アカデミー賞のノミネーションが発表されました。私がいつも楽しみにしているのは脚本賞と編集賞。演技部門でも主演より助演を獲った作品のほうに惹かれます。
しずおか地酒研究会の創設時からのメンバーで、折に触れて相談に乗ってもらっているSBSアナウンサーの國本良博さんに、地酒映画作りの参考になるからと、先日、『カッティング・エッジ~映画編集のすべて』というDVDをいただきました。ハリウッドの著名な映画人たちが、編集者がいかにして映画作りに貢献しているかを語る国際共同制作のドキュメンタリーで、NHKハイビジョン特集として放送されたものです。
膨大な撮影フィルムの中で、どのカットをどれくらいの長さでつなぐのかが作品の良し悪しを決めるだろうことは素人なりに想像していましたが、編集者の中には撮影現場や俳優にはいっさい近づかず、編集ルームの中で、「観客の目にどう映るか」だけにトコトン徹する職人もいて、そういう編集者に一切を委ねる監督もいることにゾクゾクしました。作品でいえば『シンドラーのリスト』や『パルプフィクション』がそうで、『シンドラーのリスト』でベン・キングズレーがリーアム・ニーソンに初めて一緒に酒を飲もうと語るシーンはスピルバーグが編集者の腕を絶賛し、タランティーノは女性の編集者を使うこだわりがあって、お気に入りのシーンをことごとくカットされて腹が立ったそうですが、結果的に彼女の判断が正しかったことを打ち明けます。監督がどんなに思いを込めて創り上げた映像であっても、商業価値のあるレベルに仕上げるには客観的なメスが必要です。監督と編集者の関係というのは「信頼」の一言では片付かない深~いものがあると思いました。
今週、私がかかわる静岡県総合情報誌『MYしずおか』35号(2008年冬号)が発行になりました。年4回発行・24ページの広報グラビア誌で、県内公共施設、銀行、病院等の待合室・閲覧コーナー等に置いてあります。毎月、新聞オリコミで入る『県民だより』に比べると馴染みがないと思いますが、静岡県出身の著名人やオピニオンリーダー、全国の自治体、海外の友好姉妹都市等にも送られる、どちらかというと外向きのPR誌ですね。
私が担当するコーナーのひとつに4ページだての知事鼎談があり、35号では「食育」をテーマに、石川知事が、サッカー解説者の山本昌邦さん、静岡県立大学准教授の市川陽子さんと語り合いました。実際の鼎談は1時間半ほど続きましたが、誌面では3000字程度に収めなければなりません。締め切りは翌朝。関係者にご意見伺いをする猶予はなく、書き手の私がそのまま編集することになります。
県広報担当者から要点の指示はもらうものの、キャリアも立場も異なる3名のフリートークを、1本の読み物に仕上げるには、県の指示とは別次元の、「読者がどう読むか」「話のつながりがとれているか」「スムーズに読めるか」等々、質の部分が問われます。3000字ぐらいの読み物となると、大事なのはリズム感。そこそこのボリュームながら短編コラムのように一気に読ませるテンポが必要です。面白いエピソードでも前後のつながりがとれなかったり主題とかけ離れていたらバッサリ切り、話の順序を変えたり、話し言葉を読める文章に整え、さらに会話らしいやわらかさを脚色する等々、編集のツボはたくさんあり、1時間半の鼎談をひととおり書き起こした後、この作業をチマチマと重ねます。書き起こしの段階では監督のつもりで、メスを加える段になって編集者の気持ちへとスイッチを切り替えるのです。この切り替えがさほど苦にならないのは他人の会話だからでしょう。自分が鼎談の当事者やインタビュアー等で話の内容に関わっていたら、自意識が邪魔するかもしれませんね。
活字と映像ではその手間は比較にならないでしょうが、編集という作業の重要性は共通すると思います。編集の制限を受けないブログのような場所では、ダラダラと書きたいだけ書きなぐってしまいそうで恐い…。一応、投稿後もちょこちょこ手直ししているんですけどね。