うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

強かな猫

2025年02月05日 | マアコのこと

寒波といっても、

我が町は雪の心配などは、あまり無い訳で・・・

 

おはようございます。

とはいっても、寒いものは寒い。

寒波で最も心配なのは、外で暮らすマアコとデッカだ。

キンピカハウスは、カイロで24時間床暖房にしている。

時々、デッカは入り口から半身を出してうな垂れるくらい温かいようで、

その様は、風呂にのぼせた子供みたいだ。

マアコは呼ばれるまで、キンピカハウスから出てこない。

「ご飯だよ~、マアコ~」

そう呼ぶと、足が冷たいのか小走りでやって来る。

そのくせ、すぐには食べず、まずは私に撫ぜられるのを待つ。

マアコは、私に甘えるようになって来た。

 

そんなマアコに、私は一抹の不安を抱く。

私は、マアコに、2度の飯と弱さを与えているのじゃないだろうかと。

生き抜いてきた野良猫の強かさを、奪っているのではないだろうか。

ごめん。

そう思っていると、マアコは何かを思い付いたように走り去ってしまった。

「どうしたの?マアコ、もう食べんのか?」

声をかけても振り向きもしない。

残されたデッカは、相変わらず柔らかいウェットしか食べない。

「デッカ、お母ちゃん行っちゃったよ?」

デッカは、文字通りデカい子猫のくせに、

マアコがいないと、すぐべそをかく子だが、

食べている間と遊んでやる時だけは、泣かない。

 

しかし、

デッカが食べおわる頃、マアコがひょっこり戻って来た。

なんと、小鳥を咥えて戻って来たのだ。

ほんの数分の間に、マアコはサクッと小鳥を捕まえて来たという訳だ。

その小鳥を、デッカの前にぽとんと落とした。

デッカは大喜びで小鳥の亡骸を弄び、

私は、右手に用意していた新品の猫じゃらしをぽとんと落として、

悲鳴を飲み込んだ。

小鳥は哀れだが、私はマアコの強かさを目の当たりにして、

ほんの少し救われた気がした。

 

さて、私もご飯食べよう。

さぁ食べよう。

のんちゃん、かかぁもご飯食べるぞ。

 

のん太「かかぁ、手が止まってるら」

撫ぜていないとダメらしい。

いやでも、かかぁも食べたいのだけれど?

 

のん太「かかぁ、手が止まってるら」

うっうん、ごめん

 

のん太「あれは、のんがちゃんと見てるから、かかぁは安心して撫ぜるら」

うんとね、そういうことじゃないんだよなぁ。

 

 

 


マアコとの約束 4

2025年01月24日 | マアコのこと

マアコをリターンしたのは、

土曜日の静かな朝だった。

 

おはようございます。

人気のない環境でリターンするのが好ましいと思い、金曜日に避妊をした。

案の定、土曜日の会社は静かだった。

私は、走り去ったマアコをしばらく探し、また車庫の奥に引っ込んでしまったデッカに

「デッカ、また来るね。」

と声を掛けて家に戻った。

そして帰るなり、キャリーケースを持ち出して、車に積んだ。

万が一、マアコが戻って来なかった時、デッカを保護するための部屋の準備も始めた。

「やるなら、月曜日の夕方になる。」

私は、おじさんにそう告げ、

呑気に寝ている我が家の猫らを見渡して、

「いったん、地獄絵図になるで~。」

と言って、笑ってみせた。

 

