あたしの人生、ついに詰んできたか?
おはようございます。
父の右手が使えなくなって3週間が過ぎた。
状態は思わしくないかどうか、よく分からない。
父の肩の痛みは、父の都合で強弱が変わってしまう。
あの男は、狡猾だ。
昔から、理解した振りをしてみたり、自身を弱っているように見せたり、
それでも思い通りにならない場合は、脅したりする。
「もろとも、ぶっ殺してやる」
そんな重い台詞を、そよ風のごとく軽く吐いてしまう。
ああ、そうだ。
思い出した。
あたし、この男が一番苦手だった。
だから私は、大笑いしてやった。
「ぎゃはははは、
こんな事ごときで、もろともぶっ殺すとか、おおげさ!」
質の悪い人心掌握術に乗せられるほど、子供じゃない。
私はもう、あの頃の小さな子供なんかじゃない。
「まあ、父さん?
もろともぶっ殺すためにも、右手を早く治さんと返り討ちに遭うよ。
アイツみたいにさ。」
私は昔、元夫の殺害計画を立て、それを実行した。
右手に元夫の大事な高級ゴルフクラブを握り、
それをガムテープでぐるぐる巻きにした。
そして私は、その右手を、熟睡している元夫の腹に力いっぱい振り落とした。
「ねえ、かっちゃん?お願い、死んで。」
そう囁きながら、何度もクラブを振り落とした。
そりゃもう、ホラーだ。
あれは、パターでよかった。
ドライバーだったら、元夫は死んでいたかもしれない。
「でもあの時は、ほんとスッキリしたもんなぁ」
と後日、元夫と笑い合ったのを覚えている。
離婚話にもならず、私は元夫の暴力で、元夫はゴルフクラブで、
互いに折られた前歯を見せながら、笑い合う変な夫婦だった。
まさに、ホラーだ。
ただ、あの事件以来、元夫はまったく暴力を振るわなくなったから、
やって良かったという、とんでもない成功体験を得た。
あれ?
あたし、父さんと似てるかもしれない・・・。
違いは、私は実行に移した点だ。
あれ?
なんだかんだ、実行に移さない父さんの方が、マシなんじゃないか?
こうなると、もはや己の正義と価値観がガラガラと崩れていく。
そんな時、私は我が家のおじさんに相談するようにしている。
「多かれ少なかれ、弱っている時って、
苛立って見苦しい事言ったりやったりしちゃうもんじゃない?」
そう聞くと、おじさんは、
「ん~」
と考え込む。
そうそう、これこれと、私は密かに思う。
そんなことを思いもつかない、この男の心の美しさよ!
洗われる!!
「あたし、もっと頑張るよ。
今の父さんや私の、この見苦しさも、たぶん越えられる。
ここを越えた先に、新たな世界が見えてくる気がする。」
私は以前、かずこも苦手だった。
むしろ、かずこが苦手過ぎて、父さんへの感情など、掘り下げたことが無かった。
何十年もの確執だ。
だけど、私はそれを越えた。
数年かけて、とことん向き合い、
途中は、自分の心の中に湧き上がる、めちゃくちゃ見苦しい感情に苛まれ苦しんだ。
けれど今や、私にとって、かずこは癒しとなっている。
猫や犬、花鳥風月に並び、
先日死んでしまった敬愛するパンダのタンタンと、ほぼ同列だ。
いつしか、父さんのことも、
愛知が誇るイケメンゴリラ・シャバーニみたいに感じられる日が来るかもしれない。
だから今は、時々ブチ切れながら過ごしている。
「くっそー、クソジジィが!!」と思ったり、
時々、意味不明にご機嫌斜めになる、かずことも口喧嘩する。
先日は、たまらず実家を飛び出して、夜桜を見に行った。
「桜、綺麗だったよ。
ねえ、母さんも連れてったろうか?」
そう言うと、かずこは被り気味に
「いらん」
と即答する。
「木をぼけーっと見て、何が面白いんや?」
それを聞いて、私と父さんは大いに笑い合った。
こんな瞬間があれば、私の人生は詰んでなどいない。
と思いたい!
おたまもだよね?
珍しく、あやがおたまを舐めてあげてるじゃん?!
ほんの一瞬の幸福に、おたまったら、この顔
でも、あやったら、この顔!
人生は、この繰り返しなのかもしれないな。