1月1日 編集手帳
はて元旦紙面に何を書こうか。
この年の瀬、
通勤の電車内でぼんやり考えていたとき、
一人の初老の男性が両手にいくつもの紙袋を抱えて乗り込んできた。
会社のネームの入った事務服を着ている。
ほぼ間違いなく、
暮れのお得意さん回りだろう。
袋からはよく知られた銘酒の箱がのぞく。
一升瓶7、8本でどんな重さになるのか。
電車が揺れると、
両腕はいかにもつらそうだが、
眉間にしわを寄せ、
踏ん張って立っていた。
ふと、
作家の内田百閒(ひゃっけん)が玄関先に並べて貼ったという二つの狂歌を浮かべた。
<世の中に人の来るこそうるさけれ
とはいうもののお前ではなし>
<世の中に人の来るこそうれしけれ
とはいうもののお前ではなし>
前者であれば、
うれしい。
後者であれば、
悲しすぎる。
酸いも甘いも、
両方あるのが人間社会の常にちがいない。
電車のなかでは一言もいえなかったけれど、
思えば、
コラムで応援の声を張りあげることはできる。
奮闘努力する人の姿をみれば、
報われますようにと祈りたい。
くじけそうなら、
頑張ってと励ましたい。
市井の悲喜こもごもに寄り添う「編集手帳」でありたい。