杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

上野の森で博物館三昧

2013-04-16 14:00:54 | アート・文化

 先週末は上野で博物館をハシゴしました。まずは国立西洋美術館で開催中の『ラファエロ展。週末とあってさすがに混み合っていました。彼の作品がヨーロッパ以外で大々的に公開されるのは初めてだそうです。

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 ルネサンス絵画の大成者といわれるラファエロは1483年生まれで1520年に亡くなっています。今回の出品作は1490年代~1510年代に描かれたもの。日本で言えば日本水墨画の大成者・雪舟(1420-1506)、わび茶の創始者・村田珠光(1422-1502)たちとほぼ同時代、ということでしょうか。

 

 ちょうどこないだまでDVDで観ていた『花の乱』の時代が終焉を迎えた室町後期で、「銀閣」を建てた足利義政が亡くなったのが1490年、妻の富子は1496年没。千利休が1522年生まれで、織田信長は1534年生まれです。今更ですが、西洋のルネサンスと日本のわび・さび文化の出発がちょうど500年ぐらい前の同時期、というのも面白いですね。

 

 

 

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 そのお隣の国立科学博物館で観たかったのが『からだが語る大江戸の文化・江戸人展』。科学技術や地球物理学を紹介する科博で江戸文化の展示って、どんな切り口なんだろうと興味がありました。

 

 期待通り、江戸時代の遺跡から発掘された人骨やミイラをもとに、江戸時代の日本人の顔つき・体つきを再現し、当時の食生活や生活習慣との関係性を検証するという、さすがの切り口。たとえば、お武家さんや大奥の貴婦人方は全般的に顔が細長で、農民や町人はエラが張っている。顔つきも、本当にこういう人、いるいる!と思えてくるから不思議です。

 

 ラファエロが肖像画等で描いた西洋人の顔や体つきと比べると、「食べてるもんが違うんだろうなあ」とつくづく実感しました。

 

 

 

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 科博に来たのは1年ぶり。地球館2階の「科学と技術の歩み」入口では、田中久重の万年時計がドーンと出迎えてくれます。江戸時代から、日本固有に文化に根ざして発展した科学技術の変遷をさまざまな展示物で紹介するフロア。グレートネイチャーの世界も素晴らしいけど、私は人間が一生懸命創意工夫し、磨き上げていった技術や科学の世界が好きだなあ。昔は大の理系嫌いだったのに、年齢を追うごとにだんだん好きになってきた感じ。万年時計は装飾芸術としても高いレベルなので、何度見ても見飽きません。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 さて、今回の上野行きの最大の目的は、国立博物館で開催中の『大神社展』です。

 今年の伊勢神宮の式年遷宮を機に、神社本庁はじめ、全国の神社の協力のもと、ふだんや身近に見られない神社の宝物や日本の神々に関する文化財が集結した神道の一大美術展。ちょうど富士山世界文化遺産登録がらみの記事を書いていて、富士宮浅間大社が「富士浅間曼荼羅」を出品すると聞いて、ちゃんと見て置こうと思ったのです。

 

 曼荼羅の絵はほかに、奈良春日神社の「春日宮曼荼羅」や、比叡山ふもとの「日吉曼荼羅」、「石清水曼荼羅」、「伊勢両宮曼荼羅」等など、そうそうたる神社の絵図が並んでいて、そういう作品群の中で見ると、富士山が信仰の山としていかに価値があるかが、より一層深く感じられました。

 

 

 面白かったのは、日本の神様って姿が見えないのが鉄則なのに、意外なほど「神像」がたくさんあるってこと。お酒の神様でお馴染み・京都松尾大社からは、古代中国の学者のような風貌の男神と、色白で豊満な女神坐像が出品されていました。「僧形神」といって、神さまなのに地蔵菩薩や十一面観音菩薩のような風貌のもの、「武装神」といって平安時代に使われた鎧を忠実にまとった珍しい坐像もありました。

 

 イチバン「かっけぇー!」と思ったのは、展示フロアのラストに登場する「春日神鹿御正体(かすがしんろくみちょうたい)」。春日大社の鹿は神の使いとされていますが、そのリアルかつ優雅なお姿は、「もののけ姫」の世界に出てきそうな雰囲気。宮崎駿さんはこういう神像をモデルに描いたのかなあと思えるほどでした。

 

 

 学生時代に仏教美術をかじった身として、知っていたつもりでまったくの不勉強だった神道美術。富士山の記事を書くため、酒文化を学ぶため、歴史ファンの常識として・・・さまざまなモチベーションで鑑賞したものの、見終った後は、やっぱ、生まれたときからお世話になっている神社のこと。日本人なら、一度はちゃんと、一から考察し直さねばならない世界だな・・・と反省しました。6月2日まで開催中ですから、上京の機会がある方はぜひ!