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ラジオ深夜放送の時代 野沢那智さん

2010-11-10 23:03:10 | 編集手帳
  11月3日 読売編集手帳


   山田太一さんの小説『岸辺のアルバム』に、
  大学生の律子がラジオの深夜放送を聴きながら勉強した受験生の頃を回想する場面があった。

  〈「ナッちゃん、チャコちゃん、おばんでやんす。初めてお便りする女の子チャンでやんす」…
  投書はすばらしく達者で、思わずふき出すようなものがいくらでもあったが、
  主調音は「孤独」だった〉(東京新聞刊)

  「ナッちゃん、チャコちゃん」は
  ラジオの深夜番組でパーソナリティーを務めた野沢那智さんと白石冬美さんである。
  俳優・声優としても親しまれた野沢さんが72歳で死去した。

  パソコンも携帯電話もない当時の深夜放送がもっていた意味合いは、
  いまの若い人には見当がつかないかも知れない。
   誇張した実話にせよ、創作にせよ、愉快な話を薪(たきぎ)代わりに持ち寄っては、
  ラジオに手をかざすようにして聴取者同士が互いに暖を取り合っていた、そんな気もする。
  暖の中央に野沢さんがいた。

  暗い窓。卓上スタンドの明かり。
  ひらいたまま、はかどらぬ参考書。理由もなく仏頂面をした自分――
  訃報に接し、何十年か昔の深夜の情景を胸に浮かべた人もいるだろう。
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