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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

スウィーニー・トッド

2008-04-29 18:31:32 | 映画(さ)
評価点:41点/2007年/アメリカ

監督:ティム・バートン

やっぱりティム・バートン。

ロンドンの理髪師バーカー(ジョニー・デップ)は、美しい妻と娘をもち、幸せに暮らしていた。
しかし、妻に惚れた判事は、いわれのない罪でパーカーを終身刑にし、妻を奪ってしまう。
15年後、ロンドンに再び戻ってきたバーカーはトッドという名を名乗り、判事に復讐すべく、再び理髪店を経営し始めるが…。

最近のティム・バートン監督といえば、もちろん「ビッグ・フィッシュ」である。
当たり外れの大きい映画監督としても知られる彼だが、彼の私生活がうまくいっているときは駄作が生まれ、私生活が厳しい状態であればとんでもない良作が生まれるという。
今回は果たしてどうだったのか。

第80回アカデミー賞にノミネートされながらも、また受賞を逃したジョニー・デップが主演というのでも話題だ。
「パイレーツ・オブ・カリビアン」(まだ観てません)で人気に拍車がかかっているところをみれば、この映画も見に行こうとしている人が多いことだろう。

あるいは、ミュージカル作品ということで食指を動かされる人がいるかもしれない。
ヘアスプレー」のヒットによって、ミュージカルもホットなジャンルの一つだろう。

どんな動機で観るにせよ、過剰な期待は禁物だ。
絶対にしてはいけないことは、血の嫌いな女の子とのデートとして、この映画をチョイスするのは、非常に危険なことであり、愚かなことだ。
なぜR-15指定なのか、もう少しリサーチすることをおすすめする。

 
▼以下はネタバレあり▼

はっきり言って、おもしろくはない。
だが、この未完成さが、紛れもなくティム・バートンなのだ。
むしろ「ビッグ・フィッシュ」などという名作は、彼にとって真骨頂ではない。
これくらいの駄作が、ティム・バートンの身の丈にあっていて、ほっとする。
そういう作品だ。

この映画がおもしろくない点は二点だけだ。
一つはミュージカルと呼ぶにはあまりにも歌の扱いが低いこと。
もう一つは、人物造形があまりにも薄っぺらいこと。

ほかの映画サイトなどを見ていると、なぜか「歌がよかった」という評価がけっこうあった。
僕も楽曲やミュージカルに強い方ではないので、大きなことを言うつもりはないが、この映画の楽曲の扱いは最悪だと思う。
歌がどうこう、楽曲がどうこうという問題ではない。
僕が致命的だと感じたのは、ミュージカルなのに、楽曲扱いがあまりにも低意識だということだ。
歌がこの映画の見所なんです、という気概が全く伝わってこない。
何曲あるのか知らないが、そのどれもが見せ場として成立し得ない。
ただ、状況説明、心情吐露のためだけに、いわば「説明的に」歌を挿入している。
この映画に歌が絶対に必要なのだという必然性さえない。
ミュージカルとして撮る意義を感じないのだ。

ティム・バートンの失敗はここにある。
当然扱いが悪いということは、楽曲それ自体の質も悪い。
歌い手は固定されているし、その歌も同じような調子の歌ばかり。
おもわず口ずさんだり、記憶に残ったりするような楽曲は一曲もない。
ジョニー・デップが歌っているということだけが、この映画の唯一のミュージカルである所以を保持している。
だが、それもファン以外は大して惹かれることではない。

歌がだめでも、物語として楽しければ何とか1800円は価値があると思えるだろうが、話も「てんで」だ。
イギリスでは「殺人理髪師と人肉パイ屋」はすごく有名だということだが、
日本では聞いたこともない人がほとんどだろう。
それなのに、人物に対する説明的描写が全然ない。
原因は物語のスタートだ。
幸せな家庭を壊され、復讐するために戻ってくるところから始まるため、どれだけ愛していたか、それをどれだけ悔しい思いで壊されたか、復讐するために、どれだけの憎しみを持っていたか、という物語の根幹がすっぽりと抜け落ちている。
回想という形でなんとか理解できるレベルにはあるものの、「自分の身に起こったこと」として感情移入できるレベルではない。
だから、悲しみの物語なのに、どこか悲壮感がない。

それはラストまで引きずってしまう。
ラストで精神病患者として浮浪者になってしまった妻を知ってしまうシーンは、物語としての見せ場だったはずだ。
だが、その悲しみは、半分も伝わらないようなシーンになっている。
そのシーンだけが悪いのではなく、それまでの「もっていきかた」があまりにも軽いからだろう。
時間をかけて説明するということを怠ってしまったことがすべての原因だ。

映像のおもしろさやコミカルに人を殺し、そしてパイにしていく、というシニカルさがきっと見所なのだろう。
そして、その世界観はロンドンという街とすごくマッチしている。
だが、肝心の話と歌がこれでは、それも生きてこない。
チカラを入れるべき箇所を完全にミスってしまったようだ。

長年映画化したかった念願の作品だそうだ。
「なのに」なのか、「だから」なのか。
映画として他人に見せるレベルにはないと思う。

(2008/2/28執筆)

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