杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

初亀の『チェンジ!』

2009-01-15 10:38:44 | 吟醸王国しずおか

 昨日(14日)は『吟醸王国しずおか』の撮影で、朝から岡部町の初亀醸造を密着撮影しました。1年ぶりのこの時期の吟醸仕込み撮影です。体調不良が尾を引く中、早朝から寒い酒蔵の撮影は正直、キツかったぁ。カメラマンの成岡さんも、連日徹夜仕事が続いているようで、ちょっとの休憩時間、ソファーに座ったとたんに居眠り。…それでも、昨年10月から、1日も休みなく24時間缶詰め仕事をしている杜氏や蔵人のみなさんを前にすると、しんどいなんて間違っても吐けません。また、黙々と働く彼らを観ていると、こちらのほうも背筋がピンと伸びてきます。酒蔵撮影は、私にとっても禅の修行のようなものかもしれません。

 

Dsc_0047  過去ブログでも紹介したとおり、初亀は、今期から杜氏が交代しました。酒銘にもなったベテラン能登杜氏・滝上秀三さんが引退し、京都出身の西原光志さん(35歳)が引き継ぎました。西原さんは滋賀県の酒蔵で能登杜氏のもとで修業をし、同じ能登杜氏である滝上さんに後継者として選ばれて昨年1年間、初亀の滝上さんのもとで杜氏見習いをしました。

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 夏場は京都のショッピングセンターで店舗設備の仕事をし、秋口から京都に妻と幼子を残して蔵入りするという、昔ながらの職人暮らし。西原さんの下で働く蔵人も、掛川出身の榛葉さん(酛屋・39歳)以外の3人―頭の辻村さん(43歳)、釜屋の姫野さん(26歳)、麹屋の青木さん(26歳)は今期から。杜氏の交代によって、蔵のスタッフも一新し、グンと若返りました。

 

 

Dsc_0015  朝7時30分、蒸し米が炊き上がり、麹米に使う蒸し米は少し自然放冷させた後、麹室に引き込みます。今までは機械で冷ましていたそうですが、今期から麹米はレギュラー酒からすべて手作業による自然放冷に。西原杜氏は麹菌の種付け作業を昼前後に行うので、機械を使ったとしても、その後の機械の掃除の手間や時間を考えると、手作業にしたほうがいいとの判断です。

 私も、昔、ある酒蔵でひと冬、仕込みを手伝ったことがありますが、アツアツの蒸し米を手でほぐしたり、麹室の中で乾燥した米つぶを手のひらでこすって広げる作業って、皮膚が丈夫じゃないと務まらないんですよね。これに慣れるのがタイヘンでした。

 

 

Dsc_0052  引き続いて麹室での切り返し作業。蔵元の橋本謹嗣さんも、重要な戦力です。「こんな真剣に肉体労働する橋本さんを観るのは初めてです」と冷やかしたところ、「朝10時までは毎日私も蔵人してますよ」とのお応え。

 

 

Dsc_0072  10時からは洗米作業のスタート。これも今期から導入した最新式の全自動洗米機を使い、限定吸水を行います。原料米をいかに効率よく、品質よく洗うかは、その蔵の生産規模や商品構成等によってさまざまな方法が考えられます。「静岡吟醸は洗い(米洗い)に始まり、洗い(酒袋の洗濯)に終わる」と言われ、重要な第一歩である洗米方法を見比べることによって、その蔵の考え方がわかるような気がしていましたが、確かに、これまで撮影した喜久醉とも磯自慢とも違っていました。

 

 

 

 

 そして11時過ぎ、13時30分過ぎから、麹菌の種付け作業。腰を曲げての作業は、見た目よりも肉体的にかなりキツイようで、今のところ腰が丈夫の西原さんと青木さんが種振り役。他の蔵人は腰をみんなやられたそうです。見た目は色白でヒョロッとした学者風の西原さんですが、「イオンで鍛えてますから」と体力には自信あり。夏場に巨大ショッピングセンターの陳列棚を設営する肉体労働をこなし、足腰をしっかり鍛えて蔵入りしたようです。

