ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

小説家の奥泉光さんが書いた「シューマンの指」を読んでいます

2013年01月14日 | 
 小説家の奥泉光さんが2010年7月に上梓した「シューマンの指」を読んでいます。奥泉光さんは実験的な試みの小説を次々に書く方です。これまでにも、予想を超える話の展開に、何回か驚かせられています。

 この小説「シューマンの指」も、人間の指の“組織再生”という怪奇な虚構を織り込んで、独自の世界に引きずり込みます。



 現在読んでいるのは、実は文庫本です。先日、都内の大型書店に行って、一通り見て回った時に、文庫本のコーナーで、この「シューマンの指」を見つけました。「シューマンの指」が単行本で発行された2010年7月に、野心的な内容から書評に取り上げられ、面白そうなので購入しようと思っていたのですが、買いそびれていたからです。

 今回読んで、シューマンはポストべートーベンの作曲家として重要との位置づけの視点をあちこちに展開しています。独断的な音楽論だけも楽しい内容です。例えば、「トッカータ」という即興曲についての見解に引かれました。バッハがほぼ完成させたトッカータの形式に対して、ロマン派の作曲家はほとんど書かなかった中で、シューマンは学生時代に書いていると伝えます。シューマンが書いたトッカータは演奏が難しい曲だそうです。

 シューマンの「子供の情景」の中の「トロイメライ」論もかなり面白いです。いろいろな曲の解説がとても面白く、それぞれ聴いてみたくなります。

 奥泉光さんはとても勉強家です。この「シューマンの指」ではさまざまな音楽論を独断的に語ります。これに対して「桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」というコミカルな小説も書いています。守備範囲の広さが分かります。



 関西圏の私立女子大学から関東圏の田舎の私立女子大学(受験レベルでは日本でも最下位の大学との設定になっています)に転職した、あだ名が“クワコウ”の准教授が狂言回しのミステリー小説です。ただし、ミステリーの部分よりも、あまり勉強しない学生や、いい加減な講義をする准教授の日常生活がコミカルに描かれている点が面白いものです。中心メンバーの中には、大学近くの森の中で、“段ボールハウス”に住むホームレス女子学生も登場します。

 この「桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」は2011年5月に発行され、書店で見つけて、すぐに読んだものです。この小説は「モーダルな事象―桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活」の続編です。こうしたコミカルな小説と、「シューマンの指」などのような哲学的な部分を含む小説も書く、知識の豊富な器用な小説家です。

 「シューマンの指」を読んでいると、シューマンなどの曲が無性に聴きたくなりました。