国立駅前の「はなまるうどん」が閉店した。
国立駅前の店は、頻繁に利用したというわけではないが、娘とたまに行った。各地のはなまるうどんは、よく利用する。
なんと言っても安い。かけうどんとかき揚げで500円くらい、揚げ玉は無料。もう、大満足です。
なぜ国立駅前店が閉まるのかはわからない。売り上げが減ったというのが、常識的な考えでしょう。
コロナの影響もあるのだろうか。
いずれにしても、慣れ親しんだお店がなくなるのは、さびしい。
今週、たまに行く国立の花屋さんで花を買った。ミニひまわりとナンチャラいう花だ。
女店員さんに言われた。「十日くらい前も、同じ花を買われましたよね」
ああ、覚えられていたのか。
なんか、居心地が悪いな。
私は、日陰者なので極力なじみの店を作らない人生を歩んできた。
昔、虎ノ門の法律事務所に勤めていたとき、近所に安くてうまい定食屋さんがあった。500円で、うまい刺身定食やしょうが焼き、トンカツ、天丼が食えたのだ(消費税が適用される前だから正味500円だった)。
しかし、毎日は行かない。2週間に1度程度だ。そのほかは、自分で作った弁当を食う。まわりには、店員さんに「常連客風」を吹かせるサラリーマンが何人かいて、私はそれが嫌だった。所詮は常連客何百人のうちの1人なのに、「俺だけ特別感」をアピールする姿が鼻についたのだ。
その店は、ご飯も味噌汁もおかわり自由だった。それで500円って、今ではありえないでしょう。
その店で、その「常連客風」を吹かせるサラリーマンは、「俺、ご飯を3杯はお代わりするよ。味噌汁も3杯だ」と店員に得意げに言って、昼休みを店で過ごすのである。
「俺、1時まで食い続けるからね」
本当に、どうでもいいことだが、私には、そんなことはできない。私は、その店にせいぜい10分くらいしかいられなかった。
店の外で客が並んで待っているのに、店に1時間なんて、空気を読めなさすぎでしょう。しかも、内容のない会話を店員に押し付けるのだ。俺は特別、だって思っているんでしょうね。俺は常連客だから許されるんだ、という感じか。あるいは、井森美幸さんに似た店員さんに惚れているとか。
そういう姿を見たからというわけではないが、人嫌いの私は、常連客には絶対になるまいと思った。
武蔵野に住んでいたころ、お気に入りのラーメン屋があった。つけ麺がうまかった。毎日行ってもいいほどの美味じゃった。全体にさびれた感があって、それも私好みだった。
私は、ラーメン道を押し付けるこだわりの店が苦手だ。鉢巻きしめて「らっしゃい!」は、鳥肌が立ちます。
この店に行くのは、3から6ヶ月に1回にガガガ我慢した。
ひっそりと店に入り、カウンターの隅っこが空いていたら隅っこに座って、生ビールとつけ麺を注文する。
俺のことなんか、覚えてないよな、と確信しているから、居心地がいい。厨房の大将も絶対に話しかけてこない。安心する。
金曜日、武蔵野から国立に越してから3年4ヶ月ぶりに武蔵境に行った。昼メシどきだったから食い物屋を探した。あのラーメン屋さん、まだやっているかな、と足を伸ばしたら、店はやっていた。
前は、行列ができていたのに、行列はなかった。少し寂しさを感じた。
店に入った。
するといきなり、大将に言われたのだ。
「あらあ、お久しぶり、つけ麺ですか」
顔を覚えられていたのである。1年に3回程度しか行っていなかったのに。
プロって、すごいんだな。俺なんか、人の顔なんかすぐに忘れるのに。顔どころではなく、名前も年も猫アレルギーだとか星座なんかも忘れてしまうからね。
今日パンツ履いてきたかも忘れてますよ。
「武蔵境から引っ越したんですか」と大将が聞いてきた。客は、他に一人だけ。さびしいね。昔はギュウギュウだったのに。ソーシャルディスタンスを守るため、席が一個おきにバッテンをつけられていた。席の間には、アクリルボードがあった。コロナ対策は、怠っていないようだ。安心だね。
武蔵境から国立に越したんですよ。
46から51歳に見える大将は、「ああ、僕、国立の桜満開の頃は、毎年行ってますよ。今年もコロナはありましたけど、家族で行きました。最後に回転寿司で寿司を食べるのがルーティンなんですよ」とおでこをポリポリかきながら言った。
「あのお、いつもどおり、生ビールもですか。つけ麺は、少し遅らせたほうがいいんですよね」
そんなことまで、覚えていてくれたのか。
「先生、あまりもので申し訳ないですけど、牛タンがあるんですよ。お代はいりませんから、どうですか」
俺、先生じゃないけど、いただきましょうか。
うんめえな。生ビールに合うな。
でもね、これって、俺の嫌いな常連客の会話だよね。
3年4ヶ月行ってなくて、常連客ってありえないけど。
牛タンを食い終わったころ、大将が言った。「そろそろ、つけ麺茹でます」
ああ、お願いします。意外と居心地がいいものだな。
つけ麺が出てきた。
相変わらず、うまいね。
食事のレポートは、しません。
スープの味がナンチャラとか太麺がナンチャラとかチャーシューがナンチャラなどというのは、他の人がしてください。
星みっつです!
食い終わったあとで、大将が言った。
「いま正直苦しい時期ですけど、僕は店を閉めないって決めているんですよ。僕だけじゃなくて、みんなが苦しいんだから、ここは、我慢のしどころです。先生、もしまた気が向いたら来て下さい」
そうだね、リンゴやナシは剥かないけど、気が向いたら来るよ。
大将が昭和のズッコケをした。
大将、生ビールとチャーシュー、ザーサイ小皿、小ライスを追加。
なんか、俺、常連客風吹かせてないか。