから山頂が見えるのだろうか。事前に仕入れた情報では、ここからでも海が見えるはず。しかしガスしか見えない。下からでは雲の中にいるはずだ。
登山口の解説板を読む。この山は霊峰だそうな。植生も、麓は亜熱帯林で垂直的に暖温帯林へと変化し、多種多様な固有種の昆虫が生息しているとある。イラストには山頂部に鳥居がある。ハブのことは記されていないからこの山は安心か。こんな天気の中で山を歩いたら、ついクマが出てきそうな心配はあるが、九州以南にクマは生存しないことになっているから気配を気にせずに歩ける。そういえば、来る途中の林道で小型のイノシシが横切って走って行った。
山頂までは木の階段が続く。前編でも記したが、この階段がハイパーVにはしこたま滑る。階段の板は水分を多量に含み、腐りかけにも思える。歩くとヌルヌルするし、手すりに手をかけると、今日のような天気では手も真っ黒になる。何ともうっとうしい。あちこちにベンチが置かれている。休憩スポットだろうが、座る気にもなれない。
やがて宇検村コースと合流し鳥居が目の前に現れた。奥には南国風の神社。一瞬、台湾に来たかのような錯覚になった。ここまで9分。徒歩20分はかかり過ぎタイムだろう。よくわからない神社だ。馬の石像があったり、「大島酋長」、「與湾大親」、「神理教」、「二神降臨之霊地」の文字が記された石碑がある。「二神」は下の案内板にあったから理解できる。夜、この小広場に一人でいたらさぞ不気味だろう。
さて、ここが山頂だろうか。先に行く踏み跡があったので行ってみると、読み取れない字を彫ってある石柱が2基。そして「日の出の栄光を両手に受けて」の碑。何だか新興宗教が入り込んだ感じの山だ。神社からは登って来たから、あるいはここが山頂か。どうもすっきりしない。この先にも薄い踏み跡があったが、少し追ってみるとすぐにうやむやになった。ここより高いところはない。山名板はどこにもなかったし、ここでヤブこぎをしている場合でもない。神社に戻る。歩きながらふと思った。奄美の神は記紀の神々とはまったく関係がないのか。だとすれば沖縄とて同じだろう。少なくとも古代においては大和には属していなかったということか。どうでもいいことだ。ヤブこぎでズボンはぐっしょりになった。
神社に戻って、そういえばと、ネット情報でここに展望台があって、海に続く山並みを撮った写真を見たことを思い出した。そんな展望台はなかった。さりとて、あのヤブの先にあるわけもない。帰ってから調べると、それは木製の展望台で、危険なのか今は撤去されているらしい。この時点でそんなことはつゆ知らず、天気が良くても、周囲の木立は高く、これでは展望を楽しむ山ではないなと判断したが、頭の中では展望台のことでの誤解が錯綜していて、これが後でムダな歩きをすることになる。
階段の下りは上りよりも慎重だった。意識から階段が離れたらたちまちに滑りそうだ。上り時よりも時間がかかってしまった。車に到着。さっきよりもガスが濃くなってきた気がする。
(何という花なのか。取りあえずカメラには収めた)
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(湯湾岳公園。右からしばらく歩くことになる)
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(ここにも鳥居)
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(この辺で引き返す)
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さぁて次は…と駐車場で地図を広げても、ゴチャゴチャの頭には湯湾岳の展望台のことが気になっている。展望台はどこにいったのだろう。スマホで調べようとすると圏外だ。今になっては何でそうなったのかは知らないが、林道分岐に戻って、宇検村登山口に行ってしまった。ここでかろうじてネットにつながった。
宇検村の湯湾岳公園。ここは宇検村側の登山口だ。展望台はここにもあるようだ。思い込みで公園の看板裏の道を歩いた。かなり歩いた。展望台らしきところには出ない。それもそのはず。湯湾岳への宇検登山道を歩いていた。このままではまた湯湾岳に行ってしまうなと、20分ほど歩いて引き返す。ここもずっと薄暗い木立が続き、展望が開けているところはなかった。
(改めて公園の反対側に行ってみた)
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(立派な展望台があった)
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(展望台から1)
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(展望台から2)
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駐車場に戻る。登山口の反対側は工事通行止めで、駐車場に着いた時点でそちら側は敬遠していた。改めてネット記事を見ると、展望台はそちらにあるようで、ネット写真の入口はそれに酷似している。もうここまで来たのだからと行ってみる。工事中ながらも稼働する重機は放置され、工事人の姿は見えない。歩道は泥状になっている。登りつめると、何ということはない。そこにコンクリ製の展望台があった。白い視界に、かろうじて海が見えた。入り江のきれいな青味は感じない。展望台から海を眺めるのが楽しみだったし、その景色が残念なものであっても満足ではある。しかし、これを眺めたくて湯湾岳に登ったが、山頂の古い展望台そのものはすでに消え、湯湾岳の隣のピークに展望台(正確には「湯湾岳公園展望台」)があり、それに惑わされていたようだ。これもまた無駄足だったが、奄美で一番高い山には登ったことにはなる。
(駐車地を離れるとすぐにアランガチの滝が見える)
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(シュノーケリングをしていた)