避妊を強いたのは、私の勝手だ。

そのせいで、この親子の運命を引っ搔き回してしまったかもしれない。

それどころか、私がマアコと約束さえしなければと後悔が過った。

幾度も繰り返してきた、様々な約束すべてが、

私の過ちの元だったのかもしれない。

「これからお前はマアコ。名前を付けるってことは責任持つってことだ。」

そう宣言して以来、いくつもの約束をした。

・絶対に、毎日ご飯を持ってくる約束。

・夏に産まれた子猫らを託してもらう約束。

・秋に産まれた、最後の子は決して奪わない約束。

・決して、マアコを騙したりしないという約束。

そして今は、「必ず戻ってこい」と約束をしている。

他にも、書くほどでもない約束は数々ある。

並べてみると、まったく私の勝手な都合ばかりだ。

しかも、去年は子猫の保護が続き、我が家の猫も体調を崩した。

外でも内でも、私の勝手で引っ掻き回してしまい、

いたたまれなくて、もう、笑うしかなかった。

 

しかし、父からの電話攻撃は笑っていられなかった。

「もう運転するのはやめて欲しい。」

と、伝えた日以来、

一週間、父はもはや半狂乱だ。

朝から酒を煽って、電話を掛けまくって来る。

何度も何度も、何を言っているのか聞き取れない言葉を繰り返す。

挙句に、この日は、

「さっき、警察署行って来たら、休みだってよ。

免許更新はできんらしいから、明日また行ってくらぁ。へへへへ・・・」

と、ろれつも回らない状態でのたまった。

「ちょっと待って。朝もビール吞んでたよね?そのまま、運転して行ったの?」

私は、スマホを持ったまま叫びながら家を飛び出し実家へ向かった。

「父さん、本当にもうダメ。車のキーをよこして。」

「ばかやろう。お前みたいな何の苦労も知らん脳のない奴が、

そういう下らんことを簡単に言いやがる。」

その後は、省略する。

地獄絵図のような言い争いが続いただけで、なんの進展もない。

 

しかし、日が傾きかけた頃、私は、

「あっ、もう行かないと。」

と言って、父との言い争いを唐突に切り上げ、実家を後にした。

デッカの夕飯の時間だ。

さすがに、リターン当日にマアコが現れるはずはないから、

デッカのご飯だけを持って、会社へ行った。

会社に着き、車を降りるなり、

「デッカ!」

と、車庫に向かって叫んだ。

名前を呼ぶと、やっぱりデッカは車庫の奥で泣いていた。

でも出ては来ない。

私は、父との言い争いのせいで、

身体中に刺さった無数の棘を剥がすように、大きく深呼吸をした。

そして、もう一度、デッカを呼ぶ。

「デッ・・・・んん?」

「ニャッ」

「マッ・・・マアコ?」

なんと、マアコが現れた。

リターンして、たった7時間後、

マアコは、いつもの時間に、ごく当たり前のように現れた。

「マアコ、もう戻って来たの?マアコ、おかえり。体は大丈夫かい?」

そう言うと、マアコは分かっているのかいないのか、目を細めて、

「ニャン」

と鳴いた。

その声が、いつもよりしゃがれていて、

病院でさぞや激しく鳴いていたのだろうことが想像できた。

私の声も、連日の父との言い争いで、すっかりしゃがれていた。

そして、デッカも24時間、泣きじゃくって、すっかり声が枯れている。

 

「デッカ、お母さん帰って来たよ。」

デッカがついに、車庫から出てきた。

マアコが居なくなり車庫の奥に籠城して以来、24時間ぶりに当たる太陽だ。

眩しいだろうに、デッカの眼は太陽よりも輝いていた。

そして、デッカは躊躇なくマアコに駆け寄った。

「よし!」

私は思わずガッツポーズを取った。

 

