11月13日,読売新聞編集手帳
斎藤茂吉に猫の舌を詠んだ歌がある。
〈猫の舌のうすらに紅(あか)き手ざはりのこの悲しさを知りそめにけり〉
手触りではないが、子供の頃、
家に出入りしていた野良猫に毎朝のように眠っている睫毛をなめられ、
「早く起きろ」と催促された経験があるので、
歌人の言ったどこか悲しい感触はよく分かる。
その舌がミルクや水を飲むときには独特の巧妙な動きをするとは、
記事を読んで“知りそめにけり”である。
猫の飲み方を米マサチューセッツ工科大学などの研究チームが解明し、
科学誌『サイエンス』電子版に発表した。
犬は舌をひしゃくのように曲げ、水をすくって飲む。
猫の場合は複雑で、丸めた舌先を水面から素早く引き上げて水柱を作る。
水柱が重力で崩れるまでの一瞬に、柱の上部をパクッと噛み切るのだとか。
生得の技とはいえ、じつに器用なものである。
それにつけても科学者の好奇心は範囲が広い。
〈猫はみな笑えるのです〉
とはルイス・キャロル『不思議の国のアリス』で公爵夫人が語る言葉である。
わがネコ舌が権威ある科学誌にねえ…
ニッコリ顔の猫がどこかの路地裏にいるかも知れない。