 

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 一方、青木さんは昨秋蔵入りするまでごくごく普通のサラリーマンだったそうで、休みなしの労働合宿生活に慣れるまで大変だったとか。西原さんは、ひとつひとつの作業ごとに、こうしようか、とか、どう思う?とか、若い蔵人のモチベーションを大切にするような声かけをしていました。

 考えてみれば、自分より年長者が2人、20代の初心者が2人というスタッフを、一年目の杜氏が束ねるというのは、いろいろな意味でプレッシャーも大きいと思います。

 

 

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 そんな新生初亀スタッフに対し、蔵元の橋本さんは「先代の父が、滝上杜氏を招いたのは父が55歳のときでした。奇しくも、自分も55歳。初亀にとって大きな転換期であることは間違いなく、変わることに怖さもあるが、同じくらい、新しいものが生まれる楽しみもある。“守・破・離”という言葉を噛みしめています」としみじみ語ります。

 

 

 私も、ひとつの蔵が変わろうとしている節目に、カメラを持って立ち会える喜びとその価値を噛みしめながら、彼らの“チェンジ”をしっかり見つめていこうと思っています。

 


菊川の『チェンジ!』

2009-01-13 18:36:07 | アート・文化

 フリーランサーの性というのか身体に染み付いた癖なんでしょうか、やっかいな仕事が一つ二つ片付き、取材や打ち合わせのない日曜休日、判で押したように熱が出ます。11~12日は、2日間で30時間以上寝たんじゃないかな。こんなに寝だめしたの久しぶり。

 

 12日、宅配便の訪問で目が覚めて何が届いたかと思ったら、なんと電動歯ブラシ。前回のブログで歯肉炎のことを書いたら、オクラホマで看護師をしている妹が、Amazon経由で、全米の歯科医イチオシというPHILIPS社のsonicareを送ってきたのでした。値段を見たら、いつもドラッグストアの特売で買う歯ブラシよりゼロが2つ多いのにビックリ!「頭痛までするなら、歯茎が膿んでいるかもしれないからすぐに歯医者に行って抗生物質をもらいなさい」と注意書きがしてありました。…持つべきものは医療専門家の身内ですね(苦笑)。

 

 寝だめ&高額電動歯ブラシのおかげか、今朝は熱が下がり、歯痛がおさまり、化粧のノリがいつになくよく(やっぱり肌荒れ改善には睡眠です)、取材先の菊川まで少し時間をかけてゆっくりドライブ。県広報誌MYしずおかの特集で、今秋、静岡県下全域で開催される第24回国民文化祭しずおか2009についての取材です。

 

 

 国民文化祭(ちょっと名前がカタイよね)とは、国体の文化祭版のことで、一般の認知度というと、県の調査で07年度は13%、08年度は25・6%ほど。4人に1人ぐらいは浸透しているといったところでしょうか。

 

 私は、グランシップで上演されるという国文祭用のオリジナル演劇『ビューティフル・フジマヤ』の脚本家に、脚本採用のお祝いに地酒を贈呈する手配を頼まれたりもしたので、もちろん事前に知っていましたが、日頃から活動しているアマチュア劇団や文化サークルの作品発表会の規模の大きいヤツ、ぐらいにしか認識していませんでした。

 

 10月24日から11月8日までの期間中、県内全市町で何らかのプログラムが組まれており、たとえば浜松では音楽の街らしく市民オペラや演劇「三方原合戦」に吹奏楽フェスティバル、沼津では伊豆文学フェスティバル、伊豆の国市では演劇やオペラで郷土の偉人・江川太郎左衛門の生涯を紹介する…というように、各地域にちなんだ催事が企画されているようです。

 

 