が、その数秒後・・・

デッカ「ふー、うぅー」

マアコに威嚇した。

 この瞬間、私とマアコは、

「へっ?」

だ。

そして、次の瞬間は、

「あっ!」

だった。

マアコの被毛にこびり付く病院の匂いのせいで、デッカはマアコを認識できないのだ。

ふーふーううー唸りながら後退りしていくデッカ。

マアコは私に、

「どしよ?」

と言わんばかりの視線を送ってきた。

私は、

「取りあえずチュール舐めて落ち着こう。」

と言って、急いでチュールを取り出した。

いついかなる時もチュールは頼りだ。

チュールは偉大だ。

マアコは、チュールを1本舐めきり、

そそくさと階段を降りて行き、地面に体を擦り付ける。

「そうだ、さすがマアコ!」

そこは、マアコとデッカが排尿する場所だ。

マアコは、デッカに自分を気付かせようと懸命に臭い付けをし、

私はデッカに、

「ほら、見てごらんよ。マアコだぞ〜。ほらほら、マアコだぞ〜。」

と言い聞かせた。

 

デッカ「あれは母ちゃんか?ほんとに母ちゃんなのか?」

 

結局、デッカの疑いは拭い切れぬまま、

そのくせ、ゆっくり歩いて行くマアコについて行った。

恐る恐るだが、シッポをピーンと立たせているデッカを見て、

「あれなら大丈夫。」

と安堵して、帰った。

 

しかし、安堵は夜中に吹き飛ばされた。

父は酒を呑み続けたせいで、ついにぶっ倒れ、

父よりボケ具合がハイレベルなかずこが、

救急車を呼ぶことに成功してしまう事態となった。

けれど、ただの酔っ払い相手に、救急隊員は優しかった。

「病気じゃなくて良かったですよね。」

私は、怒りにわなわな震えながら、何度も謝罪をした。

もちろん、父は病院へ搬送されず、寝床まで運んでもらった。

 

翌朝、実家へ行くと、父さんの右まぶたが腫れていた。

私は、

「顔から倒れたんやな。父さん、昨夜の事覚えとる?」

と聞いた。

どうせ、覚えてないだろう?を含む聞き方だ。

ところが父は、

「覚えとる。」

と、小さな声で答え、ソファにうなだれた。

そのまま、

「分かっとるんだ。分かっとるが、どうしても納得がいかん。

自分の1番大事なもんを奪われたら、俺全部を否定された気分になる。

いや、分かる。お前は一生懸命やってくれとる。

その上、お前に面倒かけたらあかんと分かっとる。

すまんなぁ。でもどうしても、ホイホイと簡単には納得できんのだ。」

と続けた。

その時、私の脳裏にはマアコの姿が浮かんだ。

そして、ハッとした。

「私も苦しい。

誰かの大事なもんを奪うって、こんなに苦しいんかってくらい苦しい。」

マアコとの、これまでの苦悩と、父への苦悩が重なり、

この時ようやく、分かったような振りして、父を責め続けていた自分に気付いた。

本当に苦しいのは私じゃない。

「何が合ってて何が違うかは分かんない。

ただ守りたいもんのために、私はこんな事しか出来んのよ。」

そう言葉を絞り出すと、父はソファから立ち上がり、

棚の引き出しから車のキーを2つ取り出した。

「ひとつはスペアキーな。どっちも持ってってくれ。

目の前にあると、またボケて、全部忘れて乗っちまうからよ。」

そう言ってテーブルに置かれたキーは、2つとも傷ひとつ無かった。

17年落ちの愛車を、キーさえも大切にして来た証だ。

私は、それを丁寧にカバンの奥へしまった。

 

現在、マアコとデッカは、すっかり日常に戻っている。

とはいえ、デッカのマザコン振りは、増したかもしれない。

 

父は、少し気持ちが落ち着いて来たように見える。

その上、以前より悪態をつく頻度はうんと減った。

でも、酒の量は減らない。

もう少しこのまま、気が済むまで待つことにする。

 

私は、猫との約束は、もう懲り懲りだと思っている。

ただ、マアコと約束しなければ、

今私は、この場に立って居なかっただろう。

マアコの強さと愛に触れ、父の苦しみと覚悟を知った。

その全ての景色を、私は見ることが出来なかったに違いない。

そんな中、様々な人に励まされ、幾人かの人に出会い、

多くの助けを得られたことも、忘れてはいけない。

 

そして、私はきっと、また懲りずにマアコと約束を交わすのだろう。

その節は、またよろしく、マアコ!

