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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

交渉人

2018-11-30 17:38:23 | 映画(か)
評価点:85点/1998年/アメリカ/139分

監督:F・ゲイリー・グレイ

築かれた信頼関係。

人質事件を専門に扱う交渉人であるダニー(サミュエル・L・ジャクソン)は、また無傷で人質事件を解決し、署長の誕生日を皆で祝っていた。
そのとき相棒のネイサンが「傷害保険を不正に流用している者がいる。その中には仲間たちが含まれている」と話す。
詳しい話ができずに、別れたダニーは、夜中に再び呼び出される。
しかし、約束の場所でネイサンは銃殺されていた。
ある朝、彼の元に逮捕状が届き、彼の家から海外の隠し口座が発見される。
だまされたことを知ったダニーは、ネイサンが口にしていた内務捜査官のニーバウムに話をつけるため、連邦捜査局に向かう。
口を割らないニーバウムを、ダニーは人質にとって自分の無実を晴らそうとする。
その交渉役に呼ばれたのは、ダニーと同じく人質交渉人のセイビアン(ケヴィン・スペイシー)だった。

若かりし頃、劇場で見に行った。
それ以来何度もテレビやビデオで見直した作品で、私には強い思い入れがある。
恐らく、映画を映画館で見始めたころに鑑賞したこともあり、私の中で一つの基準やお手本にもなった作品だろう。

Amazonプライムで見直したところ、私のその感覚は間違っていなかったと確信する。
ああ、こういうところがこの映画のすごいところだったのだ、と改めて教科書とも言える完成度だった。

▼以下はネタバレあり▼

交渉人を題材にした作品は、この映画以降急激に増えていく。
交渉人という職業が存在することを、映画で知らせたという意味でも、この映画の存在意義は大きい。
当時殆ど(日本だけなのかもしれないが)一般に知られていなかったからか、映画の中でも役職に関する説明的描写もある。
「犯人も人質も殺させない」という強い意志は、この映画の一貫したスタンスとなっている。
また、犯罪や殺人を嫌う多くの観客の価値観とも一致するだろう。
人質をとった交渉人ダニーが、誰一人殺さなかったということがこの映画の倫理観だし、面白さを補強する。

だが、この映画の本当におもしろい点は、上映時間とともに確実に信頼関係を築いていくことだ。
この映画はダニーとセイビアンとが対峙したときに、三すくみの形になる。
つまり、はめられたと信じるダニーと、人質事件を無血開城させたいセイビアン、ダニーを殺して真犯人に仕立て上げたい横領の警察官たち。
観客はダニーがはめられたと信じているが、セイビアンはダニーを信じ切るに足る証拠や確信がない。
早く解決してしまいたい真犯人たちは、とにかく彼を興奮させて「危険な状態である」ことを印象づけ強行突破したい。

当然だが、交渉人という職業をよく思っていない部隊たちも、強行突破した方が「話が早い」と思っている。
どこまでが真犯人の手先で、どこまでがそういう「仲間内の覇権争い」なのかわからないようになっている。
だが、確実に一つ一つ事件の輪郭を明確にすることで、信頼関係を築いていくのだ。

それは、ダニーとセイビアンとの関係だ。
セイビアンは犯人と交渉人という役を演じながら、ダニーが信じるに足る人間であることを次第に確信していく。
ダニーもまたセイビアンとのやりとりを間違えなければ、自分を信じてくれる理性的で公平な人間であるということを確信していく。
敵対しながらも、同時に信頼していくという関係性を、裏切られたダニーが見せることで、観客は引き込まれていくのだ。
そしてダニーが周りに信頼されていた人物であることが浮き彫りになっていく。
人質たちも、少しずつ本当の悪玉は彼ではないということを実感していく。
私たち観客は、しっかりした描かれかたをするダニーに、感情移入しながら、事件が少しずつ解決に向けて進展していく様子を、人質を通して実感していくことになる。

だが、一方で事件の全貌が明らかにされるということは、すなわち犯人たちにとっては都合が悪くなっていくということを意味する。
だから物語はいっそう緊迫感が増すわけだ。
この構図が非常に巧みに描かれている。

だが、本当に信頼関係を築くのは、実は観客と監督(映画制作陣)とである。
一人一人を捉えるカメラワークや音楽、効果音、そういった一つ一つの演出が、この映画が正しい方向に導かれていくことを印象づける。
ダニーに引き込まれる演説よりも、それを引き込まれるように捉えた監督たちがすごいのだ。

どこかのイリュージョンの続編とは全く異なって、素晴らしい信頼関係を築いた、それがこの映画の全てだろう。



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