杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

精魂宿る桜と陶器と工芸菓子

2013-04-01 22:01:14 | アート・文化

 4月になりました。今日は一日、お寺で雑役バイト。庭の枝垂桜の淡いピンクが薄曇の空にDsc_0146_2
同化するのをいやいやと駄々をこねるように風に揺れていました。季節になればちゃんと咲く桜の木って、ほんと、豪いなあと思います。

 

 この桜を愛する90歳を過ぎた先代ご住職が、先日来、容態を悪くしています。こちらがバイトでやっている掃除仕事にも「きれいにしてくれてありがとう」と欠かさず声をかけてくれる慈愛に満ちた方です。桜はひとの命や生き様と重なって見えるときがありますが、どうか一日でも長く咲き続けてほしいと願うばかりです。

 

 

 

 

 

 先週末の土曜日は、染色画家の松井妙子先生、駿河蒔絵師の故・中條峰雄先生の奥様良枝さんと3人で、駿府博物館で始まった『夭折の陶芸家・中野一馬という男』、ツインメッセで31日まで開催の世界の菓子まつりを観に行きました。

 

 

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 夭折の陶芸家・中野一馬という男』、恥ずかしながらお誘いをいただくまで知らなかった陶芸家でした。島田市の製茶商の家に生まれ、デンマークで陶芸を学び、2007年に牧之原で工房を建てるも2年後、43歳の若さで急逝したという異色のキャリア。生まれ持って慣れ親しんだお茶の伝統とヨーロッパのモダンアートが融合した独特のデザイン性に惹き付けられました。展示方法も素晴らしく、大きな壷に豪快に野草を挿し込んだり、家具メーカーの協力でサイドボードやソファーセットを置いてテーブルコーディネートしたりと、作品が単なる鑑賞美術ではなく、暮らしの中で生きるものであると実証して見せる方法です。

 

 

 別室には、実際に中野さんの茶器でお茶が飲める呈茶コーナーも用意されていました。さすが実家がお茶屋さんだけあります。美術展やアートギャラリーって、もちろん主役の作品の力は大事だけど、展示方法って大きいなあとつくづく感じました。この作品展も、中野さんの作品を盛りたてる華道家のセンスや、在りし日の中野さんの写真展示がポイントでした。アートディレクターの存在の重要性、ますます大きくなっていくんじゃないでしょうか。

 

 それにしても、43歳という働き盛りで命を散らしてしまった中野さん。過日、感動した白隠展でも、30~40代のころは迷いがあった白隠禅師の絵筆は、晩年になればなるほど作風が大らかにユーモラスに味わい深く変化していく様子を観ただけに、中野さんの今後の創作の変遷を見続けてみたかったなあと思いました。一見の鑑賞者の私でさえ、そう感じたのですから、身近にいらした中野さんのご家族や支援者のみなさんの思い、さぞ大きかったろうと察せられます。そんな、支援者の思いが結集しての見事な作品展、5月26日まで駿府博物館で開催中ですから、ぜひお運びください。

 

 

 

 

 

 次いで足を運んだ『世界の菓子まつり』、入場するだけで大人900円・子ども700円とられる、ファミリー向けにしては決して敷居が低いとはいえないイベントながら、会場内は親子連れやカップルで大賑わいでした。お菓子で作った駿府城天守閣をはじめ、目を見張るピエスモンテ(造形モニュメント)の数々に、子どもたちが目を輝かせています。

 3月23日のイベント開会前、かみかわ陽子ラジオシェイクで告知をした関係で、イベント内容やピエスモンテの歴史や由来を調べたので、関心がないわけではありませんでしたが、カップルやファミリーばっかりの有料イベントに一人で行く勇気?もなく(苦笑)、そのままにしていたところ、交友のある相良の和菓子店・扇子家の高橋克壽さん(こちらを参照)から「作品を出展するから」の連絡。しかも、松井妙子先生の“ふくろうと森”をモチーフにしたピエスモンテとのこと。高橋さんと松井先生は、私が主宰するしずおか地酒研究会の地酒サロンでお引き合わせをしていたのです。高橋さんはその後、松坂屋で開催した松井先生の作品展に観に行かれたとのこと。酒縁が生んだお菓子というわけですね。乙な話です・・・。

 

 

 

 高橋さんからはこんな意味深なメールをいただきました。

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「この作品、年明けからすぐに製作に掛かりましたが 父が亡くなったり 他の用事が重なったりで、しかもフクロウのイメージがどうしても立体的に浮かんでこなくて、2月後半まで製作が止まってしまいました。

 

 事業者のテレビ静岡の担当の方に作品出来なくなったの連絡を入れようと 自分自身追い詰められてしまっていました。そんな2月後半でしたが 父の四十九日の日の朝、仏前で手を合わせていたら、突然 お経の声が2~3秒聞こえたのです。ビックリして振り返ったけど、私しか居ない部屋でしたので、“あっ父の声なんだ”と思いました。
 とりあえず、お寺で法要を行い、待合室の広間に行ったところ、私が座った直ぐ目の前に実物そっくりのフクロウの置物が籠の中に入って置いてありました。これもビックリ!直ぐに和尚さんに事情を話して、フクロウをお借りしてきました。
 その日からは連日遅れを取り戻すように、毎日午前3時まで製作に取り掛かって、無事、本当にギリギリでしたが出来上がりました。亡き父に助けられた、自分にとって思い出深い作品になりました。」

 

 工芸菓子に生まれ変わったふくろうをご覧になった松井先生は、「一生懸命作ってらしたのねえ、お人柄が伝わるわねえ」とニッコリされていました。作品は全国菓子博覧会にも出品されるそうです。どんな結果になるにせよ、この春に、生まれるべくして生まれた作品なんですね。

 

 

 散り行く桜、咲き誇る桜、これから開花する晩生の桜・・・この春、逝ったいのち、生まれるいのち、出会ういのちが重なってみえます。日本人が桜を愛する理由が、しみじみ肌身に感じられます。