2009011314180002  静岡らしく、お茶がらみの催事や発表会もいくつかの市町で企画されていますが、中でもユニークなのが菊川市。『お茶の波紋from菊川』と題した総合イベントは、駅前商店街をステージにした街道文化祭、中央公民館でのこども芸術祭、文化会館アエルでの演劇&体験イベントの3本立て構成で、街道文化祭ではお茶を使った創作新料理「きくがわガレット」や、ブラジル人居住者も巻き込もうとお茶とコーヒーの比較対決など、今までのお茶イベントにはない楽しそうな味わい体験メニューが組まれています。

 

 菊川市の担当者が熱を込めて推すのが、演劇『チェンジ』。菊川市出身の漫画家小山ゆうさんの原作を、小笠高校演劇部顧問の大庭久幸さんが台本化し、『丘の上から』の鈴木慎太郎監督が演出を手掛ける作品です。鈴木監督からこの話を事前に聞いていたので、実は今日は、この話を聞くのが一番の楽しみでした。

 

 内容は、夢を追う高校生の青春ファンタジー、とのことですが、あまり詳しくは聞きませんでした。なにせ、担当の笠原活世さんが、「小山ゆうさんの原作も素敵なんだけど、大庭先生の脚本が素晴らしくて素晴らしくて、もう、身ぶるいしちゃうくらい!」と力説するので、今、聞いてしまうのがもったいなくなったのです。笠原さん曰く、「小山ゆうさんの原作で、常葉菊川の野球部が舞台で、お茶のこともちゃんと絡んでくる、菊川市民の誰もが納得し、誇りに出来る作品!」だそうです。

 

 

 大庭先生というのは、鈴木監督がほれ込んであっという間に映画にしてしまった『丘の上から』の作者でもあります。「高校の演劇部顧問にしておくにはもったいない才能」という笠原さん。『丘の上から』を観た限り、私もまったくそのとおりだと思い、ますます『チェンジ』に期待が高まりました。

 

 本格的な稽古が始まるのはこれからだそうですが、これも何かの縁ですので、折につけ、経過報告が出来ればと思います。

 なお、菊川市の常葉美術館では、国文祭に合わせて小山ゆうさんの原画展も予定されています。『チェンジ』のほか、『あずみ』や『がんばれ元気』などヒット作品のカラー原画や原稿が展示されるそうですので、ファンはお楽しみに!

 

 それにしても菊川市というのは、『丘の上から』の映画化に全面協力した例をみても、芸術活動に理解のある市民が多いんだなと実感しました。

 

 帰り際には笠原さんから、「個人的に活動していますので、ぜひ応援してください」と、地元劇団の公演パンフレットをいただきました。ちょっとソソられる内容なので、仕事がなければぜひ行こうと思います。

 

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◆ミュージカルシアターSTAGE21 第5回公演『ジュウシチネンゼミ』

日時/2月14日(土)18時(開場30分前)、15日(日)14時30分(同)

会場/菊川文化会館アエル大ホール

料金/当日1200円(前売り1000円)

問合/事務局 笠原さん TEL 0537-36-5519


フルーツゼリーのツケ

2009-01-10 10:49:20 | 社会・経済

 年末年始、不休で突っ走ってきたツケが、なぜか歯に来て、歯肉炎の痛みが顔全身にまわっています。いやですねぇ~歯周病。成人の8割が持っているらしい立派な成人病ですよね。

 

 私は小さい頃から歯が丈夫で、小学校時代は虫歯が一本もなく、歯医者に行ったこともない歯の健康優良児として表彰されたことがあるぐらいでしたが、歯医者に行く習慣を持っていなかったというのが、大人になって“凶”と出たらしく、20年ぐらい前、ちょうど酒の取材を始めたころ、親知らずが痛くなって、初めてまともに歯医者に行き、「歯石がたまっているから定期的に掃除に来なさい」といわれ、一昨年、『朝鮮通信使』の脚本執筆やロケで半年間缶詰仕事をしていたあと、いきなり4本も虫歯になってしまって、「歯磨きにちゃんと時間をかけ、ちゃんとした磨き方をしないと歯周病になりますよ」と注意されました。

 