 

長い長い記事を読んで頂き、ありがとうございました。


マアコとの約束 3

2025年01月22日 | マアコのこと

マアコを病院へ預け、社へ戻ると、

車庫の奥から大きな声が響いていた。
 
 
おはようございます。
 
「デッカ!」
 
名前を呼ぶと、物陰からこそっと顔を覗かせるが出ては来ない。
 
マアコが戻るのは翌朝だ。
 
「デッカ、お母さんは明日戻ってくるからね。」
 
そう声を掛けて社内へ入った。
 
デッカは生後4カ月のオスだ。
 
マアコの避妊の予約をするため行った動物病院の獣医は、
 
「親子共、手術できますよ。
 
と言ったが、私は、
 
「子猫は、捕まえられたら連れて来ます。」
 
と答えた。
 
 
今回、マアコの避妊を依頼したのは、
 
我が家の猫らを診てもらっている、メスや針を持つと目が輝くサイコパス先生ではなく、
 
野良猫の保護やTNRに協力的で猫の扱いにも慣れた獣医だ。
 
非常に早口で決して人の目を見ない。
 
こちらが質問すると、一旦挙動不審になる。
 
かなりコミュ障チックだ。
 
しかし、どんな事でも親身に考えてくれるし、腕も間違いないと評判だ。
 
その上、様々なケースのTNRを扱っているから話が早い。
 
早口だから、本当に早い。
 
早過ぎる。
 
なので、この獣医に初めて会った際は、少し悩んだ。
 
「オペ好きのサイコパスか、猫好きのコミュ障か、どっちがいいんだ?」
 
そして、こう思った。
 
「どっちにしてもクセは強い・・・」
 
ええい、だったら、結論は会社から近い方!
 
よって、コミュ障先生に依頼した。
 
 
 
マアコの入院中、
 
デッカは延々、車庫の奥で泣きじゃくっていた。
 
大きな声で泣くくせに、車庫の奥から全く出て来られない。
 
私はデッカが不憫で、夜の間も2度、会社に様子を見に行った。
 
泣きじゃくるデッカを呼びながら、翌朝のシュミレーションを考えてもいた。
 
「リターンは、マアコがデッカを確認できるまで待ち、出来たと思えたら扉を開けることにしよう。」
 
捕獲された野良猫は、リターン直後は闇雲に走り去ってしまうことが多い。
 
そして、戻って来る猫もいれば、戻って来ない猫もいる。
 
それなりに馴れた野良猫なら、その翌日か翌々日に戻って来ることがほとんどらしいが、
 
マアコは、そこまで懐っこい猫じゃない。
 
ご飯の最中でも、私以外の人の足音がすれば、一旦逃げ隠れる。
 
せめて、我が子の存在を思い出せば、少しは落ち着いてリターン出来るのではと考えた。
 
それでも、
 
リターン後、翌々日までにマアコが戻ってこなければ、
 
どうやってもデッカを捕まえて保護しなければと覚悟した。
 
「車庫から出られないようじゃ、単独で生きるのは、まだまだ無理だ。」
 
マアコとの約束よりも、デッカの安全が優先だ。
 
我が家の猫らにも、相当な負担を強いることになるだろうが、やるしかない。
 
 
 
