1月11日 おはよう日本
三重県北西部にある御在所岳。
頂上まではロープウェイで15分ほど。
標高1212mの頂上付近では木々が真っ白に染まっている。
厳しい冬山が作り出す自然の造形
樹氷である。
美しい風景を目当てに多くの人が訪れる。
しかし樹氷が出来るのは年によってはほんの数日だけ。
しかも気温が上がるとすぐに溶けてしまい
見られずに帰る人も少なくない。
(観光客)
「せっかくなのに見たかったです。」
「インターネットで調べ
楽しみに来たんですけど残念ですね きょうは。」
樹氷はいつ見られるのか。
独自の予報を始めた人がふもとの温泉街 湯の山温泉にいる。
関谷不二夫さん(65)。
老舗旅館の従業員である。
“樹氷予報”はこの冬から掲示板に張り出している。
可能性が高い順に
A B Cの3段階で示す。
(関谷不二夫さん)
「信頼できるつもりでやっていますけど
予報は予報。
ちょっとでもお客さんに樹氷の景色を楽しむチャンスを与えたい。」
じつは関谷さんは自宅に風速計や百葉箱まで設置する“気象マニア”。
独学で気象予報士の資格も取った。
その関谷さんを引きつけてきたのが
御在所岳に気まぐれに現れる樹氷。
この山に樹氷が出来るのは日本海からの季節風が関係している。
御在所岳が位置するのは日本海からはわずか80kmの場所。
間に高い山がないため
水分多く含んだ冷たい季節風が直接山に吹き付ける。
この風が木にぶつかって水分が氷の結晶に変わり
樹氷になる。
現れるのは気温や湿度
風向きなどの気象条件が揃ったときだけ。
その日を事前に予想することはできないか。
関谷さんは約20年分の気象データを独自に分析。
樹氷が発生するのは氷点下3度以下の気温に加え
北西から風速10m以上の風が吹いている時だと付き止めた。
(関谷不二夫さん)
「最初はあきらめていたけどそのうち はまってしまった。
興味のある部分に絞ってやれば
経験を積めば分かってくる。
精度を上げるようにしたい。」
12月23日
関谷さんは御在所岳に向かった。
観光客が増える年末年始を間近に控え
樹氷が見られるのかどうか心配していたからである。
例年であれば樹氷が発生している時期だが
ここ数日 暖かい日が続き樹氷は全く無い。
この時 関谷さんが空に何かを見つけた。
うすい筋状の雲 巻雲である。
(関谷不二夫さん)
「ぼやっとした雲は天気が下り坂になる印。
徐々にあしたになって下り坂になる。」
樹氷をもたらす日本海からの季節風が吹く兆しである。
そしてよいよ年末休みが始まる前日の12月28日。
直前までデータの検討を続けた関谷さん。
出した翌日の予報は
樹氷が見られる可能性が最も高い“A”。
お客さんも関心を持ったようである。
予報は当たっているのか。
翌朝 関谷さんは自ら登って確かめることにした。
(関谷不二夫さん)
「プレッシャーがあるような感じですね。」
旅館で予報を見ていた観光客も一緒である。
予報は的中。
大きく発達した見事な樹氷である。
(関谷不二夫さん)
「お客さんみたいに
初めて来て
すばらしいという人もいるし。
きょうはラッキーです。」
「樹氷ができるかなという気象条件のときはワクワクしますね。
全然なかったのに一晩で真っ白になったり
無くなったりするので
それはそれで美しさがありますね。
こんな魅力が御在所岳にあるんだと発見するなり
いい思い出の一つとして残していただけたらいいなと思う。」
気まぐれに現れる神秘の造形。
樹氷予報が会わせてくれた
冬の輝きである。