 私はそれまで、歯ブラシといえば、「かため」のタイプで、手にグッと力を入れてゴシゴシ磨けばいいと思っていたのですが、歯ブラシはなるべくブラシの先端が細くやわらかいタイプで、軽く手に持って、やさしくていねいに磨きなさいと指導されました。歯間ブラシや糸楊枝を併用するとベターと言われましたが、忙しい朝や疲れた夜に、いろんな道具を使って歯ブラシに10分も20分もかけられないというのが実情。でも、そんな手抜きが積もり積もって、身体の疲れがたまったときに、ここがウィークポイント!とばかり、痛みが集中して出てきちゃったようです。

 

 3日前ぐらいから頭痛がするぐらい右上奥歯の歯肉炎が痛み出し、歯医者に予約を入れようとしたら1週間先まで満員アウト。1週間もこの痛みをガマンしなきゃならんのか~と思ったら、さらに落ち込んでしまいました。歯が痛いと、まともにご飯も食べられないし、味もわからない。お酒もちっとも美味しく感じません。

 

 

 頭から顎にかけ、顔右半分に神経痛みたいな痛みを抱えながら、7日は丸一日、三島の会社社長の自伝口述筆記の仕事、8日は静岡県広報誌MYしずおかで国民文化祭の取材、昨日(9日)は静岡県商工会連合会のフルーツゼリー開発事業の委員会。…この歯痛も、思い返せば、昨年末、この事業に参画した県内5店のお菓子屋さんを巡回し、さんざん甘いモノを食べまくったツケかもしれません。

 

 お菓子屋さんたちからは、「スズキさんのブログを観たといって買いに来てくれた人がいましたよ~」と喜ばれましたが、会議の間も痛みがおさまらず、内容がちっとも頭に入ってきません。3時間強の会議の間、終始お茶をがぶ飲みしてました。

 

 昨日の会議では、来月のギフトショー(東京)でのお披露目に向け、ネーミング、パッケージデザイン、価格、販売方法等の最終の詰めを行いました。当初、県商工連側は都会のOL受けしそうなモダンでオシャレなイメージ戦略を考えていたようですが、今回の商品の、100%静岡県産の安心安全フルーツを、産地の菓子職人さんたちが手間暇かけて作るという特徴を、消費者側として一番敏感にキャッチし、その良さを素直に認めてくれるターゲットを考えたら、有名パティシエや高級ブランドのスイーツを大人買いするような消費層とは違うかなぁと思い、思い切ってまったく違う切り口にしてみました。

 

 5店のお菓子屋さんを取材し、「商店街やデパ地下で華やかに商売する店とは違い、うちはあくまでも、近所の子どもがおこづかいを握りしめて買いに来てくれる地域のお菓子屋さんであり続けたい」という職人さんたちの思いを聞くうちに、そうだ、この事業はそもそも、地域でこうして頑張る中小小売業者を応援するための事業じゃないか、と再認識したわけです。

 

 あまりにも思い切ったイメチェンだったので、他の委員やお菓子屋さんたちの反応に内心ドキドキ。内容プラスこのネーミングやパッケージで実際、いくらで売れるだろうと上代価格を決める段階で、「こんなデザインじゃ、この程度の値段じゃなきゃ売れないな」なんて言われたらどーしよーと、まるでオークションにでもかけられた気分、でしたが、県商工連側が用意したシミュレーションよりも高い金額の声がかかり、ホッとしました。

 お菓子屋さんたちにしてみれば、コストや手間などを考えたら、デザインやネーミングがどうであろうと高く売れるなら売りたいというのが当然でしょう。その足を引っ張らずに済みそうだと思えただけでも幸いでした。

 

 

 歯痛という思いがけないツケをもらいながらも、フルーツゼリーはなんとかカタチになりました。お披露目は2月3日~6日に東京ビッグサイトで開催の第67回東京インターナショナルギフトショー併催グルメ&ダイニングスタイルショー春2009の会場です。

 静岡県内でも2月末に記者発表&試食会を開催予定ですので、楽しみにお待ちください!

