我が国の会社とは全く異なる存在だった:
私はこれまでに何度も「アメリカの会社があのような仕組みになっていると事前に承知していたら、先ず転進などしなかっただろう」と述べてきました。その辺りを経験から語っていこうと思います。このような「アメリカの会社論」は、私以外に採り上げた学者も専門家もおられないと思います。嘗て、ある出版社の単行本のデスクに私が書いた200枚を超えたアメリカの会社と文化の相違論を「紙パルプ産業界のみの事だろう」とボツにされた事もありました。素直に言えば「紙パルプ産業界」という眼鏡を通して見た「アメリカの会社論」かも知れません。
事業部長(GM)の権限:
事業部長は概ね副社長であるようです。しかし、副社長(vice president)は我が国の取締役副社長とは全く異なる役職です。彼または彼女は「営業・販売、製造、人事・勤労、総務、経理、工場の管理運営等の一切の権限を持つ、一つの会社の社長以上かも知れない力を与えられています。と言うよりも、私が在籍したウエアーハウザーでは、各事業部は独立した存在であり、他の事業部との人事の交流など滅多にありませんでした。
しかしながら、この点では全般的に大手の製造業者では同じような仕組みになっていると思います。そうでなければ、他社から転進してきていとも簡単に直ぐにその会社の仕組みに馴染めないでしょう。事実、アメリカの会社ではごく普通に「君はここに来るまで何処のどのような会社にいたのか」と尋ねても、決して失礼には当たらないのです。我が国では考えられないことだと思いますが。
GMは人事権を持っているので、事業規模の拡大(あるいは縮小)に伴って増員と減員を行います。増員の場合に4年制の大学の新卒者を採用する事などあり得ません。熟練した即戦力を会社の内外に求めます。我が社では原則として先ず社内に公募の告知を出すと定められていました。適任者がなかった場合に社外からとなるのですが、そこに「引き抜き」、「ヘッドハンティング」、「Help wanted」、「売り込み」等々があります。その応募者の面接はGMの仕事ですが、場合によっては部長級が担当する事もあります。
GMは殆どの場合に自分の担当の得意先を持っているのです。私の事業部では日本市場が最大の売り先だったので、駐在マネージャーの私と副社長が2人で担当する形でした。だが、現実的には日常の実務も判断業も私の責任範囲ですが、究極の責任は副社長兼GMにあります。彼は大学の専攻が会計学でしたが、副社長になってから何時の間にか工場の技術者が寧ろ呆れたほど製紙の現場の実務に精通していました。しかし、彼の高額の年俸とボーナスからすれば、これくらいの事を一夜にして習得出来ていなければ、お払い箱になっても仕方がないのがアメリカです。
更に我が国との大きな違いを述べていきます。それはVP兼GMの下に何十人部員がいようとも、彼らは(我々は?)偉さで言えば「横一線」で年功序列も何もありません。それは全員が即戦力の中途採用で、それまでの経験と実力をGMが面接の際に聞いて判断して、その者と話し合って合意した年俸で入ってきたのですから、部員それぞれを比較しようがないのです。しかしながら、人数が増えれば、GMが全員から毎日上がってくる報告書を全部完全に読み終えるのは物理的に不可能なので、中間に取り纏め役の者を何名かおいて、取捨選択する役目と与える場合があります。
部員としてはGMとの中間に誰か同僚が入ってしまうのは不名誉なので、GMの直轄の部下になれるように努力します。この中間を排除される地位を“direct report”と言いますが、かなり誇り高い地位なのです。自慢話めきますが、私は光栄にも、そのdirect reportでした。またGMは1年に1度、入社日時が異なる全部員との査定の話し合いをするのも大変なので、概ね3月末に一人づつ話し合って翌年の給与を決めています。この話し合いでは成績次第で、かの“You are fired.”が待っているのです。正直に言えば恐怖でしょう。
本社機構と工場:
