私の元に、また新たな棒がやってきた。
おはようございます。
以前、父から貰った土産の棒達をご紹介しましたが、
今回は、姉家族が行った旅行のお土産の棒です。
「イッタンモメン孫の手」
私の元に、父から姉から、どんどん棒が集まってくる。
さすが、親子ですね。
で、どこに旅行してきたかとお申しますと、
島根か鳥取か、とにかくそこら辺に行ってきたそうです。
良かったですね。
今年のお盆休みは、姉は秋田にも登山をしに行ってきたそうで、
それがとても、大変だったと語り始めた。
「泣きそうを通り越して、もう呆然としながら登ったの。」
という姉の言葉に、私は痛く共感を覚えたのだった。
あれは、今から数えて27年前、高校2年生の時の事。
詳細な記憶は薄らいでいるが、
確か、こんな感じだっただろうか・・・
我が母校には、正確には修学旅行がなく、代わりに合宿訓練なる行事があった。
といっても訓練とは名ばかりで、自然に触れようといった趣旨のもの。
高原を散策したり、牧場でソフトクリームを食べたりと、
それなりに、のんびり楽しい合宿訓練だとOBから聞いていた。
そして、我々も2年生になり合宿訓練が始まった。
・1日目、登山。
<登山って?散策ではないの?話が違うぞ!>
スクールジャージと学校指定の通学靴の我々は戸惑いつつ、
せめてもとタオルを首に引っかけて山へ挑んだ。
そこそこ傾斜もある、足場の悪い登山道に、
セブンティーン達から文句が飛び始める。
「靴がスポスポ脱げちゃいます~」
「あの子がもう3回、転んでますけど止まって~」
その文句を聞きながらガイドの山男さんの背中は、
「無駄にしゃべるな!疲れるぞ!」と語っていた。
案の定、数分後、我々は無言でひたすら山の頂きを目指すのだった。
そして我々は、合宿場に戻り、2段ベットでプランを見直し気付いた。
今年の合宿訓練は、OB達が経験してきた場所や趣旨とはすべてが違う。
散策やソフトクリームなど、遊びは一切ないのだという事を。
・2日目、トレッキング
<嘘やん、全然トレッキングじゃないやん。岩登りやん!>
昨日の山登りで、我々の筋肉はすっかり疲弊していたが、
やはり昨日と同じ格好で、岩場に挑んだ。
岩を登りながら、悲鳴以外の声が出せる心と体に余裕のある者は
ガイド山男さんだけだった。
「そこ、絶対落ちるなよ。しがみ付け!」
きつい傾斜の岩場では、首に掛けたタオルや、
足を守るための通学靴が、我々の足枷となる。
「僕の歩いたポイントを忠実に辿って歩け。落ちるぞ!」
右を見れば断崖絶壁。悲鳴の声すら失う。
「ここだ・・・ここは、滑落した登山者が数人出たポイントだ。」
我々は、震え上がるも、さすがに疑心暗鬼で互いを見合った。
まさか、いくらなんでも、この軽装の女子供に、
本気で危険な場所で岩を登らせる学校があるかい。
山男の冗談だろうと思った。
が、山男は一瞬片手を岩から離し、崖の下めがけて拝んだ。
その姿を観た我々は、
死んでる、ここで人が死んでる、と確信をして、
そのポイントを通過する時、とにかく拝んだのだった。
日が暮れ始めると同時に、豪雨に遭う。
ずぶ濡れのまま、岩場にしがみ付く我々は、泥まみれで合宿場へ急いだ。
急いだが、それ以上に慎重さが必要な足場に苦しめられ、
やっとの思いで合宿場へたどり着いた時には、すっかり日が暮れていた。
生きてる、私達生きてる。
我々の心は、その一心だった。
だか、はしゃぐ者は誰一人居らず、その顔は、みな角が取れた仏の様だった。
ようやく休めるのかと安堵したのも束の間、
学年主任であり、この地獄のプランを立てた張本人でもある、体育教師スギヤンの声が飛ぶ。
「今から、地元のお年寄りと、藁草履を作るぞ~!」
その声に、仏と化したセブンティーン達は、泥だらけのまま、
大広間へと厳かに向かっていく。
仏と化したセブンティーンの中に文句を言う者は誰も居なかった。
仏達は、もう無の境地にいた。
待ち受ける爺様に、微笑みながら頭を下げる仏達は、
そのまま座り込み、何の躊躇もなく藁を掴んだ。
その時だ。
「もう無理!私、もう、こんなの無理ーー!」という悲鳴。
仏達が藁をこよりながら見つめる声の主は、
すべてのプランに同行した、20代後半の女性教師だった。
女性教師は、そのまま泣きながら、スギヤンに詰め寄って行く。
「こんなプラン、あり得ない!生徒達を見てよ。
ずぶ濡れで泥だらけのまま、まだ藁草履を作れと?あなたは馬鹿ですか!」
揉め出す大人達をしり目に、仏達は思った。
早く、藁草履を完成させよう。それだけだった。
仏達には、もう煩悩はない。
大人達が涙ながらに言い合うという奇異な場面に出くわそうと、
仏達の心は、もう乱れはしない。
目の前の藁を草履に形作る事しか、頭になかったのだった。
その後、私が正気に戻ったのは、ようやく家に帰ってからだった。
お土産は?と家族に聞かれて、気付いた。
山に籠っていた故、土産など・・・これしかないのだ。
ドロが付いた、藁草履。
しかも、片足。
ちょっと待てよ!
執拗なまでの地獄のプランを立てたくせに、
なぜ、最後の最後で、我々に1足作らせてくれなかったのだ?
スギヤン、あなたは、馬鹿ですか!
あや「おばちゃん、山を舐めるなよ」
あや「そうでしょ、おたま?」
おたま「ふぇ?」
おたま「そうそう、山を舐めるな」
なんか・・・むかつく!