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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

Mr.ノーバディ(V)

2022-04-01 18:28:46 | 映画(ま)
評価点:73点/2021年/アメリカ/92分

監督:イリヤ・ナイシュラー

何もかもが「アメリカ」。

工場の会計士として働いているハッチ・マンセル(ボブ・オデンカーク)は、毎日同じ生活をするどこにでもいるサラリーマン。
いつも火曜のゴミの日に間に合わない、家族からの信頼が厚いとは言えない男だ。
そんなある日、賊が押し入り、盗みに入ったところに出くわした。
息子は抵抗しようとしたが、彼は賊の言いなりになり、さらに威厳を失ってしまった。
しかし、娘のブレスレットがなくなっていることに気づき、取り返すことを決心する。
彼はタトゥーの工房を巡り、犯人の居所を突き止めるが……。

少し前に話題になったアクション映画。
タイトルが、私の大好きなSF映画と同じだったので、それだけで嫌悪して見に行かなかった。
アマゾンでなかなか早めに公開されたので、見ることにした。

話題になっただけのことはあり、おもしろい。
アメリカが求めていたおもしろさであり、こういう映画を楽しめるのはきっと「古い」人間だからだろう。
古き良きアメリカの強さを体験できるので、是非ご鑑賞を。

あわせて私の好きな「ミスター・ノーバディー」のほうも見てほしいのだけれど。
原題は「ノーバディ」なのだからそれでよかったじゃん、と思ってしまう。

▼以下はネタバレあり▼

一見イケていない親父だけれど、実はめっちゃ強い、というありきたりなパターンの映画だ。
96時間」「ジョン・ウィック」「イコライザー」などと同じ系譜だ。
「ダイハード」からくる流れともいえる。
非常に伝統的な、アクション映画の典型とも言える。

この映画がスマッシュヒットしたのは、こういう典型をなぞらえながらも、アメリカという国を象徴する記号がちりばめられているという点だ。
もうありとあらゆる点が、アメリカそのものとさえ言える。

かつて誰もが触れてはいけない、「存在しないはずの男」という異名を持っていたハッチは今では「平凡な男」であることを願っている。
けれども、娘のブレスレットが見当たらず、それを賊が持って行ったらしい可能性を知ったところで豹変する。
家族を守る男へと変わるのだ。

かつて世界の警察と恐れられていたアメリカも、今では国内を守るだけになっていた。
しかし、家族(=国内)を脅かされたとなれば話は別だ。
昔研いでいた牙を再び敵に向ける。

結果的にブレスレットは見つからなかったが、その帰りに人助けをしてしまう。
やっつけてしまった男たちはロシアンマフィアのボスの息子がふくまれていた。
怒り狂ったロシアンマフィアのユリアン(アレクセイ・セレブリャコフ)は、組織をあげてその「会計士」なるハッチを殺すことにする。
この対峙も、見事と言うほかない。

今ではウクライナとの戦争に忙しいロシアだが、この侵略はかなり前から噂されていた。
背景にあるロシアバブルの崩壊は、近々戦争という形で端緒を見出すことは国際情勢から見れば必然だった。
それを踏まえたのがこの映画の「ロシアンマフィア」である。
裏組織の年金という設定もまたうまい。

金が溢れた描写があるが、これは痛烈なロシアに対する皮肉になっている。
すでにこの映画が公開されていた頃から、ロシアの経済は厳しいものだったからだ。

話が脱線した。
とにかく、眠れるアメリカと、火の車になったロシア、その対比はわかりやすくそして国際情勢をぎりぎりかすめる物語設定になっている。
そのあとのアクションなどどうでもいい。
アクションに熱さが生まれるのは、こういう必然的に思わせる設定こそが重要だからだ。

アメリカ人とすれば溜飲をさげつつ、それでも一定の説得力を持って物語を楽しめる。
勝つのは分かっている。
勝つための映画だし、ランボーよりも強いのがアメリカだ。
やたらと残酷な描写が続くのも、結局は勧善懲悪を見せつけるためだ。
だから、その描写もむしろ笑えるくらいの作品になっている。

もちろんハッチが働いていたのが工場であるというのも、必然だ。
DYIで敵を陥れていくのは、自分が自分を管理するというアメリカの男のあり方を体現する。
はっきり言えばこういう無駄な細工は必要がなかった。
いちいちに罠を仕掛けて殺すべき必然性はない。
けれども、こういう日常にあるものを武器に変えていく、その変身そのものがアメリカなのだ。

見ている観客が日常と非日常の連続を感じながら、日常にいるはずの悪をやっつける。
そうだ、アメリカは正しい、ロシアなんてくそくらえだ!
そういう映画なのだ。

日常に帰ってきたとき、家庭に於いてもその地位を確立する。
まるで他国との戦争に勝って、凱旋してきたアメリカ兵のようだ。
もちろん、そんなことは現実に起こらない。
他国に勝ったり、勧善懲悪の善の側にアメリカが常に立ったりするとは限らない。
しかし、だから地下室つきの家を探す夫婦がまぶしいわけだ。
凱旋したとき、国内(家族)からも認められるアメリカ、それは一つの理想である。
徹頭徹尾、アメリカが望む映画を作ったわけだから、評価されて当然、というわけだ。


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