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(アランガチの滝)
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次はアランガチの滝。山から下って行くにつれ天気は普通の曇り空になってきた。雨のばらつきもなく、むしろ、影さえ出るようになった。それに合わせてさらに蒸し暑くなった。この滝は集落の外れにある。路地のような狭い車道を行くと、東屋のある3台分の駐車場。ここから滝はもう見えている。ワゴンタイプの車が一台止まっている。
滝壺では若い女性が3人、シュノーケリングをしていた。そして指導者らしき男性。おそらく体験ツァーだろう。滝は見ごたえがある。落差30mとか。見た限りは4段か。さっきのマテリヤの滝に比べたら、こちらの方が自分には好みだが、簡単に見られる、行けるというのが難点でもある。よく見ると、滝の上に橋のような渡しが通っている。そこを歩けるルートでもあるのだろうか。行ってみたいが、今日は観光スポットの数をこなさないといけないので、ここで時間をとられているわけにはいかない。
4~5人のグループがやって来た。スマホのカメラに滝を収めて帰って行った。アランガチの滝はそういう、だれにでも見られる滝なのだ。しばらく眺めていたかったが、シュノーケリングの女性たちは下が透けて見える。カメラを持って土手に座ってじっと滝を見ているのも誤解のもとになりそうなのでこちらも引き返す。
(道端のあちこちに咲いているハイビスカス)
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(赤土山展望台から。左奥にかすかにさっきまでいた湯湾岳が見えている)
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国道を走って行くと赤土山展望台というスポットがあった。路肩に車を止め、そこに設置された写真版の風景と、目の前に広がる光景を見比べる。かろうじて湯湾岳が見えた。下はかなり山が深い。原生林だろう。好んで入り込むハイカーがいるのだろうか。ここは亜熱帯の気候だ。正確には海洋性亜熱帯気候というらしいが、冬の時季ならハブにさえ気をつければヤブこぎも快適かもしれない。
(高知山展望台入口)
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(展望台)
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(これだもんなぁ…)
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(奄美の朝顔)
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高知山展望所の下に着く。途中の赤土山展望所、この高知山ともに、「山」が付くわりには山の感じがしない。というのも、道路が上まで通っているからだ。というか、通さないといけない事情でもあるのだろう。現に、駐車場から見える高知山らしきピークはアンテナ群になっている。そもそも奄美の南部は起伏の多い地形だ。
ここもまた階段が続くが、滑る木ではなく丸太に似せたコンクリを組んでいるから嫌な思いもせずに登って行ける。4分もかからずに展望台に着いた。すぐに登ってみる。見えたのは、濃いガスの中に街並みと入り江。そして近くの電波塔。旅行ガイドブックには「海岸のシルエットが浮かぶ夕景」とあり、複雑なリアス式海岸の大島海峡と加計呂麻島が見えると記されている。すべてがガスに包まれている。加計呂麻島というと、すぐに島尾敏夫の『死の棘』を思い出す。著者本人は震洋特攻隊の一員として加計呂麻島で終戦を迎えている。いつか行ってみたいとずっと思っている。
展望台の階段を下って外に出ようとした瞬間、これから入ろうとする女性二人と鉢合せになった。お互いにびっくりした。駐車場には無線をやっている男性しかいなかったから、だれも来ないと思っていた。「よく見えましたか?」と聞かれた。何とも答えようがない。かつてここからきれいな光景を見ていれば、それが脳裏に焼き付き、ガスの中でも想像で見えもしようが、初めっから惨敗では、白い写真以外に何も残りやしない。
もう12時半だ。お腹も空いている。どこかで食べなきゃ。
(マネン崎展望広場から)
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(同じく)
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南下する。次の目的はフナンギョの滝なのだが、海辺を走っていると、ついスポット看板に引かれてしまう。マネン崎展望広場。リアス式の一部が見えた。高所から見下ろす海はやはり絶望で、この展望台くらいの海のちょい上程度からが限界のようだ。標高20m程度か。その分、視界は狭くなる。足元にはきれいな入り江が広がっている。しばらく眺めていた。山から川や沢が流れ込むところはどうしてもきたない。薄茶色になっている。ここでVanilla Airの運行が気になった。成田発10時40分便は通常に飛んでいる。
(ヤドリ浜1)
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(ヤドリ浜2)
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ヤドリ浜まで来てしまった。途中、「ハートが見える風景」という案内板が気になったが、これは後回し。その間に人家はあっても店屋はなく、食事にありつけそうなところはなかった。このヤドリ浜は、もう少しで奄美大島最南端に位置するビーチだ。カップルが砂浜で遊んでいる。台風の動きがどうなったのか知らないが、黒い雲はかなり薄くなり、近景で見る海はコバルトブルーぽくなっている。ただ、砂浜はサラッとはしていない。歩くと、足が5センチは沈み込む。
(ホノホシ海岸に出るには、駐車場からこんなところを歩き)
