とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

劇評『パーマ屋スミレ』(6月4日 新国立劇場小劇場)

2016-06-08 08:28:31 | 演劇
 作・演出 鄭義信
 出演 南果歩 千葉哲也 根岸季衣 村上淳 他

 ものすごい作品でした。苦しみの中で精一杯生き、憎み合い、殴り合い、あきらめて絶望して、それでも支え合う。そんな人間の美しさが描かれています。最後は涙が止まりませんでした。

 舞台となっているのは1965年から数年間の九州の炭鉱の町。南果歩演じる須美の一家が床屋で住み込みで働いている。かれらは「在日」であり、国籍が日本であったり、韓国であったり、北朝鮮であったり、それぞれの事情で違っている。男たちは炭鉱で働いている。そんなある日炭鉱事故が起き、事故の後遺症で男たちは苦しむようになる。

 一時は花形産業であった炭鉱も,終わり行く産業となっていた。そして「在日」も常に差別の対象となっていたのが現実であり、しかも新たに朝鮮半島からくることもほぼありえない。見捨てられた存在であるという意識が支配する。そんな中ケガの後遺症である。感情的にならざるを得ない。そしてみんなが傷つけあう。

 しかし、それでも家族だ。必死に支え合い、必死に愛し合い、必死に生きていく。

 私が生まれたころの話である。高度成長期の地方都市はにぎやかで活気に満ちていた。しかし地方の産業は次第に悪くなっていく。炭鉱はその中でも極端な例である。みんなが町を捨てなければいけない。それでも生きていかなければ。それは現在までずっと続いている。そして現在は大地震があり、原発の事故も重なる。

 みんながみんなのために必死だったからこそ、そこには争いが絶えなかったのだ。みんなが自分のためだけに必死な現在では争うこともない。

 最後の場面、外に雪が降りしきる中、須美が夫のひげを剃りながら、「パーマ屋」になる夢を語ります。せつなく美しい場面でした。

 名作です。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 劇評『コペンハーゲン』(6月... | トップ | 女性論6「増田明美さんのこと」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

演劇」カテゴリの最新記事