 

 なお、2007年度事業の『しずおかの酒と肴のギフトセット~つまんでごろーじ』も、好評発売中です。こちらも引き続きよろしくお願いします。問い合わせは県商工会連合会サイトまで。

 

 

 会議終了後、もう1本、別の打ち合わせに顔を出し、帰りに薬局で歯周病の塗り薬を買って帰りました。市販薬ではすぐに効かないようで、夜中に痛みで何度も目が覚めましたが、今朝になってやっと薬が効いたせいか、まともに朝ごはんが噛めるまで回復しました。…やれやれ。みなさんも歯を大切にしてくださいね。

 

 


映画『チェ 28歳の革命』

2009-01-07 22:07:19 | 映画

 引き続き映画ネタです。

 

 2000年製作で第73回アカデミー賞の監督賞・脚色賞・助演男優賞を受賞した『トラフィック』は、お気に入り映画の一つで(私的お気に入りとは、劇場に2回以上金を払って観に行き、DVDも買った作品のこと)、監督兼カメラマンのスティーブン・ソダーバーグの、リアルで複雑なのにエンターテイメント性も十分あって2時間半の長尺を飽きさせないテクニックに脱帽したものです。ベニチオ・デル・トロ演じたメキシコ州警察の警官には、1回観ただけで魅了され、公開中に5回ぐらい観に行ったのですが、ほとんど彼を観るためだけ!でした。

 

 

 デル・トロは、ソダーバーグ監督と心底意気投合したようで、アカデミー賞受賞後、自分が温めていたキューバ革命の雄チェ・ゲバラの伝記映画を一緒に準備し始めました。

 私自身は、チェ・ゲバラに関して大半の日本人がそうだったように、Tシャツにプリントされた人、ぐらいしか予備知識がなかったのですが、デル・トロが映画化を熱望する人物と知って関心を持ち、その後、チェ・ゲバラが医学生時代に南米大陸を旅した青春ロードムービー『モーターサイクル・ダイヤリーズ』を観て、みずみずしい感性で、こまめに旅行記を書き残していた青年像に好感を持ちました。

 

 医学生だった彼が、なぜ革命家になったのか。カストロではなく、なぜゲバラのほうがカリスマとしてリスペクトされるのか。デル・トロが作る映画が、すべての答えを出してくれると思い、完成がホントに楽しみでした。

 

 

 昨年、カンヌ国際映画祭で初お披露目されたのは4時間を超える大作だったとか。にもかかわらず、デル・トロは見事主演男優賞を獲得。そのニュースを聞いて日本公開を待ちわび、昨年暮れにデル・トロも来日して東京で試写会があったときは、SBS学苑イーラde沼津の地酒講座とバッティングして泣く泣く断念。

 

 作品はさすがに4時間では劇場にかからないと判断されたのか、2部作に分けられ、時間差公開となりました。東京の試写会は2部作連続上映だったので、ホントに行きたかったぁ~。

 

 

Imgp0299  で、昨日(6日)夜、静岡でやっと第一部『チェ 28歳の革命』の試写会。

 

 歴史好きの人なら、歴史モノを観るとき、実在の人物を、誰がどんなふうに演じるのか、一番に気になりますよね。NHKの大河ドラマもしかり。本人の写真や肖像画が残っているなら、やっぱり似た俳優に演じてもらいたいし、もちろん似てるだけじゃダメで、やっぱり本人の魂を感じるような演技をしてほしい。

 

 

 私のお気に入りナンバーワンの『アラビアのロレンス』は、ピーター・オトゥールは実際のロレンスよりもイケメンですが、ロレンスってこういう人なんだって心底手に取るように伝わってきます。大河ドラマ『新選組!』で土方を演じた山本耕史もそうだったな。こういうのを“当たり役・はまり役”っていうんでしょうね。

 

 