翌朝、
 
私は会社にいるデッカのもとへ、我が家のおじさんは動物病院にいるマアコのもとへ向かった。
 
デッカは相変わらず泣いていたが、流石に腹が減ったようで、
 
泣きながら車庫の奥から出てきた。
 
「もうすぐ、マアコが戻って来るからね。」
 
デッカは、ウップウップと嗚咽を漏らしながらフードを食べた。
 
私はデッカが食べ終わったら、すかさず猫じゃらしをデッカの前で振って見せた。
 
「ほら、デッカ、遊ぼう。」
 
腹が満たされて少し安心したのか、
 
デッカは泣くのを忘れて遊びに夢中になった。
 
その時、おじさんの車が到着した。
 
「来た。デッカ、マアコ来たよ。」
 
 
マアコは無事、避妊手術を終えて帰って来た。
 
ここからだ。
 
マアコはデッカを認識できるだろうか。
 
それどころか、扉を開けてしまったら、一生の別れになるかもしれない。
 
私は体をこわばらせたまま、
 
車からケージを降ろし、デッカの居る車庫から見える場所に置き、包んでいた布をはいだ。
 
「デッカ、デッカ!マアコだよ。」
 
呼ぶと、デッカは大きな声で泣き、物陰から顔を覗かせた。
 
猫の視力は、それほど良くないはずだが、
 
それでもデッカは、マアコに気付いたのか、泣きながら物陰から出てきた。
 
「マアコ、分かるね。デッカの声だよ。」
 
そう声を掛けたても、マアコはピクリとも動かない。
 
とはいえ、パニックに陥っている様子はない。
 
よし、今だ。
 
今かな?
 
今なのかな?
 
結局、マアコがデッカを確認できたのか、全く分からん!
 
それでも、私は意を決してケージの扉を開けた。
 
 
「マアコ、おかえり。」
 
扉を開けてやっても、すぐには動こうとはしない。
 
「そうだ、マアコ。チュール持ってくるね。」
 
そう言って離れた途端、マアコはケージから飛び出して行った。
 
 
デッカを車庫に置き去りにして行ってしまった。
 
 
マアコは、いつ戻って来るだろうか。
 
マアコ、戻ってこい。
 
私は、いつまで待つことになるのだろうと考えたら、目眩がした。
 
 
続く
 
じれったい記事が続いております。
 
大変、申し訳ありません。
 
次回4で、完結すると思いますので、
 
コメントは、お気遣いなく~。
 
 

マアコとの約束 2

2025年01月20日 | マアコのこと

去年の8月から始まった、

『メッシュパネルを、段階を踏んで組み立てながら、その中で、ご飯を食べてもらう作戦』

が、完成するまでに半年と記したが、

それはマアコの問題だけではなかった。

 

おはようございます。

私の組み立てスピードが遅かったせいだ。

サクサクと組み立てて行けば、3か月で完了したのかもしれない。

しかし、私はケージで捕獲が成功さえすればいいと考えていなかった。

これは、7段階目クリアした時。

底→横1枚(右)→横1枚(左)→前→横2枚め(右)→横2枚目(左)

→上1枚目

 

マアコは私と出会うまでに、どこでどう生きて来たのか、分からない猫だった。

情報網を張り巡らせている猫ボランティアのSさんでさえ、

「マアコちゃんが、どこの誰にご飯を貰っているのか、分からないんです。

餌場も、いくつかあるんですが、そこでの目撃情報もありませんし。」

と首を傾げた。

マアコは、この界隈の一斉TNRの際、捕獲機に引っかかり、

その時、乳房を見て出産直後だと分かり、避妊手術をせずリターンされたことで、

ボランティア団体はマアコの追跡を始めた訳だが、情報はほとんど得られない。

だからといって、飼い猫である可能性は考えられない。

人間を極度に恐れ、警戒している。

とはいえ、猫の狩りは成功率3割と聞くが、狩りだけで生きて来たとも思えない。

謎が多い野良猫だ。

 

そんな野良猫が、弊社の車庫内に子猫を匿うようになった。

運送会社には、隠しやすい場所が多いせいか、珍しい事ではないが、

私は、チャー坊のことがきっかけで知り合った猫ボランティアのSさんから、

マアコのことを聞いていた。

それに加え、弊社のドライバーから、

「あの白黒が、チャー坊を連れて来たんだよ。」

と聞かされ、それ以来気になっていた。

 