一言にすれば「全く別個な組織である」と言って誤りではないと思います。簡単に言えば「本社機構にいる者は全て中途採用の幹部候補生と経営の幹部と、ほぼ絶対的に身分の垂直上昇は望めない事務職だけで、当然ながら全員がサラリー制なのです。しかしながら、、確認しておきますと「4年制の大学卒の新卒で入社してきた者はいない」のです。彼らを採用して教育することは考えていないのです。新卒後に4年間の実務経験を経てビジネススクールでMBAを取得してきた大学院の新卒者はいるでしょうが。
工場では地元で本社とは別個に4年制の新卒を採用していますが、この者たちは「地方採用」であって、本社機構の社員ではないのです。ここで技術面で腕を磨くか、事務職としての才能と実績を認められれば、本社から勧誘されるか、その評判を聞きつけた他社からの引き抜きもあるというのが、アメリカのシステムでしょうか。特に州立大学の4年制の出身者はこのような場で4年間の経験を積んで、ビジネススクールの応募資格が出来るのです。この辺りを「州立大学にしか入れなかった時点で、自分の将来が決まった」と言った若者がいたことの説明になるのです。
補足的に言えば「アメリかでは州立大学はIvy Leagueに代表されるような私立大学よりも評価が低く、卒業しても中小企業に職を求めるのが普通で、そこから如何にして這い上がっていくかが問題なのです。MBAは確かに大企業への道でしょうが、今や有名私立大学の大学院の学費は1,500万円/年に迫っていると聞きますので、余程の裕福な家庭か資産家の子弟でないと苦労するようです。それは、自己資金以外には返済を要する奨学金や学生ローンはあるのですが、これは一度でも返済が滞ると、銀行でブラックリストに載ってしまう危険性があるからだそうです。
視点を変えれば、俗に言われている「1%の者たちが99%の富を握っている」と言われているアメリカという国に、厳然として存在する格差を表しているのが、この学歴の問題に見えていると言うことです。私が知る限りでは「今や大手の企業で熾烈な競争に耐えて生き残る為に必要な資格が、MBAである」となっているそうですから、この点だけを捉えても我が国の会社と、現時点では異なっていると思います。
ここから先はまた別の機会に。
私はこれまでに何度も「アメリカの会社があのような仕組みになっていると事前に承知していたら、先ず転進などしなかっただろう」と述べてきました。その辺りを経験から語っていこうと思います。このような「アメリカの会社論」は、私以外に採り上げた学者も専門家もおられないと思います。嘗て、ある出版社の単行本のデスクに私が書いた200枚を超えたアメリカの会社と文化の相違論を「紙パルプ産業界のみの事だろう」とボツにされた事もありました。素直に言えば「紙パルプ産業界」という眼鏡を通して見た「アメリカの会社論」かも知れません。
事業部長(GM)の権限:
事業部長は概ね副社長であるようです。しかし、副社長(vice president)は我が国の取締役副社長とは全く異なる役職です。彼または彼女は「営業・販売、製造、人事・勤労、総務、経理、工場の管理運営等の一切の権限を持つ、一つの会社の社長以上かも知れない力を与えられています。と言うよりも、私が在籍したウエアーハウザーでは、各事業部は独立した存在であり、他の事業部との人事の交流など滅多にありませんでした。
しかしながら、この点では全般的に大手の製造業者では同じような仕組みになっていると思います。そうでなければ、他社から転進してきていとも簡単に直ぐにその会社の仕組みに馴染めないでしょう。事実、アメリカの会社ではごく普通に「君はここに来るまで何処のどのような会社にいたのか」と尋ねても、決して失礼には当たらないのです。我が国では考えられないことだと思いますが。
GMは人事権を持っているので、事業規模の拡大(あるいは縮小)に伴って増員と減員を行います。増員の場合に4年制の大学の新卒者を採用する事などあり得ません。熟練した即戦力を会社の内外に求めます。我が社では原則として先ず社内に公募の告知を出すと定められていました。適任者がなかった場合に社外からとなるのですが、そこに「引き抜き」、「ヘッドハンティング」、「Help wanted」、「売り込み」等々があります。その応募者の面接はGMの仕事ですが、場合によっては部長級が担当する事もあります。