 そして、デル・トロ演じたチェ・ゲバラ。

 写真を見比べたら、実際のゲバラのほうがイケメンに見えますが、ゲバラの落ち着いたたたずまいや、喘息持ちで時々周囲をヒヤヒヤさせるところや、前線で活躍する仲間をたてて自分は下っ端の教育係としての役割をきちんと務める姿、反政府軍に身を投じようとする貧しい若者たちに人間としての矜持を持たせようとする姿など、デル・トロ自身も決してオーバーアクションではなく、それが役割かのように淡々と演技します。

 ソダーバーグ監督も、ゲバラがこれをした・あれをしたという教科書的な説明ではなく、戦場で、彼がどのようにふるまっていたのかをリアルに描いてくれたので、「ああ、こういう人だから、死して今もなお、多くの人に尊敬されるんだ」と伝わってくる。・・・私自身はゲバラのことをまったく知りませんが、不思議と、ああ、目の前にゲバラその人がいる、と実感しました。

 

 革命に成功し、国連で演説をして一躍時の人になるまでを描いた第1部だけでは、ゲバラの真価はわかりませんが、この先、デル・トロ以上にチェ・ゲバラを演じられる俳優は、向こう50年、現れないであろう“はまり役”だ、と言えるのは確かです。

 

 第1部『チェ 28歳の革命』の11日(土)から。第2部『チェ 39歳別れの手紙』は31日(土)から公開です。もちろん、お金を払っても、また観に行く予定です。


映画『丘の上から』

2009-01-04 18:07:48 | 映画

 元旦は昼は「吟醸王国しずおか」撮影、夜は吟醸王国しずおか映像製作委員会会報誌「杯が満ちるまでVol4」の発送準備。2日からは丸2日半かかって、16ページものの執筆&編集を仕上げ、今日4日(日)午後からやっと我が家を脱出。JR清水駅前の夢町座へ映画を観に行きました。

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 テレビや新聞等で報道されているので、ご存じの人も多いと思いますが、菊川市在住の鈴木慎太郎監督が地元オールロケで撮った『丘の上から』。撮影監督は、わが吟醸王国しずおかでもカメラを回している成岡正之さんです。

 昨夏、しかも梅雨明けの7月下旬一番暑い時期に10日間ぐらいでロケをし、冬のシーンがきつかった、なんて成岡さんから聞いていたので、完成が楽しみでした。

 

 監督の鈴木さんは、『朝鮮通信使~駿府発二十一世紀の使行録』の助監督を務めていて、同じ寅年(と言っても彼のほうが一回り下ですが…)のスズキ同士で気が合った間柄。打ち上げのときは、私は別会場に呼ばれていてほとんど参加できなかったのですが、お開き直前に会場に着いたとき、「おつかれさまでした!」と一番元気よく迎え、気持ちよく握手してくれたのが彼でした。

 

 吟醸王国しずおかパイロット版では、08年3月、県沼津工業技術センターの清酒鑑評会撮影のとき、成岡さんのサポートで現場に来てくれました。

 

 

 『丘の上から』の制作が急ピッチで始まったのはその後。もともと小笠高校の演劇部顧問の先生が舞台用に書いたシナリオで、菊川市や菊川市教育委員会のサポートを得て、学校やJAなど地域をあげてロケ協力。地元に拠点を置きながら、静岡や東京を行き来して地道に映像制作活動をしていた鈴木さんを、地元の人々が懸命に支援したのでした。

 

 成岡さんも、昔から鈴木さんに目をかけていて、朝鮮通信使の助監督に推薦したのも成岡さん。今回は急な話で短い準備期間にもかかわらず、製作支援から撮影監督、照明、編集など制作現場全般までバックアップし、鈴木さんからは“守護神”の如く頼りにされたようです。

 成岡さんからは、「カネ集めから地元との調整、俳優やスタッフの手配すべてを一人でやった。大した奴だよ」と聞いていました。私も、素人同然ではありますが、映像制作のキックオフまでの苦労を体験した身ゆえ、鈴木さんの努力と情熱、そしてそれに惜しみない協力をする成岡さんの太っ腹な姿に、話を聞くだけでジーンとしたものです。

 

