杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

映画『チェ 28歳の革命』

2009-01-07 22:07:19 | 映画

 引き続き映画ネタです。

 

 2000年製作で第73回アカデミー賞の監督賞・脚色賞・助演男優賞を受賞した『トラフィック』は、お気に入り映画の一つで(私的お気に入りとは、劇場に2回以上金を払って観に行き、DVDも買った作品のこと)、監督兼カメラマンのスティーブン・ソダーバーグの、リアルで複雑なのにエンターテイメント性も十分あって2時間半の長尺を飽きさせないテクニックに脱帽したものです。ベニチオ・デル・トロ演じたメキシコ州警察の警官には、1回観ただけで魅了され、公開中に5回ぐらい観に行ったのですが、ほとんど彼を観るためだけ!でした。

 

 

 デル・トロは、ソダーバーグ監督と心底意気投合したようで、アカデミー賞受賞後、自分が温めていたキューバ革命の雄チェ・ゲバラの伝記映画を一緒に準備し始めました。

 私自身は、チェ・ゲバラに関して大半の日本人がそうだったように、Tシャツにプリントされた人、ぐらいしか予備知識がなかったのですが、デル・トロが映画化を熱望する人物と知って関心を持ち、その後、チェ・ゲバラが医学生時代に南米大陸を旅した青春ロードムービー『モーターサイクル・ダイヤリーズ』を観て、みずみずしい感性で、こまめに旅行記を書き残していた青年像に好感を持ちました。

 

 医学生だった彼が、なぜ革命家になったのか。カストロではなく、なぜゲバラのほうがカリスマとしてリスペクトされるのか。デル・トロが作る映画が、すべての答えを出してくれると思い、完成がホントに楽しみでした。

 

 

 昨年、カンヌ国際映画祭で初お披露目されたのは4時間を超える大作だったとか。にもかかわらず、デル・トロは見事主演男優賞を獲得。そのニュースを聞いて日本公開を待ちわび、昨年暮れにデル・トロも来日して東京で試写会があったときは、SBS学苑イーラde沼津の地酒講座とバッティングして泣く泣く断念。

 

 作品はさすがに4時間では劇場にかからないと判断されたのか、2部作に分けられ、時間差公開となりました。東京の試写会は2部作連続上映だったので、ホントに行きたかったぁ~。

 

 

Imgp0299  で、昨日(6日)夜、静岡でやっと第一部『チェ 28歳の革命』の試写会。

 

 歴史好きの人なら、歴史モノを観るとき、実在の人物を、誰がどんなふうに演じるのか、一番に気になりますよね。NHKの大河ドラマもしかり。本人の写真や肖像画が残っているなら、やっぱり似た俳優に演じてもらいたいし、もちろん似てるだけじゃダメで、やっぱり本人の魂を感じるような演技をしてほしい。

 

 

 私のお気に入りナンバーワンの『アラビアのロレンス』は、ピーター・オトゥールは実際のロレンスよりもイケメンですが、ロレンスってこういう人なんだって心底手に取るように伝わってきます。大河ドラマ『新選組!』で土方を演じた山本耕史もそうだったな。こういうのを“当たり役・はまり役”っていうんでしょうね。

 

 

 そして、デル・トロ演じたチェ・ゲバラ。

 写真を見比べたら、実際のゲバラのほうがイケメンに見えますが、ゲバラの落ち着いたたたずまいや、喘息持ちで時々周囲をヒヤヒヤさせるところや、前線で活躍する仲間をたてて自分は下っ端の教育係としての役割をきちんと務める姿、反政府軍に身を投じようとする貧しい若者たちに人間としての矜持を持たせようとする姿など、デル・トロ自身も決してオーバーアクションではなく、それが役割かのように淡々と演技します。

 ソダーバーグ監督も、ゲバラがこれをした・あれをしたという教科書的な説明ではなく、戦場で、彼がどのようにふるまっていたのかをリアルに描いてくれたので、「ああ、こういう人だから、死して今もなお、多くの人に尊敬されるんだ」と伝わってくる。・・・私自身はゲバラのことをまったく知りませんが、不思議と、ああ、目の前にゲバラその人がいる、と実感しました。

 

 革命に成功し、国連で演説をして一躍時の人になるまでを描いた第1部だけでは、ゲバラの真価はわかりませんが、この先、デル・トロ以上にチェ・ゲバラを演じられる俳優は、向こう50年、現れないであろう“はまり役”だ、と言えるのは確かです。

 

 第1部『チェ 28歳の革命』の11日(土)から。第2部『チェ 39歳別れの手紙』は31日(土)から公開です。もちろん、お金を払っても、また観に行く予定です。