そんな訳で、私はマアコの餌付けを始めることとなった。

マアコには避妊を、子猫は出来る限り保護だ。

子猫の存在のおかげで、マアコの餌付けは徐々に定着していった。

それにつれ、私は、

「せっかく、この会社で定期的にご飯が食べられるようになったのに、

怖い痛い思いをさせたら、ここへも来なくなってしまうのじゃないか。」

という不安が浮かび上がって来た。

臓器を一つ、いや卵巣と子宮の二つを奪う。

それと同時に、マアコを裏切ることになるなんて、いやだ。

Sさんも、

「マアコちゃんのようなタイプはTNR後、戻って来ないかもしれません。」

と言う。

だったら、少しでもマアコと信頼関係を築くことはできないだろうか。

そう考え、ケージ作戦と同時に本気の餌付けが始まった。

捕獲まで、少しでも人に馴れてもらい、

捕獲方法も、出来る限りマアコに恐怖を与えないことが目的だ。

親睦を深めるためブラッシングしてやろうとブラシを伸ばして、

思いっきりシャーっと激怒する直前のマアコ。

 

私は正直、マアコに触れられるようになるとは思いもしていなかった。

せめて、至近距離でご飯が食べられるようになれば、と望んでいたが、

マアコは私に触れることを許すようになった。

これには驚いた。

嬉しい、やったぜ!そう思う心の片隅がちくんと痛んだ。

「まあ、人間の手も悪くないわね」と思うようになってきたマアコ。

 

その後、ケージ組み立てとマアコの餌付けは順調にのんびり進んだが、

去年の秋の出産を機に、マアコとの約束のため、私はデッカを保護しないと決めた。

そのおかげか、マアコとの距離がさらにぐっと縮まった気がした。

ご飯を用意していると、決まってマアコは私に体をすり寄せてくるようになり、

食後は、デッカを私に預けて、独りで散歩へ出かけるようになった。

「留守番中は、豚ゴリラと遊ぶんだ。」なデッカ。

子猫ってのは、みんな、私を豚ゴリラと呼ぶのだな。

 

私は、マアコの子育てを手伝いながら、

そろそろだと思った。

これ以上伸ばすと、マアコが発情期に入ってしまう。

そう考えると、擦り寄るマアコの感触が、私の心の片隅の痛みを、さらに強くさせた。

その痛みを誤魔化すように、私は唱え続けた。

「マアコ、手術後も、戻って来るんだよ。約束よ。」

これまでに約束ばかりマアコに強いてきたが、

私はまた、マアコに約束を押し付けた。

 

そして、ついに1月17日となった。

この日は大安だ。

会社に向かう車中、私は祈っていた。

「マアコが現れませんように」

苦節半年、避妊させるために頑張って来たくせに、私の祈りはそれだった。

己で、己の計画をぶち壊す祈りだ。

しかし、マアコはデッカと共に現れた。

というか、すでにケージの前で待っていた。

「マアコ、どうして来ちゃったのさ。

いいかい、これから私はお前を捕まえるぞ!

怖い思いするんだぞ!いいか?いいのか?どうなんだい?」

なぜか、なかやなきんに君の口調だ。

 

こんな日に限って、車庫前の人の往来が多い。

さらに、声を掛けながら車庫に入ってこようとする社員がいて、

私は思わず、

「来ないで!」

と叫んでしまい、

そのせいで、デッカは警戒して物陰に隠れてしまった。

マアコも、いつもとは違い、警戒している。

そりゃ当然だ。

紙皿に少量のチュールだけを入れるなんて、この日が初めてだし、

それ以上に、私の手がぶるぶる震えている。

マアコは一旦、ケージから離れてしまった。

「ダメかも・・・」

と諦めかけたが、マアコは意を決するようにケージに入った。

私は、マアコがチュールを完食するまで待ち、

そっと扉を閉めた。

 

