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(つづき)
薄茶席から濃茶席の待合へ進み、床を拝見すると・・・
中国の故事に因む「黄初平の画」が掛けられ、解説書がありました。
黄初平(こう・しょへい)は晋代中国の仙人。
浙江丹渓(浙江省金華市)の人。15歳の時に命じられて羊飼いをしたが、
一人の道士に気に入られて金華山の石室に連れて行かれる。
兄の初起が40年後に探し当て、初平は白い石を1万頭の羊に変じる術を見せた。
兄もまた妻子を捨てて初平とともに仙道をきわめ、不老不死となった。
黄初平を全く知らなかったのですが、羊年にはよく登場する仙人だそうです。
「白い石を1万頭の羊に変えた」の意味するところが興味深いですね。
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写真が無いので参考です(円山応挙の「黄初平の画」)
三宝に炭、熨斗鮑(のしあわび)、海老、ウラジロ、橙、干し柿が飾られています。
Wさんが熨斗鮑の作り方をお話してくださり、濃い内容の話に一同びっくり!
私なぞはずーっと熨斗鮑を海草の類と思い込んでおりました。
昔々、倭姫命(やまとひめのみこと)が国崎を訪れた際に
海女から差し出された鮑の美味しさに感動し、伊勢神宮に献上するように
命じたのが始まりとされます。
今も鳥羽市国崎町では古来からのしきたりに従って熨斗鮑を作っているそうで、
体験学習されたWさんの貴重な話を伺うことが出来ました。
鮑の身を外側からかつら剥きにして3~4mのひも状にして干します。
琥珀色の生乾きになったら、竹筒で押し伸ばし、乾かしを繰り返します。
短冊状に切り揃えて、わらひもで編み込み、出来上がりです。
「とても大変な作業でした。鮑は飾るより食べるものですね」
「う~ん・・・Wさんってスゴイ!」
奥の深いWさんの話に一同感心し、三宝の熨斗鮑をじっくり見直した次第です(汗)。
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長々と立派な「熨斗鮑(のしあわび)」
待合で花びら餅(末富製)を頂き、濃茶席へ席入しました。
おめでとうございます
本年もよろしくお願いいたします
先生と交わす新年のご挨拶は、2015年乙羊の何よりのスタートとなりました。
今年もご指導のもと、心新たに茶の湯に精進して参りたいと思います。
床のお軸は和漢朗詠集の「梅」、御筆は青蓮院宮尊朝親王です。
誰言春色従東到 (誰か言ふ 春の色 東より到るとは)
露暖南枝花始開 (露 暖かにして 南枝 花 始めて開く)
いにしとし ねこじてうゑし わがやどの
わかきのうめは はなさきにけり 安倍広庭(拾遺)
(昨年 根っこごと植えた我が家の梅の若木は 今年の春 花を咲かせました)
曙椿と鶯神楽が竹一重切の花入に生けられています。
竹花入は玄々斎長男の一如斎の銘「タカ」、三つの内だそうです。
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(薄茶席です)
道庫から茶道具が出され、先生が濃茶を三碗練ってくださいました。
さらっとした舌触り、まろやかな甘みが口中いっぱいに広がりました。
濃茶は「慶知の昔」小山園詰です。
華頂宮尊超法親王さま御手造の黒茶碗で初めて濃茶を頂戴しました。
嘉永二年霜月今日庵御立寄の節玄々斎拝領 共箱 玄々斎甲書有
鵬雲斎大宗匠外箱 と会記にありました。
小振りの塩筍のような形は掌にすっぽりとおさまり、喫しやすく、
黒釉の胴にある2つの漆抜けがアクセントになっていました。
やんごとなき御方の作なので無銘です。
二碗目の古萩も風格がありましたが、三碗目が当代の赤楽でした。
銘「大雄峰」 坐忘斎御家元箱 吉左衛門造、
慶事の記念に特別注文して作って頂いたという、感激と垂涎の茶碗でした。
改めて手に取ると、程よい大きさ、縦に入った箆目がすっきりと美しく、
赤と黒の釉薬が微妙な景色を生み出して、いつまでも見ていたい・・・と。
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寒ぼたん (季節の花300)
茶碗だけでなく、瀬戸・破風窯 翁手の茶入 銘「玉津島」(仕覆は青木間道)
と嬉しい再会をしました。
それから象牙に漆を塗った茶杓、S先生からいつも伺っていたのですが、
意識を以て拝見するのは最初かも・・・茶杓は利休好象牙、塗は三代宗哲です。
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初釜最終の濃茶席は、私にとってこちらで過ごす最後のお席でした。
いつものお稽古のように楽しいお席で、S先生の話に耳を傾け、濃茶を味わい、
熨斗鮑の話に感心し、大笑いしながら、夢のようなひと時を過ごしました。
皆さま、いろいろお世話になりました。
ありがとうございます!
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