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(こんなトンネルも通る)
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(浜の丸い石)
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(ホノホシ海岸1)
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(ホノホシ海岸2)
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続いてホノホシ海岸。ヤドリ浜からはすぐで、車道の反対側になる。海岸に至るまでの景観が公園風になっていて楽しめる。東屋まである。そして、いきなり海が現れる。強い波が押し寄せてくる。ここの海岸には丸い石がぎっしりと敷きつめられている。ヤドリ浜に比べて男性的というか荒々しい。
(ハートが見える風景)
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フナンギョの滝に行く前に、ハートが見える風景に寄る。車は路肩止め。展望台のような高台に上がる。なるほど。入り江がハートに見えなくもないか。
もう2時を過ぎている。空腹はそのままだ。飲食店はむろん、コンビニすらない。この先を考えると、時間的に昼食抜きになりそうだ。
(フナンギョの滝ゲート。これではわからないが、写真のセンターにフナンギョの滝の頭が写っている)
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(橋の右手に滝が見える)
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(これ、フナンギョの滝)
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(滝の落ち口)
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(ピンボケだが滝の下)
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(滝の下流末端。これが川に流れて行く)
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(名残惜しくて改めて)
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フナンギョの滝まで500mの看板のある駐車場に車を置く。この先まで車が入れるようだが、珍しく未舗装道になっていて、先はいきなり狭くなっている。歩いた方が無難だろう。正面の山の斜面に白い筋が見えるが、あれが滝ではないだろうな。この時点ではあまり深くも考えなかったが、まさにあれがフナンギョの滝だった。
かなり蒸し暑い。汗がダラダラと落ちてくる。ひっきりなしにタオルで顔を拭いている。身体もまたベタベタ。水の音が近づく。沢には橋がかかり右手を見上げると大きな滝。これがフナンギョの滝か。ため息が出た。落差は35mとか。この辺は舟用の木材を切り出していたところらしく、「舟行の滝」とも書くらしい。
落差があるから勢いもある。もっと間近に見たく、岩をいくつか越えてみた。やはり滑る。下りが危なそうなので途中でやめた。しばらく眺めていたが、良い写真は撮れなかった。三脚は車の中だし、どうしてもぼけてしまう。
満足して駐車場に戻る。3時になってしまった。せっかく沢タビを持ってきたのだから奄美一のタンギョの滝も見たいが、実は迷っていて、標識のないタンギョの滝に至る道はここだなと見当はつけてはいたが素通りしてフナンギョの滝に来ていた。これから戻ってタンギョの滝に行くとなれば4時にはなるだろう。そこから泳ぐか腰高の水に浸かるわけだから時間的に無謀な話。まして台風が近くで動いている。他にも見たい滝はあった。轟の滝、安念勝の滝。そして、海に落ちる篠穂の滝をせめて落ち口近くから見下ろしたかった。海も見たい、山にも登りたい、滝も見たいではどうしても一日足りない。明日は奄美空港の方面に行くことになるし、海を眺めておしまいだ。滝を3つ見たし、それだけでも「奄美で滝を見た」という経験をつくるには十分だ。また来る機会があるのかどうかはわからないが、そんな機会があったら、その時に他の滝を見ることにしよう。
昼食もとらずに動き回った。もう疲れた。サンセットなんてこの空模様では論外だ。ホテルに帰ってゆっくりしよう。
途中のファミリーマートで夕食を買う。宿の食事は昨日だけで十分だし、高い定食にしてもおいしそうなのはなかった。元々粗食系だし、コンビニ弁当で十分だ。そして、オリオンビールのロング缶1本と缶チューを2本買う。これもロング缶。
ホテルに帰ってまずやったことは洗濯。汗だくで着替えてばかりいたし、明日の分にも手を出していた。幸いにも洗濯機と乾燥機は備え付けてあったし、洗剤も一回分をフロントで売っていた。ただ、洗濯機は外にあり、何度も湿っぽい強風にあたることになる。
ホテルの人工温泉にはいかず、部屋の湯船に浸かってゆっくりできたのは7時過ぎ。テレビで台風情報を見ながらだらだら飲むことになるが、さすがにビール後の缶チューのロング2本はきつく、2本目は半分残した。あっけなく奄美最後の夜になってしまった。
今になって不思議に思う。今日は滝見も山もあって、湯湾岳ではヤブこぎもした。普通なら蚊やら南国特有の強烈な虫に刺されて当たり前。まして、ずっと半袖で通したし、場所によっては半ズボンにもした。俗説ではあるが、ことに血液型O型の酒飲みは最も蚊の標的になりやすいようだ。だから小型瓶のキンカンと虫除けスプレーを持参した。だが、いずれも使うことはなかった。高温多湿の南国の蚊は好みが違うのだろうか。
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