すぐさま、布でケージを覆い、

ペットシーツで底を養生した後、

手土産みたいに、大きな布でケージを包んだ。

無言で素早く、ここまで完成。

怖い思いをさせている最中、私の声を聞くことで、

マアコの脳裏で恐怖と私とが紐づけされないよう、ひたすら無言。

その後、熟女さんの運転で、動物病院へ向かった。

車中も、当然、無言を貫く私に、

なぜか熟女さんもつられて、小声だった。

「私、お腹が痛いんだけど」

熟女さんは、こんな日に限って腹を下していた。

 

「マアコ、必ず戻って来るんだぞ。」

診察台にケージを置き、私は祈りながら診察室を出た。

その時、熟女さんは、トイレへ駈け込んでいた。

 

続く


マアコとの約束 1

2025年01月19日 | マアコのこと

今、私と父さんは激しいバトル中だ。

年末から一気に認知機能が落ちた父、

運転免許の更新時期が迫り、

ついでに、父の愛車の車検も迫って来た。

この機に

「車は手放して、更新はせず、運転はもう止めて欲しい」と訴える私に反し、

父さんは毎日、朝から大荒れで、そのくせ、

「はよ、運転免許の更新に行かなあかん」と言い続ける父。

昨夜は、私が実家を出た後、父は酒を呑み過ぎてぶっ倒れたようで、

なんと、ボケボケかずこが救急車を呼ぶ事態となった。

私は慌てて実家へ戻り、救急隊員さんへ謝罪してきたが、

きっとそれも、今朝になればすっかり忘れて、

「そろそろ、免許の更新せなあかん」と念仏を唱えるのだろう。

 

おはようございます。

私は、119番に電話できた、かずこさんに驚いている。

今朝、改めて、かずこさんを褒めてやろう。

そんなこんなで、ブログも放置しておりました。

申し訳ありません。

そして、

放置には、もう一つ、『マアコのTNR』が行われていたからでもあります。

なんでいつも、なにかと重なるのだろうか?

 

捕獲機に入らない野良猫。

それをトラップシャイと呼ぶらしいが、マアコもトラップシャイだった。

その上、マアコは、以前自分の捕獲を試みたボランティアのSさんを

今だにしっかりと覚えている。

恐らく、声を覚えている。

一度、弊社に様子を見に来たSさんを遠くから確認して、

すっ飛んで逃げて行ったから、間違いない。

マアコは、凄まじく警戒心が強くて、恐ろしく頭の良い野良猫だ。

そんな猫との知恵比べ、私が勝てるわけなど無いのだが、

私だって、ベテラン猫飼いだ!

猫の習性なら、少しは知ってる!!

と、考えに考え、この方法に辿り着いた。

『メッシュパネルを、段階を踏んで組み立てながら、

その中で、ご飯を食べてもらう作戦』

作戦名が長い!

マアコが、箱状の中でご飯を食べられるようになったのは、

作戦を始めて、約半年が掛かった。

徐々に組み当てられていくケージの中に入る度、

私はマアコに、

「いずれ、お前をこの中に閉じ込めるんだよ。

一度だけ、本当に一度だけ、マアコに痛い思いをさせるんだからね。」

と必ず伝えた。

 

そうだ。

私は頭の良い野良猫に勝てる訳がない。

だから、作戦の企みを初めから、マアコにバラしていた。

そして、こう付け加えた。

「マアコ、本当に嫌だったら、逃げなさい。デッカを連れて逃げろ!」

こんなことを言ったからって、猫に伝わる訳ないと

私は思わなかった。

マアコは、私との約束をこれまで何度となく守った猫だ。

夏の子猫の保護も、マアコが約束を守ったから出来たことだし、

秋の子猫の保護も、マアコは見事に果たした。

だから私も、マアコとの約束は、必ず守る。

そう決めたのだ。

「マアコ、私はお前を騙したりしない。約束だ。」

 

続く

長くなるので・・・