9月30日 NHKBS1「キャッチ!世界のトップニュース」
米中対立の激化は両国の人々にさまざまな形で影響を与えている。
アメリカで学ぶ中国人の留学生も例外ではない。
その数は約37万人。
アメリカにいる留学生のうち3人に1人が中国人というデータもある。
夢を抱いてアメリカに渡ったものの
将来に不安を抱く中学人留学生。
アメリカ西海岸を代表する大学の1つ
カリフォルニア大学ロサンゼルス校。
アジア系の学生が多く
中国人の留学生だけでも3,200人以上が学んでいる。
中国からの留学生の1人 王さん。
博士課程でバイオサイエンスを専攻している。
大学に勤める両親の影響もあり小さい頃から科学に興味を持っていた汪さん。
成績は常にトップクラスで
名門 北京大学の医学部を卒業した。
(中国人留学生 王さん)
「学校医の科目では化学が好きでした。
アメリカに来たのは
科学のキャリアと異文化を知るという夢を実現するためです。」
王さんはこの夏シアトルに長期滞在し企業のインターンに参加していた。
博士号をとった後アメリカで働くことが
将来のキャリア形成につながると考えてきたからである。
(王さん)
「バイオや医療分野では
アメリカの方が中国寄り資金面で恵まれていると思います。
ですから卒業後もアメリカで住み続けたいです。」
そんな王さんを悩ませているのが激しさを増すアメリカと中国の対立である。
国連総会(9月22日)でもトランプ大統領と習近平国家主席が激しく応酬した。
(アメリカ トランプ大統領)
「我々は明るい未来を実現するためにウイルスを放った中国に責任を取らせる。」
(中国 習近平国家主席)
「WTOを基盤とする多国間貿易体制を維持し
単独主義 保護主義には鮮明に反対する。」
王さんに最近の米中の対立について意見を求めると
(王さん)
「アメリカ社会は中国人留学生に対して不親切になっているように見えます。
私自身は被害にあっていません。
私の周りの人はリベラルなので
“中国人留学生はスパイ”なんて話がバカげていることも分かっています。」
9月10日にはアメリカ国務省が中国人1,000人以上のビザを取り消したことが判明。
アメリカの大学や研究機関から知的財産や高度な技術が中国に流出するのを防ぐためとしている。
先端技術の研究をする自分たちも標的になるかもしれない。
そう感じている王さん。
今後の進路に迷いが出始めている。
(王さん)
「“歓迎されないなら帰国して一緒に働こう”と中国の知人に言われます。
そうすればとても価値のある仕事に就けるし
心地よく暮らせるでしょう。」
アメリカの高等教育の事情を長年取材してきたカリン・フィッシャーさん。
外国から優秀な人材が来なくなると
結局は
アメリカの経済力や開発力を削ぐ結果になると指摘する。
(教育ジャーナリスト カリン・フィッシャーさん)
「アメリカの大学は
留学生を受け入れ海外の大学と協力することで強じんになることができるのです。
海外とのつながりが弱くなると国力が落ちる可能性があります。」
アメリカで最先端の技術を研究する中国人留学生にも米中対立の影響は出始めている。
その背景にある1つが
アメリカでの中国に対する感情の悪化である。
ピュ―・リサーチセンターが7月下旬に発表した調査結果では
中国の印象を“好ましくない”と答えた人が73%にのぼった。
2017年の同調査では“好ましくない”と答えた人は47%だったので
トランプ政権が厳しい政策を取り続けるなか
国民の対中感情も悪化してきたことがわかる。
中国人留学生の多くが将来性を見込んで学んでいるのがITやバイオテクノロジーの分野である。
ITの分野では中国出身でアメリカに渡り世界的な成功を収めた人もいる。
またシリコンバレーでは
“ITやバイオテクノロジーなどの分野で働く人の6割近くは外国出身”というデータもある。
アメリカにいる留学生の3人に1人は中国出身なので
この人たちが卒業後アメリカに残らないということになると
企業への有能な人材の供給に影響が出るのは避けられないかもしれない。
米中はハイテク分野でも激しく対立しているが
両国の市民や企業を巻き込みながらさらに激しさを増していくことが予想される。
アメリカのトランプ政権は
中国企業が運営する動画共有アプリの「TikTok」やSNSの「WeChat」について
米国内で使用を禁止する方針を打ち出している。
今のところアメリカの裁判所が禁止措置を差し止めているため
アプリの利用に変化はないが
ソーシャルメディアという身近の分野にも対立の影響が及んでいることを示している。
一方 中国政府は9月
主権や安全を損ねる外国企業などをリスト化して
罰則を科すための新たな制度を発表している。
アメリカの企業も対象になりうる制度の運用を開始することで
アメリカ政府をけん制していく狙いがあり
両国の軋轢が深まることになりそうである。