杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

コップ酒場の醍醐味

2008-01-17 21:29:45 | 地酒

 先日、『小夜衣』の森本酒造に紹介された金谷のコップ酒場・中屋酒店に、改めて取材にうかがいました。本日(17日)、静岡新聞ポータルサイトアットエスに掲載された拙文にもあるとおり、静岡では数少ない、酒の小売店で一杯飲み屋を併設している店です。昭和40年代までは多かったみたいですね、コップ酒場のある酒屋さん。50年代に入って食品衛生法に基づいた営業許可が必要となり、取引先の飲食店の顔色をうかがって、無理して営業許可を取るまでもない・・・と酒場をやめる店が続出した中、中屋酒店は頑固にコップ酒場の伝統を守り通しました。酒の販売は業務用よりも店頭売りがメインで、地域に欠かせない憩いの場でもあり、やめるわけにはいかなかったという事情もあったでしょう。

 6代目を継いだ片岡博さんは、店に足を運んでくれるお客さんに、少しでも珍しいもの、他では入手できないものを、と、県内外を駆け回って、こだわりの酒・ワイン・焼酎・調味料・食材などをそろえます。そして16時から営業のコップ酒場では、燗酒(若竹本醸造)1合250円ほか、小売店の冷蔵庫にある酒はどれでも注文OK、いろいろ種類を呑みたい人は0.5合からOKで、手づくりの煮物や焼き物を中心とした酒肴はほとんど400円以内というリーズナブルさ。日本酒1合が200円台で呑める店というのは、めったにお目にかかれないと思います。

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 「こういう店では、お燗や常温の酒がいいですね~」と舌なめずりをしていると、片岡さんが「これ、見たことありますか?」と出してきたのが写真の徳利。地元金谷の伝統窯・志戸呂焼の『ハト徳利』で江戸時代の作だとか。現物はほとんど残っていないそうで、志戸呂焼の作家がスケッチをしに来たこともあるそうです。ハトが身体を丸めてじっとしている姿に似てますよね。昔は、囲炉裏の灰の中にこれを挿して、囲炉裏の熱でじんわり燗付けをしたそうです。

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 今では錫の容器で湯煎する燗付け器『かんすけ』を使用しています。見た目は味気ないですが、ハト徳利の囲炉裏燗に近い、やんわりじわじわやさしいお燗が楽しめます。

 ちなみに、私は毎年、10月1日に開催される静岡県地酒まつり(静岡県酒造組合主催)で、『かんすけ』を使って燗酒ブースを担当し、20種余りの燗酒向きの県内銘柄を試飲していますが、純米酒を湯煎で丁寧に燗付けした美味しさは格別です。この店なら、いろんな銘柄を好きな温度で燗付けしてもらえそう!

 中屋酒店の常連客は、ほとんどが地元の人。16時の開店と同時にやってくる年配のお父さんたち、仕事が終わり、仲間とワイワイやってくる若い人たち、家族2代・3代と続けて通うご近所さん・・・私のようにアタマでっかちの地酒オタクは少ないかもしれませんが、一見のオタッキーでも気取らず、のんびり、時にはお燗の温度や、銘柄・酒器へのこだわりなんかも語り合いながら呑める雰囲気というのは得がたいものでした。

 地域で、個人商店が必要とされる理由も、そこにあるような気がします。