 11月に完成した『丘の上から』は、まず地元菊川で上映会が開かれ、いずれも満員御礼の大盛況。12月には東京でも限定上映されました。

 そして清水での公開。「作るのに精いっぱいで、上映館の確保まで考える資金的・精神的余裕がなかった」という鈴木さん。地元では市やJAのバックアップで大きなホールを借りることができ、大勢の市民に観てもらえたものの、いざ地元以外で自主映画を一般上映しようとすると、かなりハードルは高いよう。

 テレビや新聞で取り上げられても、ミニシアター文化のない地方で一見の客がフラッと入るかといえば、それも難しい。映画というのは、“離陸”も難しければ、“着陸”も難しい飛行機のようです。

 『朝鮮通信使』の山本起也監督からは、「高い志で一生懸命作った映画も、上映の日の目を見ずにお蔵入りになっているものがほとんど。商業映画で成功するのはほんの一握り」と現実の厳しさをよく聞かされたものでした。

 

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 14時の回を観ようと、10分前に到着したら、入口で切符切りをしていたのが鈴木さんでした。自主映画っぽいなぁと冷やかしながら、いざ作品鑑賞。

 

 成岡さんから、それとなく筋書きは聞いていたのですが、想像をはるかに超えた骨太のプロットと脚本で、まずストーリーに魅せられました。昨夏、フジテレビで織田裕二主演の学園ドラマが放送されていましたが、ジャンル的にはあの路線に近いかな。もちろん、織田裕二みたいな教師が出てきて一件落着、なんて単純なストーリーではありません。

 

 主要3人の女の子たちの、女同士の微妙な距離感、けなげさ、残忍さなど複雑な感情が、いろいろな伏線をたどりながら描かれ、女子高出身の私的には身につまされる場面が多々ありました。

 出演者の多くはプロですが、どこにでもいる地方の女子高生の日常と、その中に潜む危うさを狙ったという鈴木さんらしく、過剰な演出は控え、ドキュメンタリーに近いタッチで淡々と物語は進行します。

 

 菊川の田んぼや茶畑、天浜線の駅、掛川の駄菓子やさん、夏祭りの夜店市、地方でよく見かける廃墟のような工場跡など、魅力的な舞台もたくさん出てきました。撮影期間がもう少し長く取れれば、夏のシーンはもっとギラギラと、冬のシーンはさらにしんしんと、卒業の頃のシーンは桜吹雪なども入れられただろうに、と思いました。

 

 特機撮影が得意な成岡さんだけに、さまざまなアングルで移動するカメラワークが観られました。せっかくの特機撮影ですから、脚本上の意味や、人物の心のうちがしっかり伝わるような画になると、さらに効果的だったかも。役者の演技力に頼る部分も大きいと思いますが…。

 いずれにしても厳しい条件の中で、これだけの作品を仕上げたのですから、さすがプロの仕事!と感心しきり。

 

 

 今日は、自分が映像を作る立場になってから、初めて知り合いが作った作品を観る機会を得て、ひとつひとつの画を角度を変えながら真剣に、深く考える鑑賞スタイルを会得したような気がします。

 

 

 映像の仕事は一人ではできませんし、かかる時間もお金も半端じゃありません。批評する人はいとも簡単に持ち上げたり切り捨てたりしますが、少なくとも私自身は、制作者の努力に配慮できるような鑑賞者になりたい。またいつか、鈴木さんと打ち上げ会場で会うような機会が得られたら、互いの健闘を称え、気持ちよく握手し合える現場人間でありたいと思います。

 

 

 『丘の上から』はJR清水駅前、駅前銀座入口の夢町座で1月11日まで上映中です。上映時間は月~金が14時、16時30分、19時の3回。土日は11時30分の回が追加され、計4回上映されます。

 

 1月7日にはNHK静岡で18時~19時放送の「たっぷり静岡」で、鈴木さんと成岡さんが生出演しますので、ご覧になれる方はぜひチェックを!

 1月24日から29日までは、下北沢TOLLYWOODで上映されます。詳しくは『丘の上から』オフィシャルサイトをご覧ください!。