11月25日、読売新聞編集手帳
ソ連の駐米大使が言う。
〈サーベルで威嚇するときはガチャガチャと音が出るが、抜くときには音がしないものだ〉。
冷戦下を舞台にした海洋冒険小説、
トム・クランシー『レッド・オクトーバーを追え』(文春文庫)の一節である。
有事というものを、よく言い当てている。
脅し文句の語調が次第に強まり、やがて極限に達し、潮が満ちるように有事は訪れない。
韓国の島、延坪(ヨンピョン)島を突然砲撃した北朝鮮の暴挙は、
〈抜くときには…〉の実例だろう。
米国の反応はすばやい。
韓国の防衛に断固として関与する旨の声明を出し、
米韓合同軍事演習によって北朝鮮のこれ以上の暴発を牽制するという。
サーベルに対する「盾」の自覚だろう。
顧みれば政権交代の後、
「米国だけが友人ではない」とばかりに中国に秋波を送り、
普天間問題などで盾にヒビを入れたのは誰だったか。
「命を守りたい」と言いながら国民の生命を累卵の危うきに置く“友愛外交”が続いていたら――
背筋に冷たいものが走る。
菅首相は外交戦略の立て直しを急ぐべきである。
次に邪悪なサーベルの向かう先が、日本でないとは誰も言えない。