今日は、一年で
もっとも長い昼を過ごすことになるようだ。
昼間が長いのだから、
少し長い文章をつらつら書くのも
お許しいただきたい。
おはようございます。
この季節は、仕事を終えた頃も、外はまだ明るい。
まるで、昼間のような明るさだ。
時計を見て、ようやく仕事が終わる時刻だと気付き、
帰り支度をしていると、
あるドライバーが
「道に白い猫が死んでる」
と伝えに来た。
帰るついでだからと、見に行ってみると、
小ぶりの白い猫が倒れていた。
その光景を前に、私は数分間、4年前に遡っていた。
当時、弊社の付近に棲み処を持つ美しい白猫がいた。
「ご飯食べるかい?」
そう声を掛けると、猫は腹が減っている時だけ、返事をした。
私は、その猫をシロと呼んでいたが、本当の名前は知らない。
ただ、シロが生粋の野良猫ではない事は知っていた。
私が今の会社に入社した頃、会社の前の道を少したどって行くと、
ラーメン屋が建っていた。
その入り口には、2脚の椅子が置かれていて、
その椅子には、白猫が2匹座っているのが見えた。
微笑ましい光景だった。
私は一度もラーメン屋にランチを食べに行った事は無いが、
道を通る機会がある度、白猫たちを見るのが楽しみだった。
しかし、ある日、ラーメン屋から人が消えた。
入口の椅子は、建物の隅に捨て置かれていた。
白猫たちも、もう椅子には座っていない。
一緒に引っ越して行ったのかと思いきや、そうではなかった。
弊社の付近で白猫を見かけるようになって、すぐに分かった。
白猫たちも、椅子とともに捨て置かれたという事だ。
しばらくすると、2匹居たはずが、1匹になっていた。
それが、シロだ。
そして、もうしばらく経った頃、
シロが子猫を連れているのを見かけた。
ついでに、その子猫を、私が保護する羽目になったのだ。
その時の子猫が、我が家のおたまだ。
「こんな事が繰り返されたら、たまったもんじゃない」
そこで、私はシロに餌付けを始めた。
少しづつ馴れてもらってから捕まえて避妊を、と考えていた。
私は、時間を掛けようと思った。
もう二度と、シロを裏切る人間を作りたくなかった。
私は、シロを裏切りたくなかった。
だから慎重に時間を掛け、私を信じて欲しかった。
「シロ、ご飯はね、一生必ずあげるよ。約束だ。
だから、貴方に避妊をしたいと思っているんだ」
私は、シロに会う度、説得を続けた。
半年が経った頃、また子猫を連れて歩いていた。
生後3か月は経っている子猫だった。
「これ以上、時間はかけられない」
私は焦った。
「シロ、お前の子を連れて来て。私におくれ」
そう伝えると、シロは次の日、本当に子猫を連れてきた。
あまりにも早い展開に、
私は言ったくせにたじろいだ。
必死に餌に食らいつく子猫を撫ぜてみたが、逃げない。
シロも子猫に触る事を、許しているように見えた。
このまま抱けば、子猫を保護できる。
しかし、私は抱き上げる事ができなかった。
保護をすれば、我が家にまた猫が増える。
やっと、おたまが我が家に馴染んだ頃で、私は躊躇してしまったんだ。
「ごめん、シロ。もう少し待ってて」
腹を決めるのに、数日考えた。
よし!っと思った日、子猫だけが少し離れた場所に居た。
おいでと言っても、子猫は来ない。
こちらを見ながら、離れていく。
それにいざなわれるように着いていくと、
いつもの場所で座り込むシロを見つけて近付いて行った。
シロは、ちょうど、出産をしている場面だった。
長毛だったから、妊娠に気付かなかったという訳だ。
驚いたまま、声を掛けた。
「シロ、おめでとう。」
用意した餌の皿をそっと置いて、
「シロ、もう少し経ったら、その子達も保護する。
必ず幸せにする。
だから、もうそれで終わりにしよう。お願いします。」
と伝えて帰った。
2週間、シロも子猫達も、まったく姿を見せなかった。
子育てに専念しているのだろうと思っていた。
そんな、ある日の明るい夕方、
帰社したドライバーが
「道に白い猫が死んでる」
と伝えに来た。
取るものとらず走って行ったら、
道にシロが倒れていた。
ウジ虫まみれで、私はシロに触る気概が持てなくて、
しばらく立ち尽くし、死骸を捨て置いてしまった。
あの椅子のように。
会社へ帰ると、他のドライバーが
「駐車場の脇に、子猫が3匹いるんだけど」と。
「それシロの子だわ。探そうと思ってたの」
見てみれば、生後2週間のまだ歩けない子猫だ。
こんな場所まで出て来られるはずなどない。
私は3匹を抱き上げて、そのまま病院へと走った。
保護に躊躇した、あの子猫は姿を消した。
結局、私がシロとの約束で、守れたことは、3匹の子猫の事だけだった。
シロは命を懸けて約束を守った。
終わりにしたんだ。
4面前のあの日のように、明るい夕方、
道に死んでいる小ぶりの白猫は、私の知らない猫だった。
けれど、私はシロを思い出さずにはいられず、
シロとの約束を守れなかった事を謝るように、
ウジ虫が湧き始めた死体を抱き上げて、
涼しい草むらに、そっと置いた。
我が家の、のん太も、シロの遠縁だろうな?
のん太?
小さな虫を見つけたんか?
おい、スタンド倒すなよ?
まあ、君との約束には、スタンド倒すなって入ってないもんな~。
仕方ないか。
猫との約束なんて、するもんじゃないな。