GMは殆どの場合に自分の担当の得意先を持っているのです。私の事業部では日本市場が最大の売り先だったので、駐在マネージャーの私と副社長が2人で担当する形でした。だが、現実的には日常の実務も判断業も私の責任範囲ですが、究極の責任は副社長兼GMにあります。彼は大学の専攻が会計学でしたが、副社長になってから何時の間にか工場の技術者が寧ろ呆れたほど製紙の現場の実務に精通していました。しかし、彼の高額の年俸とボーナスからすれば、これくらいの事を一夜にして習得出来ていなければ、お払い箱になっても仕方がないのがアメリカです。
更に我が国との大きな違いを述べていきます。それはVP兼GMの下に何十人部員がいようとも、彼らは(我々は?)偉さで言えば「横一線」で年功序列も何もありません。それは全員が即戦力の中途採用で、それまでの経験と実力をGMが面接の際に聞いて判断して、その者と話し合って合意した年俸で入ってきたのですから、部員それぞれを比較しようがないのです。しかしながら、人数が増えれば、GMが全員から毎日上がってくる報告書を全部完全に読み終えるのは物理的に不可能なので、中間に取り纏め役の者を何名かおいて、取捨選択する役目と与える場合があります。
部員としてはGMとの中間に誰か同僚が入ってしまうのは不名誉なので、GMの直轄の部下になれるように努力します。この中間を排除される地位を“direct report”と言いますが、かなり誇り高い地位なのです。自慢話めきますが、私は光栄にも、そのdirect reportでした。またGMは1年に1度、入社日時が異なる全部員との査定の話し合いをするのも大変なので、概ね3月末に一人づつ話し合って翌年の給与を決めています。この話し合いでは成績次第で、かの“You are fired.”が待っているのです。正直に言えば恐怖でしょう。
本社機構と工場:
一言にすれば「全く別個な組織である」と言って誤りではないと思います。簡単に言えば「本社機構にいる者は全て中途採用の幹部候補生と経営の幹部と、ほぼ絶対的に身分の垂直上昇は望めない事務職だけで、当然ながら全員がサラリー制なのです。しかしながら、、確認しておきますと「4年制の大学卒の新卒で入社してきた者はいない」のです。彼らを採用して教育することは考えていないのです。新卒後に4年間の実務経験を経てビジネススクールでMBAを取得してきた大学院の新卒者はいるでしょうが。
工場では地元で本社とは別個に4年制の新卒を採用していますが、この者たちは「地方採用」であって、本社機構の社員ではないのです。ここで技術面で腕を磨くか、事務職としての才能と実績を認められれば、本社から勧誘されるか、その評判を聞きつけた他社からの引き抜きもあるというのが、アメリカのシステムでしょうか。特に州立大学の4年制の出身者はこのような場で4年間の経験を積んで、ビジネススクールの応募資格が出来るのです。この辺りを「州立大学にしか入れなかった時点で、自分の将来が決まった」と言った若者がいたことの説明になるのです。
補足的に言えば「アメリかでは州立大学はIvy Leagueに代表されるような私立大学よりも評価が低く、卒業しても中小企業に職を求めるのが普通で、そこから如何にして這い上がっていくかが問題なのです。MBAは確かに大企業への道でしょうが、今や有名私立大学の大学院の学費は1,500万円/年に迫っていると聞きますので、余程の裕福な家庭か資産家の子弟でないと苦労するようです。それは、自己資金以外には返済を要する奨学金や学生ローンはあるのですが、これは一度でも返済が滞ると、銀行でブラックリストに載ってしまう危険性があるからだそうです。
視点を変えれば、俗に言われている「1%の者たちが99%の富を握っている」と言われているアメリカという国に、厳然として存在する格差を表しているのが、この学歴の問題に見えていると言うことです。私が知る限りでは「今や大手の企業で熾烈な競争に耐えて生き残る為に必要な資格が、MBAである」となっているそうですから、この点だけを捉えても我が国の会社と、現時点では異なっていると思います。
ここから先はまた別の機会に。