ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

基調講演「新興国における日本企業の市場獲得と現地化」を拝聴しました

2013年01月29日 | イノベーション
 1月28日に東京都品川区で開催された「国際知的財産活用フォーラム2013」を拝聴しました。特許庁傘下の独立行政法人工業所有権情報・研究館(INPIT)が主催したセミナーです。

 今回の総合タイトルは「グローバル市場の獲得と知財を活かした事業展開」です。



 午前中の基調講演「新興国における日本企業の市場獲得と現地化」は示唆に富む内容のお話でした。グローバル市場で活躍する大手ガラスメーカーの旭硝子の日本・アジア事業部ソーラー・産業事業部主幹の堺井啓公さんが講演されました。

 まず興味を持ったのは、旭硝子の各事業の売上高と営業利益です。2011年12月期に公表された2011年度の数字です。

 大看板のガラス事業は2011年の売上高は5544億円(全体の44%)で営業利益は99億円(同6%)です。一方、ディスプレー向けのガラス基板などの電子事業は売上高は3865億円(全体の32%)で営業利益1335億円(同81%)、フッ素樹脂などの化学品事業は売上高は2486億円(全体の20%)で営業利益181億円(同11%)です。このほかにその他の事業があります。

 ガラス事業は規模は大きいが収益はかなり低いということです。窓ガラスや太陽電池パネル用、自動車用窓ガラスなどの製品を売っているガラス事業では、建築用の“板ガラス”では、旭硝子グループとフランスのサンゴバン社(+セントラル硝子)、日本板硝子グループ、米国ガーディアンインダストリーズ社の4社で世界市場の65%のシェアを占める大競争製品です。自動車の窓ガラスも、旭硝子グループとフランスのサンゴバン社(+セントラル硝子)、日本板硝子グループの3社でシェア65%を占めています。

 ガラスの既存市場はグローバル市場では寡占化が進み、熾烈(しれつ)な価格競争の結果、あまり儲かっていないようです。

 これに対して、電子事業の中核を占める液晶用ガラス基板は、旭硝子グループとサンゴバン社(+セントラル硝子)、日本板硝子グループの3社でシェア65%を占めています。旭硝子の営業利益の81%を稼ぎ出す“儲け頭”です。

 旭硝子は窓ガラスなどの汎用品では、あまり儲けていませんが、日欧米アジアなどのグローバル市場向けにガラス溶解炉などの生産設備を稼働させ、汎用品のガラスを販売することで従業員の雇傭を維持しています。

 そのガラス生産設備を稼働させている中から、テレビやパソコンなどの液晶ディスプレー用ガラス基板という高付加価値品を販売する電子事業で稼ぐ事業構造です。フッ素樹脂などのファインケミカルでも稼いでいます。

 ガラス全体の事業規模を維持しながら、その時の高付加価値製品で高収益を上げる事業構造を保っている点に感心しました。日本企業は高付加価値製品の販売で収益を維持しようとしています。その実現には、旭硝子のような事業構成がかなり参考になると感じました。

 旭硝子は「2020年のありたい姿」を目指し、「ガラス技術立社」「第二のグローバリぜーション」「環境・エネルギー分野での技術力」の3つの視点で成長基盤を築くそうです。

 ガラス技術立社では、ガラス技術などを基に、新たな事業モデルの構築を追究されるそうです。

 講演された堺井啓公さんは、実は経済産業省の方で、現在は官民交流で旭硝子に出向されているそうです。講演の後半は、経産省や厚生労働省、文部科学省が取りまとめた「平成23年度 ものづくり基盤技術の振興施策」を解説されました。この内容も示唆に富むものでした。