9月30日 おはよう日本
高級食材としての伊勢えびは卵からかえして育てることが難しく
養殖の技術はまだ確立していない。
三重県の水産研究所が全国で初めて人工ふ化させた伊勢えびを海に放流した。
ダイバーがそっと海に放しているのは伊勢えびの子ども。
海に入ったのはこの日が初めてである。
人の手で育てられた伊勢えびが初めて海に放流された。
伊勢えびを育てたのは三重県水産研究所。
三重県特産の伊勢えびを将来にわたって安定的に捕ることができるよう
80年以上にわたって人工的に育てる研究を続けている。
(三重県水産研究所 松田浩一主幹研究員)
「人工的な伊勢えびを放流して自然に育ったものを捕ってもらう。
技術を開発しておけば伊勢えびの漁獲の安定化につながる。」
幼生(フィロゾーマ)伊勢えびの赤ちゃんは体が透明で足が長く
大人の伊勢えびとは全く違う姿をしている。
1年近く海に漂いながら約30回の脱皮を繰り返し
親と同じ姿をした2cmほどの稚えびになると沿岸部の岩場にたどり着き成長していく。
研究所ではいまから20年余前に幼生を稚えびまで育てることに成功した。
世界初の快挙だったが当時稚えびまで育った割合は約0,1%。
実用化にはまだまだ課題があった。
飼育の難しさは幼生の繊細な体にあった。
厚さわずか0,03ミリの体に細長い足。
とても傷つきやすく病気にもかかりやすいのでほとんどが1年以内に死んでしまった。
(松田浩一主幹研究員)
「手足が非常に細くて繊細で長い。
幼生同士がからまったりして足が取れたりとうまく飼えなかった。
10年前意外なことが起きた。
鳥羽水族館が伊勢えびの幼生を展示したときのことである。
松田さんが提供した幼生は予想を超える数が稚えびまで育った。
なぜ水族館での飼育はうまくいったのか。
違いは水槽にあった。
水族館は海月の展示に使う丸いパイプのような形をした水槽を使った。
ポイントは海月を飼育するときと同じ水の流れだった。
水槽の縁に沿って水を回すような流れを作り
幼生を水槽の中に分散させていたのである。
さらに水槽の側面を黒い板で覆った。
海の中の幼生は水深200mの深海で暮らしている。
光のささない深海の環境に近づけた。
その結果 今では稚えびまで育つ割合が約60%にまで上がった。
多くの稚えびを育て上げるようになった。
稚えびの確保にめどが立ったため研究は次のステージへ進むことになった。
人の手で育てられた伊勢えびが自然界で生きていけるのか。
25匹を海に放して確かめることにした。
天然ものと見分けがつくよう背中にはタグを付けている。
放流されるとすぐに海藻の影や岩の隙間に向かっていった。
(松田浩一主幹研究員)
「天然のえびに混じって放流したえびも確認できたので
仲間はずれにされていないとわかり安心して今後研究できる。
大規模でたくさんの稚えびを生産してそれを実際に放流して
実用化に向けたコストを下げた大量飼育を実現させていきたい。」
人工ふ化させたイセエビを人の手で育てる苦労を乗り越えてやっとたどり着いた放流。
伊勢えびの安定的な漁獲に向けた大きな1歩を踏み出した。