昨日キャロル・キングについて書いたから、という訳でもないですが(いや、やっぱりそのせいかな)、「きみの友だち」のもっとソウルフルなヴァージョンが聴きたくなって引っ張り出してきたのが、この「ダニー・ハサウェイ・ライヴ」です。
ぼくは今までいろんなライヴ・アルバムを聴いてきましたが、この「ダニー・ハサウェイ・ライヴ」は、その中でもベスト5に入れていいくらいの名盤だと言い切っていいでしょう。
おそらくライヴ・ハウスくらいの、そう大きくない会場での録音だと思いますが、その熱気はアリーナで録音されたライヴ・アルバムにひけをとるものではありません。
なによりも、ステージと客席の一体感が素晴らしい。ダニーの歌とバンドの演奏のエネルギーに酔った聴衆の反応の熱さ、まさにトリハダものです。
1曲目の「ホワッツ・ゴーイン・オン」であっという間にノックアウトされました。バンドが一体になって作り出す、寄せては返す波のように大きく柔らかいグルーヴがたまらないのです。力強く、それでいて優しくうねるリズムに、ただ身を任せるだけ。ダニーのヴォーカル自体もグルーヴしまくっています。
2曲目は「ゲットー」。ダニーの弾くエレクトリック・ピアノのイントロがルバートで始まり、無伴奏のヴォーカルがインテンポで入ります。ドラムスとパーカッションが生み出すビートに絡む、フィル・アップチャーチのギターのカッティングが絶妙。その上に乗って縦横無尽に音を紡ぎ出すダニーのエレクトリック・ピアノ・ソロのカッコいいこと!このノリの良さ、ただ事じゃありません。そしてそれに続き、ドラムスとコンガのバトルから、コンガのブレイク・ソロが繰り広げられます。客席はどんどんヒート・アップ。その後の客席のコーラスとダニーのヴォーカルの掛け合いも楽しい。
4曲目のイントロで客席から悲鳴にも似た歓声があがります。そう、あのキャロル・キングの名作、「きみの友だち」です。この曲におけるダニーのヴォーカルは、客席のひとりひとりに語りかけ、手を差し伸べてくれているような優しさにあふれている気がします。客席も一体となっての大コーラスはまさに感動的です。ほんと、こみ上げてくるものがあるんです。
ブルージーな3拍子のナンバー「ウィ・アー・スティル・フレンズ」、ジョン・レノンの曲をダニー流にアレンジした「ジェラス・ガイ」などが続き、いよいよラストの曲です。イントロから繰り出されるファンキーそのもののリズムには思わず腰が動いてしまう感じ。「ヴォイス・インサイド(エヴリシング・イズ・エヴリシング)」です。アフター・ビートが実にグルーヴィー。エレクトリック・ピアノのダニー、ギターのマイク・ハワードとコーネル・デュプリー、ベースのウィリー・ウィークスのソロが、これまた超ゴキゲンなんだな~。客席も、もう大盛り上がりです。
非常にソウルフルでありながら、マイルドなダニーの歌声がすんなりと耳になじみます。バックの演奏も実にファンキーで、生命力に富んでいるような気がしてなりません。各パートのバランスも素晴らしいですが、とくにベースのウィリー・ウィークスの存在の価値は特筆しておきたいと思います。
実際にこんなライヴを体験できたら、もう「興奮」とか「感激」なんかを通り越してしまうかもしれませんね。
ダニーの祖母はゴスペル・シンガーであり、ダニー自身も幼い頃からゴスペルを歌っていたといいます。大学時代のダニーは正規の音楽教育を受けたそうですが(ロバータ・フラックは大学でのクラスメート)、そういったインテリジェンスと、自分のルーツから来る音楽性とがダニーの中でうまく溶け合っているのでしょうね。
非常に洗練された感じのするソウル・ミュージックを創り上げていますが、それでいて決して黒っぽさは失われていません。
ダニーは黒人中産階級の出身でしたが、黒人の意識向上に関して問題意識を持っており、黒人下層社会に生きる同胞、つまりブラザーたちを勇気づける歌を歌い続けました。そういう姿勢が、ダニーの歌の根底に流れる優しさに繋がっているのでしょうね。
ただし、彼自身は「黒人社会の救世主的存在」になろうとしたわけではないようです。このあたりが、レコード会社の売り出し方とのズレに繋がっていったのかもしれません。
ダニー・ハサウェイは、1979年1月18日、滞在中のニューヨークのホテルの15階から身を投げ、自ら33歳の生涯を終えました。一説には鬱病が原因とも言われていますが、真相は不明です。
現在、ダニーの遺児であるレイラ・ハサウェイとケニヤ・ハサウェイは、姉妹そろってシンガーとして活動しています。とくにレイラは「現在のソウル・ディーヴァのひとり」とも言われる活躍ぶりです。父ダニーから受け継いだDNAが見事に花開いた、と言えるでしょうね。
◆ライヴ/Donny Hathaway Live
■歌・演奏
ダニー・ハサウェイ/Donny Hathaway
■録音
①~④ 1971年8月28~29日 トルバドール (ハリウッド)
⑤~⑧ 1971年10月27~29日 ビター・エンド (ニューヨーク)
■リリース
1972年2月
■プロデューサー
①~④ アリフ・マーディン/Arif Mardin
⑤~⑧ ジェリー・ウェクスラー & アリフ・マーディン/Jerry Wexler & Arif Mardin
■録音メンバー
ダニー・ハサウェイ/Donny Hathaway (vocals, electric-piano, piano, organ)
フィル・アップチャーチ/Phil Upchurch (lead-guitar ①~④)
コーネル・デュプリー/Cornell Dupree (lead-guitar ⑤~⑧)
マイク・ハワード/Mike Howard (guitar)
ウィリー・ウィークス/Willie Weeks (bass)
フレッド・ホワイト/Fred White (drums)
アール・デルーエン/Earl DeRouen (conga)
■収録曲
[side-A]
① 愛のゆくえ/What's Goin' On (M. Gaye, A. Cleveland, R. Benson)
② ゲットー/The Ghetto (D. Hathaway, L. Hutson)
③ ヘイ・ガール/Hey Girl (E. DeRouen)
④ きみの友だち/You've Got A Friend (C. King)
[side-B]
⑤ リトル・ゲットー・ボーイ/Little Ghetto Boy (E. DeRouen, E. Howard)
⑥ ウィ・アー・スティル・フレンズ/We're Still Friends (D. Hathaway, G. Watts)
⑦ ジェラス・ガイ/Jealous Guy (J. Lennon)
⑧ エヴリシング・イズ・エヴリシング/Voice Inside (Everything Is Everything) (R. Evans, P. Upchurch, R. Powell)
■チャート最高位
1972年週間アルバム・チャート アメリカ(ビルボード)18位
1972年週間R&Bアルバム・チャート アメリカ(ビルボード)4位
1972年週間ジャズ・アルバム・チャート アメリカ(ビルボード)10位