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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

マッチスティック・メン

2008-03-20 16:33:41 | 映画(ま)
評価点:71点/アメリカ映画/2003年

監督:リドリー・スコット

リドリー・スコット監督が仕掛ける、詐欺映画。

過度の潔癖症であり、広場恐怖症の詐欺師、ロイ(ニコラス・ケイジ)は、愛用している精神安定剤をキッチンの流しに落としてしまう。
イライラをとめられないロイは、たまりかねて行きつけの医者に電話するが、夜逃げでつかまらない。
相棒のフランク(サム・ロックウェル)の紹介で、分析医に薬を貰うことに。
しかし、分析医は過剰な処方箋は書けないという。
分析医に促されるままに、質問に答えていくと、イライラの原因は、独身の孤独であり、別れた女房に連絡するように勧められる。
その晩、連絡しようと試みるが、どうしても連絡する決心がつかない。
翌日、その分析医に元妻への連絡を頼む。
連絡を取ったという分析医の話によると、14になる娘がいて、そのアンジェラ(アリソン・ローマン)が会いたいといっているという。
初めて娘に出会い、ロイは少しずつ変わっていくのだった。

様々なジャンルの映画を撮り続けてきたリドリー・スコットだが、今回は、コメディに挑戦した。
「ハンニバル」はあまり好きになれなかった(そもそも原作がキツかった)が、
エイリアン」や「グラディエーター」など、個人的には、好きな作品が多い。
そしてなんといっても、主演がニコラス・ケイジでは、観にいかないといけないだろう。

▼以下はネタバレあり▼

基本的に、映画を観る前は、余計な知識を入れないで、観にいく方なので、「詐欺師に娘がいることがわかり、その娘がなにやら曲者らしい」ということと、「結末で観客をだます」ということぐらいで、後は、CMで見た程度だった。
あのCMを見る限り、「シックス・センス」で見事にだまされてしまった僕としては、どうしても謎を見破ってやる、という意気込みで観ざるを得ない。
また、リドリー・スコットということもあり、どうしても期待してしまう。
だから少し疑いの目を絶えず持ちながら観ることになってしまった。

この映画をコメディとするか、クライム・ムービーとするか、難しいところだが、まあ、期待していたわりには面白かったと思う。
しかし、問題は、オチがバレバレだったということだ。

ロイは、精神安定のために飲んでいた、違法な薬を台所に流してしまう。
新たに薬を手に入れようと、かかりつけの医者に電話をするも、夜逃げで行方知れず。相棒のフランクに電話すると、腕のいい分析医を紹介すると言われる。
そして分析医に遭うと、診察よりも、ロイの日ごろの悩みについて聞き始める。
そこで、女房とは、彼女が妊娠中に別れてしまい、息子(あるいは娘)が今いれば、14歳くらいになっているという。
自分では電話が出来なかったロイは、分析医に電話を頼んでしまう。
そして電話をしたという分析医の話によれば、14歳の娘がいる、その娘がロイ会いたがっている、という。

そして、そのまま娘と会うことになり、娘という身内が現れ、ロイは部屋を散らかし続ける娘と格闘しながらも、精神のほうは安定を得ていく。
娘という柱を得たロイは、フランクが以前から持ちかけていた大きな詐欺に乗ることを決意。
娘のアンジェラに本来の「マッチスティック・メン」という職業を知られてしまい、トラブルとも重なり、アンジェラを計画に加担させることに。
しかし、カモに詐欺を見破られ、自宅にまで押しかけてきた。
アンジェラは、父親たちを救おうと、隠してあった銃を取り出し、相手に発砲してしまう。
相棒が判断するには、「もう助からない」という。
アンジェラを何とかかばうために、相棒と二人を逃がし、自宅に死体を処理しようとしたところを起き上がってきたカモに殴られ気絶してしまう。

気がついたロイの前には、二人の刑事。
アンジェラのことが気になるロイは、分析医を呼び寄せ、彼に貸し金庫の暗証番号を教え、眠りについてしまう。
気づいたロイが、病院を出ようとするとそこは病院ではなかった。
全てが「詐欺」であることを知ったロイは、完全に詐欺の道から足を洗い、新たな職に就くのである。

このような、観客を欺くタイプの話は、大方二つのパターンしかない。
ひとつは、キャスト全員を使って観客をだますタイプ。
もうひとつは、だまされる登場人物を通して、その人物とその人物に感情移入している観客をだますか。
この映画で言うならば、ロイを通して観客をだますということだ。
そして、後者の映画であるならば、分析医に言う「娘」が登場してきた時点で、読めてしまう。
なぜなら、娘に関して言えば、ロイは全く「裏付け」をとっていないからだ。
個人的には、こんな単純なだまし方はしないだろうという思いもあり、ロイに感情移入している観客を、ロイがいかに裏切るのか、という映画だと思って観ていたが、そうではなかったようだ。

この映画がヨメヨメなのは、観客が錯覚を起こしてしまう方向がないからだ。
ミス・ディレクションの基本は、ある一定の事柄に向かうような事実だけを観客に提示することによって、観客に錯覚を起こさせ、ラストでその錯覚をひっくり返す本当の真相を提示する、と言えるだろう。
しかし、この映画では、観客をだますといっておきながら、観客が陥ってしまう錯覚の方向性が想定できないため、ラストがヨメヨメになってしまうのだ。
導かれていく「答え(オチ)」がひとつしか想定できない。
つまり、全てはロイを陥れるための詐欺である、ということだ。

具体的には、分析医は相棒フランクの紹介であること。
娘がいることへのはっきりとした裏付けがないこと。
フランクの紹介した仕事に対しても、裏付けがないこと。
分析医の診察方法が明らかにおかしいこと。
うまくだましたはずの詐欺相手が、急に駐車場に現れたこと。
フランクとアンジェラを逃がすとき、車に乗り込もうとしたフランクが一瞬顔をニヤつかせること。
フランクが「もう助からない」といったにも関わらず生きて反撃してきたこと。
病院にいた刑事がバッジを見せないこと。
などなど、枚挙に暇がないほど疑う部分が出てくる。
これでは読めないほうがおかしい。
CMがなければこんな穿った(うがった)見方をせずに純粋に楽しめたのだろうが、あのCMで、この内容では、まず間違いなく読めてしまう。

ただ、この映画の救いは、だまされなかったという怒りを、ラストの綺麗な終わり方でカタルシスが得られるために、多少和らげることができることだ。
また、あくまでコメディーなので、ニコラス・ケイジの特異な動きによって充分楽しめてしまう。

怒りの矛先を丸めさせた、リドリー・スコットの勝ち、というところだろうか。

にしても、14歳役(騙す設定上だが)に、24歳のアリソン・ローマンを起用したことはすごい。
キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」のレオナルド・ディカプリオもすごいけど、それに負けないくらいの「詐欺」である。

やはりCMによる映画への影響力はすさまじいと実感した。
「ほら、あなたはもう騙されてる」というあのフレーズを映画を観ているときに考えてしまい、オチが読めてしまった部分もある。
その点は少し残念だ。これもある意味、「詐欺だ」と言いたい。

(2003/10/12執筆)

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