評価点:76点/2015年/イギリス/129分
監督:マシュー・ヴォーン
ウィットに満ちたヒーロー像。
人知れず活動する諜報組織にいた男が任務途中に仲間を守り殉職した。
その息子、ゲイリー・“エグジー”・アンウィン(タロン・エガートン)はその殉職を伝えに来たハリー・ハート(コリン・ファース)からメダルをもらう。
「なにか困ったことがあったら連絡をしろ」と。
成長したエグジーはちょっとしたいざこざから警察に拘束されてしまう。
メダルを思い出したエグジーは電話すると、即刻釈放された。
目の前に表れたハリーは、エージェントにならないかと誘ってきた。
職もない、ふらふらした生活から抜け出すために、彼はエージェント「キングズマン」を目指す。
「キック・アス」の監督によるスパイアクション映画。
映画館で見るつもりだったが、例によって見損ねた。
レンタルでみることにした。
正直あまり期待せずに再生ボタンを押したわけだが、なかなかおもしろい作品だった。
暇つぶしにはちょうどいい。
暇ではないのだけれど。
▼以下はネタバレあり▼
キングスマンが立ち上がった理由は第一次世界大戦での悲劇だった。
国と国が争う世界では、第三者的な立場から危険を取り除かねばならないことに気づいた著名人達が基金を立ち上げ、秘密組織に育て上げた。
そのキングスマンと対峙するのはカメレオン俳優のサミュエル・L・ジャクソンが演じるリッチモンド・ヴァレンタイン。
彼も戦争の悲劇を体験し、この世界が淘汰されるべきであると感じる。
戦争がいつまでもなくならないのは、しょうもない人間がわんさかいることが原因だと結論づける。
他人に期待してもしかたがないなら、人を減らす努力を自らしてみようと。
ともにいかにもマンガ的な発想で、幼稚なものだ。
しかし、これほどまでに複雑化した世界では、このようなシンプルな理論こそ理想的な思考メカニズムにみえて、説得力がある。
もちろん、すべてはタラレバだが、そのタラレバさえクリアしてしまえば、俄然おもしろくなる。
この映画のおもしろいところは、ともにマンガ的な思考であっても、出所は全く同じということだ。
この世界の悲しみを消すためにはどのような行動(方法)が最適なのか。
秘密結社をつくって諜報活動を行っていくことなのか、血を見ずに血を生み出す方法で人を減らしていくべきなのか。
敵に説得力があれば、物語はおもしろくなる。
そして、この映画のテーマが一貫しているところも大切なポイントだった。
それは、「怒りに我をまかせない」ということだ。
どれほど世の中に怒りを感じたとしても、それをそのままの形で発散させようとしてしまうと、必ず痛い目にあうのだ、ということだ。
キングスマンの先輩、ハリーは敵の術中にはまり、怒りをコントロールできない状態になり、協会で大暴れする。
このシークエンスは迫力満点だが、相手が素人(守るべき一般人)であると考えると、いささか不謹慎にさえ思える。
だが、その「やりすぎ」を全面に出すことで、闘うべき相手が内にあることを観客に伝える。
だから、ハリーは殺されてしまう。
怒りにまかせて我をわすれてしまうと、それは「紳士」ではないからだ。
この物語の主人公エグジーが荒くれ者だったのに、やがて紳士へと成長していく物語になっている。
それは、怒りをどれだけコントロールして、悪を倒すのかというテーマでもある。
怒りの論理によって世の中が進む中、非常にわかりやすくそしておもしろく、その危険性について描いたといえる。
マンガ的でありながら、説得力があり、そして「何を憎むべきか」という物語がきちんとしている。
だからおもしろい。
ただ過激な描写があればいいというものではないのだ。
また、こういう作品ならどうしても次回作、次回作と人気シリーズにしたいところなのに、潔く中心のハリーを殺し、マイケル・ケインを悪役にしてしまうなど、完結性を持たせようとしているのも好感が持てる。
日本人にはわかりにくい「紳士像」が、とてもわかりやすく提示されていて、楽しかった。
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