10月11日 編集手帳
終戦の8年後、
1953年に大相撲のテレビ中継は始まった。
「それからですね、
土曜日曜が必ず『満員御礼』になったのは」。
昭和の名横綱、
初代若乃花の花田勝治さんが述懐している。
それ以前は「よく入ったときで半分そこそこ」だったという。
『昭和史が面白い』(半藤一利編著、文芸春秋)から引いた。
戦前のラジオ放送開始のときも観客が急増したと、
こちらは往年の名解説者、
元関脇出羽錦の奈良崎忠雄さんが同じ本で語っている。
観戦の疑似体験が実体験への渇望を呼び覚ましたのだろう。
書物や映画でふれた風物を求めて旅に出る人もいる。
そうかと思えばパソコンやスマホを眺めるばかりの若者もいる。
昔ながらの媒体に比べ、
実体験に誘(いざな)う働きがインター ネットは強くないのかもしれない。
先週の日曜ときょうの本紙に作家の椎名誠さんが登場している(一部地域を除く)。
先週の記事で、
ネットやテレビではわか らないものがあると話していた。
「それは、
においなんですよ」
少し外に出るとわかる。
キンモクセイが香る。
ギンナンがにおう。
現実の世界でしか味わえな い秋が確かにある。