9月29日 読売新聞「編集手帳」
徳冨蘆花は神奈川県の逗子に住んだ時期がある。
小説の『不如帰(ほととぎす)』と並び称される名随筆『自然と人生』(岩波文庫)に、
湘南海岸から自然や季節の移ろいに目を凝らしたようすがうかがえる。
一つに夕日がある。
湘南地域からは、
冬至には伊豆の天城山、
春分や秋分のおりには富士山に太陽が沈んでいくと記している。
秋のお彼岸から間もないきのう、
富士山の初冠雪が確認された.
どんな景色だろう。
紅色の夕日と、
その色に染まる雪と。
富士山もモミジやカエデに負けじと、
紅くなるのかもしれない。
秋がようやく秋らしくなってきた.
夕日はふしぎなことに、
昼間に高い場所にある太陽よりもずっと大きく見える。
これを孔子が証明しようとして、
できなかったとも伝えられている。
それもそのはずで、
夕日が地球に近づくことで起こる現象では当然ない。
何でも人間の視野は上下より水平方向に広いため、
空より地平線付近にあるものが大きいように錯覚するのだとか.
巨大な熱源のようだった今夏の西日を思い出す。
もうエアコンを消して寝てもよいですね。
と、
やさしくなったお日様に念を押してみる。