杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

『吟醸王国しずおか』始動!

2008-01-18 21:29:13 | しずおか地酒研究会

 遅ればせながらの自己紹介をすると、私、鈴木真弓は、フリーランスのコピーライターです。ブログの過去の記事をご覧になればお分かりのとおり、いろいろなジャンルの取材や広報活動を行っていますが、ライターになって間もない20年ほど前から、静岡県の酒蔵取材をライフワークの一つにし、追い続けています。

 

 酒蔵に惹かれた理由は、当時、静岡酵母による酒質の向上で、史上初めて全国新酒鑑評会入賞率日本一に輝くなど、県内酒造業界が“明治維新”のような大変革期を迎えていたこと、その立役者である河村傳兵衛さん(県工業技術センターの醗酵技術研究者)、土井清幌さん(「開運」醸造元)、栗田覚一郎さん(県酒造組合専務理事)、山崎巽さん(小売店で初めて、静岡県産酒の新聞広告記事を打ったヴィノスやまざき)、竹島義高さん(静岡の大吟醸を客に初めて飲ませた鮨職人・入船鮨ターミナル店)等々、優れた先達と知己を得る機会に恵まれたこと、酒造業が、地域の経済やモノづくり、地域の自然(農業や水資源)、地域の歴史や伝統文化等、多岐に亘るテーマを含んでいることにあります。

 それより何より、水と米しか使わないのに、なんでこんなに美味しい飲み物が出来るんだろうという驚き。取材先で偶然出会った河村先生や土井さんに、さりげなく勧められて飲んだ一杯の酒は、それまでの日本酒のイメージをひっくり返す宝物のような一杯でした。

 先生や蔵元さん、杜氏さんたちとは、それこそ、酒瓶や杯がカラカラに乾くまで、呑んで語って、語りつくせぬ日々を積み重ねてきました。そして96年には“造り手・売り手・飲み手の輪”をテーマに肩書き不問の愛好会「しずおか地酒研究会」を立ち上げ、出会いと交流の場を作り、乾杯の輪が二重三重にも広がりました。

  

 静岡の酒に出会って20年経った去年、たまたま仕事で映像制作の世界と出会い、「動画なら、静岡の蔵元が、どんなに丁寧に米を洗うか、どんなに神経を遣って麹を切り返すか、道具をきれいに扱うか等々、静岡の酒質の高さの理由を、多くの人にわかりやすく伝えられる」と思いたちました。静岡の酒質向上に尽くした先達の功績を、何らかの形で残したいという思いもありました。しかし映像制作には、活字とは桁違いの人手と費用がかかるのも事実です。

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 2007年は、映像作品『朝鮮通信使』の仕事がひと段落してからの下半期・半年間、私は可能な限り、方々を飛び回って資金調達の方法を探りましたが、「誰に、何を、伝えたいか」を突き詰めるには時間がかかるし、それを突き詰めないことにはお金も集め方も決めらません。何度も自信を失いかけたとき、真剣に耳を傾け、胸襟を開き、「とにかく、どんな画が撮れるか、やってみようよ」と背中を押してくれたのが、写真の2人、青島孝さん(「喜久酔」蔵元杜氏)と成岡正之さん(映像制作会社「オフィス・ゾラ静岡」社長)でした。

 ちょうど1年前、『朝鮮通信使』のプロデューサーが藤枝市郷土博物館への撮影依頼に手こ0118_2 ずっていた時、青島さんが同館の八木館長と親交があることを思い出した私は、シナリオハンティング中の京都や九州から電話で仲介をお願いし、青島さんは、大吟醸仕込みのピーク時にもかかわらず、八木館長の自宅にも再三、電話をかけて話を通してくれました。そして、2007年5月の『朝鮮通信使』初上映会には一番乗りで駆けつけ、「100年残る仕事をしましたね」と賞賛してくれました。

                    

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 成岡さんは『朝鮮通信使』の撮影カメラマン。70分余の作品で、九州から日光までの現地ロケ、駿府城・三保・久能山・大井川川越遺跡でのイメージ映像撮影、70点近い史料の撮影を、3週間足らずで一人でこなしました。

 静岡というローカルで独立系の映像クリエーターが置かれた環境の厳しさ、表現者としての生き方、静岡という地域を映像でどのように後世に残すべきか等々、成岡さんとは短期間に多くを語り合いました。このプロジェクトのためにも、彼のキャリアとスキルの高さを世に知らしめるべきと考え、現在、自分の地酒取材や朝鮮通信使制作秘話をからめた本を執筆しているところです。

 

 

  

 今日(18日)、初めて成岡さんと青島さんを引き合わせ、来週から試し撮りをスタートすることになりました。青島さんはあえて、最も神経を遣う、最高級の『喜久酔純米大吟醸松下米40』の仕込みの日を選んでくれました。最高の酒を撮るなら最高のカメラで、と、成岡さんも『朝鮮通信使』を撮ったハイビジョンカメラを持ち込んで、一昼夜、はりついての撮影になります。

 私一人が、どんなシナリオにしようかと頭の中で四の五の悩むよりも、職人2人が現場で摩擦し合って生み出されるものに、確かな答えがあるような気がしています。