先週の日曜日は、
電車で、知立(ちりゅう)駅まで、
酒を飲みに行っていたっけな。
おはようございます。
電車に乗り込んでみれば、席は埋まっていた。
日曜日の夕方なのに?とちょっと驚いたが、
2駅越えれば、知立駅だ。
大した時間ではないから、立っているのも苦にはなるまい。
駅まで歩くだけでも汗ばんでいた私にとってみれば、
むしろ、立っている方が涼しくて、好都合だった。
電車は、様々な人を乗せ走り出した。
車内の揺れが、いつもより心地よく感じられ、
立っているのに、少し眠気を感じていた私は、
次の駅に停車したことを、ドアが開き始めて、ようやく気づいた。
静かな無人駅には、誰も乗り降りはなく、
そのまま、ドアが静かに閉まった。
と、その瞬間!
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私の頭に、なんか、乗ってる?
慌てて頭を振ってみると、足元に、ぽてっと何かが落ちた。
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スズメ?
これは飛ぶ練習をしていた、巣立ち前の子スズメ?
さて、ここからが大変だ。
駆け込み乗車してしまった子スズメは、完全にパニックだ。
狂ったように飛び交うが、成鳥ほどは上手く飛べないようで、
あちこちと体ごとぶつかって行く。
「あかん、これではケガしてしまう」
私は、スズメを驚かさないように、そっと後を付けながら、
捕まえようと車内を右往左往していた。
すると、座っていた乗客にも、パニックのウェーブが始まった。
「ギャーーーー」
「うわ~~~」
「いやーーー」と。
こうなったら、もはやスズメは、私の責任下に置かれてしまい、
私は、なぜか「ごめんなさい、すみません」と謝りながら
車内を席巻するスズメを追いかけた。
それを見ていた、あるご婦人が、ついに動き出す。
「これを、このハンカチをフワッと被せて捕まえて!」
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私は、「ラジャー」と言わんばかりに頷いてハンカチを受け取った。
もう後には引けない。
そしてさらに、そのご婦人の発言で、
私は、必ず任務を果たさなければならなくなった。
「みなさーん、スズメは人に危害は加えませーん。
落ち着いて下さーい。
皆さん、静かに座っていて下さーい。
スズメを驚かさないでー。
スズメはあなた方に危害は加えませーん。」
ご婦人の的確なアナウンスが響く中、私は・・・
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しっちゃかめっちゃかだった。
そして、とうとう知立駅に到着してしまった。
ドアが開く音がして、私は焦りに焦ったが、スズメから目を離さない。
そしてついに、
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叫んだ頃には、車内には、事の訳を全く知らない、
乗客が乗車し始めていた。
ちなみに、知立は終点だったから、今まで乗っていた人々は、
一人残らず下車していた。
「なに、あの人?」という怯えた視線を向けられた私は、
何事も無かったかのように、スズメをくるんだハンカチを持って、
電車を降りた。
すると、すぐそこに、あのご婦人が待っていてくれたのだ。
「あの、捕まえました」そう息を切らせながら言う私に、
ご婦人から、次のミッションが告げられた。
「その子、ひとつ前の駅で乗ってきたのよね?
という事は、そこで親鳥が探してるはずだから、
あなた、その駅に戻ってあげて!」
「ラ・・・ラジャー」
そりゃそうだ。うん、そうするべきだ。
それはいいが、では、どの電車に乗ればいいのか?
悩んでいる私に、後ろからすかさず、
車内で私達を見守っていただろう駅員さんが、囁いた。
「この電車は折り返すから、再度、この電車に乗ってください。」
ちょっと待って!
叫んだ事の訳を知らない人々に囲まれろって事?
視線、痛くない?ねえ、痛くない?
そうも言ってはいられない私は、
ご婦人と駅員さんにお礼を言って、車内に戻ろうとした。
その時、
やたら輝かしい笑顔の外人さんが近付いて来るではないか。
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この人、手助けしようとしてるんじゃない?
そうよ、きっとそう。
ほら、外国の人のほうが、動物愛護の精神が強めだったりしない?
そうよ、きっとそう!
期待に胸がパンパンの鳩胸の私に、
外人さんは、たどたどしい日本語で、こう言った。
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「ここは、ちりゅうですか?」と聞いてきたのだ。
あのね、今の私に話しかけていいのは、救世主だけだかんな!
私はそう言ってやりたかったが、そんな英語は知らないから、
普通に答えたのだった。
ハンカチを両手で持った私は、俯いたまま、電車に乗り込んだ。
運よく座席が空いていて、私はそこに座り、
私と膝の上のスズメは、親鳥の待つ駅へと揺られて行った。
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私は、突然、大変な事に見舞われてしまった訳だが、
やっぱり、あの日は電車の揺れが、とても心地いいと思えた。
うんこさんや
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子スズメさんね、無事、母さんと会えたよ。
良かったな。