杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

更新の意味

2013-04-25 20:42:07 | 農業

 疲れが溜まったせいか、風邪がひと月近く治らず、長時間デスクワークによる頭痛とめまいも加わり、ブログの更新に間が空いてしまいました。更新しない期間も、過去のさまざまな記事を閲覧してくださる方がいて、心底ありがたい・・と同時に、個人ブログとはいえ、誤った情報や思い込みだけで書いてはいけないと気持ちがひきしまります。

 

 

 「更新」という言葉、私のような仕事をしている人間にとっては、〈情報の更新〉という意味合いで使うケースが圧倒的なんですが、先日、お茶の取材先で「茶園の更新」という言い方をしているのを聞いて、エッ!?と思いました。

 

 

 茶園は寿命が50年ぐらい。そろそろ茶樹がくたびれてきたかなと思ったら、茶葉をぜんぶ刈り落とし、茶畑を丸裸にし、新芽を一から育て直すのです。これを、茶園の更新、と言うそうで、新しい葉が生え揃うまでその茶園は(もちろん全部いっぺんにやるのではなく、部分的に順番に更新していくわけですが)無収入になってしまいます。後継者がちゃんといて、この先何十年もお茶で食っていくぞ!という意欲ある生産者しかやれないかもしれませんが、丸裸の茶樹から出てくる茶芽は、本当に勢いがあって、厚く、力強いそうです。

 

 

 

 せっかく更新した茶畑から摘み取ったイキのよい茶葉も、これまで、他の茶葉と一緒に加工されていました。生産者にしてみれば、更新という作業は特段、特別なものではなく、隣近所でやれる農家もやれない農家もいるし、自分ちだけ声高に「更新しました」とアピールするものでもない。第一、普通茶葉といちいち分けて加工する余裕はないし、別加工するほど量的に更新茶葉が揃うわけでもない・・・ということでしょうか。

 

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 今回、取材した菊川の産地では、更新茶葉だけを使った『茶更(ささら)』という深蒸し茶を新発売しました。

 菊川は深蒸し製法発祥の地と言われていますが、テレビの影響で、掛川のほうが産地としては有名になってしまいましたね。

 

 

 

 産地では、菊川の強みは何かを模索したとき、深蒸しの特徴といわれる色の鮮やかさとか豊富な有効成分を云々言う前に、味できちんと評価されるお茶を作ることが、菊川茶復活&リーフ茶の消費低迷打破につながるはずだと腹をくくった。そして、発祥の地としてのプライドをかけ、深蒸し本来の深く濃厚な味わいを目指すことになった。

 

 

 しかもこれを、生産者、JA若手職員、茶商が連携し、共同で企画したのです。三者がそれぞれ独自に企画開発した商品というのは数あるものの、一緒に企画し商品化にこぎつけたというのは初めてのケースだそうです。消費者からみれば「そんな大そうなこと?」と思えますが、古い体質のお茶業界では、横の連携をうまく取るって容易ではないとか。茶園の更新を推進して生産者の意欲を引き出そうと発案したJAの若い職員たち、彼らの声に耳を傾け、面倒な更新茶葉のみの加工にGOサインを出した生産者、更新茶葉の価値を認め、その付加価値を消費者にアピールする努力をした茶商・・・それぞれの意思が一致しなければ生まれなかったのでしょう。

 

 

 

 

 

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 取材先でいただいた『茶更』は、抹茶よりもさらに深く沈んだ色。そしてなんとも芳醇でふくよかな味わいでした。私はどちらかといえば、山間地の浅蒸しタイプの渋いお茶が好きなんですが、『茶更』の加工は、昔ながらの深蒸し製法の復刻版を目指し、穂先梨蒸し製法=茶葉の穂先が梨色(黄色に近い色)になるまで長時間蒸し上げ、茶葉の持つチカラをトコトン引き出した、と聞いて、これが、もとからチカラのある更新茶葉でしか出来ない味なんだ・・・とありがたく頂戴しました。

 

 

 

 

 更新という言葉を広辞苑で引くと、「あらたまること」「あらためること」とあります。植物の世界では「世代の代わること」。林業では「主伐を行う土地に後継林を仕立てること」。・・・でもそこから生まれたのが復刻版の味、というのが、なんとも面白い。丸裸になってみないと作れない味、残せない技があるんですね。たぶんお茶だけじゃなくて、他のジャンルでも。

 

 『茶更(ささら)』はJA遠州夢咲の菊川茶直売所、小笠茶店舗にて発売中です。首都圏ではJR立川駅前の【菊川園】さんで入手できます。